第6話 サークル

 先日の闇バイト事件から、数日が経過した。あの後は特に何かが起こるということもなかった。定期的にレイナが部屋に来るくらいだ。


 さて、本日は魔法騎士としての座学の授業を受けている。席は日本の大学みたいに自由席、後ろの席になる程、座る机と席が高くなっていくシステムである。


 窓側の一番後ろ、しかも端っこ、トンカツなら一番美味しい部分が俺の座席である。


「大地神ラキルディスは大地を広げ、この世界に豊穣をもたらした神と言われています。我が国の王族はそのラキルディスから力を授けられた一族だと言われており、その為、──」



 宗教国家ラキルディス。宗教国家と言われているが治めているのは王族であり、国王だ。それでも宗教国家と言われるのは、大地神を祀っていてその力を授かっているからだとか。


 まぁ、絶対都市伝説、陰謀論的なノリだろうけどね。神様は流石に居ないだろうし。正直、この世界に来てから一回も見たことがないし、前世でも怪しい宗教的な人とは喧嘩とかしたことあるが誰も見たことはないと言っていた。


 どの世界にも神様は存在しないのである。


 しかし、この世界ではかなり六大神は信仰されているらしい。授業でやっているし、王都でも祭りとかしているしね。


 ──ただ、レイナ曰く、信仰心は年々薄まっているように見えるとか。


『神々の信仰が薄まっているように感じます……やはり、社会的制度が構築され、人間が自分達で世界を構築しているからでしょうか』


そりゃ神様なんて居ないからね。薄れるのも当然だ。何年も祀っていても影すら出てこないんだからね。そりゃ居ないって思う人が増えてくるのも無理がない。



──ただ、レイナ曰く、人は昔よりも格段に増えているから信仰が薄くても総量は変わらないとか、だから神様は強いとか


『社会制度が安定し、人の数が増えそれが一定になっています。薄っすらと過去のお伽話のように、誰しもが神を知っているからこそ、無意識ながら信仰が多少あるからこそ、力の総量は変わっていないのでしょうね』

 

 すごい真面目な顔して言ってたけど、ちょっと頭大丈夫かなって思っていた。


 なんか、疲れてるんだろうなと素直に思ったのでハグしながら頭撫でて話ちゃんと聞いてあげた。



「さて、今日の授業はここまでだ。解散」



 教師の先生がそう言うと生徒達は一気に気が抜けたような表情をしている。俺のクラスは大体50人くらいで、全部で10クラス存在している。かなり数が多く、学年は三つあるので大きい高校のイメージだ。


 もちろんだが、俺は人が沢山多い学園でもほぼ一人で行動しているのである。基本的にだが、この学園は魔力主義な部分が多い。魔法が連射できるし、才があれば特別な魔法が使える。それで悪魔を倒したりすれば伸し上がれるからだ。



 その時、落ちこぼれで魔力ゼロの男と付き合いたい人がいるだろうか。ほぼいないのである。


 ほぼいない、と言ったのは僅かに連んでいるのか、そうでないのか分からない人がいるからだ。



「あ、レイン。お疲れ」

「……ふん、相変わらず気の抜けた男だ」



 俺が絡んでいる、唯一の男子生徒。それはレインと言う優秀な生徒である。

 この学園では生徒全員の左肩部分にエンブレムが付いており、優秀な生徒ごとに、金、銀、銅、青、黒になっている。


 レインの左肩には金色のエンブレムが輝いていた。うむ、すごく優秀でかっこいい。だが、彼もぼっちなのだ。女性生徒人気は高いらしいが、それでも彼はぼっちだ。



 結構柄が悪そうだからかもしれない。



「……お前、少しは焦れ。エンブレムが黒、落第もありうるぞ。落第は2回までしか認められない」

「まぁ、大丈夫だと思うけど」




 彼はぼっちであり、必ず同じ席に座る。俺はいつも後ろの端っこだが、彼はそれよりも少し前に座るのだ。黄昏ている彼の姿に目を奪われる女子生徒が多いらしい。


 少しだけ迷惑があるとすれば、そんな輝かしい男の近くに俺みたいなのがいると話す肉塊みたいに思われるかもしれないということだ。対比があまりに惨すぎるだろう。



 まぁ、いいけどね。



 レインと言う黒髪黒目に、眼鏡でイケメンで優秀な男がモテるのは当然なのだ。それに癇癪を起こす必要もない。


 ──本音を言えば腹立つが、同じぼっちだから若干許している。それに誰とも付き合っていないみたいなので、実質俺とレインは対等だ。


 だから、ギリ話しているのだ。偶にだけどね。結構一人でゆっくり自由に生きるのも嫌いではないしな。



 さて、昼飯でも食べに行くか。教室を出て、食堂でご飯をもらい席を確保する。二人席だが、前方には誰も座らな……



「あら、お兄様じゃない。相変わらずの孤独で安心したわ」

「リトルシスター。どうした?」

「席座らせてもらうわね」

「なんだ、お前ぼっちか」

「アンタに言われたくないんだけど。友達いるけど、あんまり話さないのよ」

「安心した、同じ血が通っているな。俺も話す友達はあんまりいない」

「嫌な共通点ね」



 イルザが前方に座ってきた。相変わらず、顔は可愛いのに言動は一ミリも可愛いとは思わない。



「お兄様は、友達作った方がいいんじゃないの?」

「友達ね。居ても困らないが凄く欲しいとかはないな。結構休日は忙しいし」

「なにしてるの?」

「バイト探しと、食べ歩き、温泉巡り、最近野菜育ててるし」

「充実!? お兄様のくせに!」

「ふっ、まだまだ孤独の趣味は俺には敵わないな。休日の昼間に、孤独のグルメごっこみたいに入ったことのない店に入るのは楽しい」

「意味わからないわ。でもちょっと羨ましいわね。アタシの友達、全員変わってるし」

「あぁ、金エンブレムだと忙しそうだな」

「そうよ。知ってると思うけど、第三王女様よ、それとナデコって子。全員金エンブレムだけど息苦しいというか」

「お前対人会話苦手だもんな」

「そうよ、何よ、悪い?」

「まさか、苦手なのに頑張って話してるのはかっこいいと思ってるよ」

「え!? あ、うん、あ、ありがと。ほ、褒めてくるとは予想外だったわ……」



 相手が第三王女様だと、確かに面倒だろうな。それに欲の亡者のナデコちゃんとなると凄く大変そうだ。面子が濃いから、イルザからしたらかなり苦手だろう。ビッグシスターや俺に甘えたがりな子だしな。



「……こほん、それで休日はどこで食べ歩きしてるの?」

「まぁ、隣町とか、他の国とか、レーンブルク宗教国家とか」

「……レーンブルクって、めちゃ遠いわよね?」

「あぁ、馬乗ってる。最近乗馬始めてるから」

「多才!? お兄様なのに多才!?」

「白銀に青い目の馬が妙に懐いてくれたんだ」

「へ、へぇ。他に始めたことってある?」

「猫飼い始めたな。銀髪に青い瞳の猫が気づいたら部屋に住みついててさ」

「……え? あの、他にあるの?」

「あ、あとデカい鳥と一緒に空飛んだり」

「!?」

「銀色に青い瞳の鳥が懐いてくれたんだ」

「どんだけ!? 動物に好かれてるの!? ほ、他には!?」

「うーん、あとは特にないか。結構市場調査とかが多かったり、バイトとかお金集めが主流だしな」

「……お兄様、お金欲しいの? てか、市場調査とは?」

「いずれ、何か売りたいから何が売れそうなのか考えてるんだ。俺魔力ないから魔法騎士で稼ぐよりも稼げないかなと。野菜育て始めたのもそれが理由」

「あ、そう。充実してるのね、羨ましいわ……あれね、可愛い妹と一緒に馬に乗って他の国に休日に行けばもっと充実するわね」



 あぁ、お出かけしたいのね。どうしようか、正直言えば凄くスルーしたいけどなぁ。したら文句言ってきそう。



「レイナが付いてくるけど、それでいいならいいぞ」

「……レイナ、あのメイドね」

「お前苦手だよな。レイナ」

「……雰囲気が嫌いなのよ。あと、お兄様と一緒にいつもコソコソしてるのが嫌、定期的に部屋に来てるでしょ」

「よく知ってるな」

「やっぱり……あいつならくると思った」

「変だがいいやつだろ」

「良いやつなのは知ってる。けど、雰囲気が……な、なんか、人間っぽくないというか。あの青瞳が、ちょっとこう、怖いというか」

「全然普通だろ」

「そう思ってるのお兄様だけよ。お父様もお母様も、お姉様だってちょっと警戒してたし」

「普通だと思うけどなぁ」

「なんか、今まで変だなって思ったことないの?」

「……あ」

「なにかあるのね」

「俺のおやつのクッキー勝手に食べたんだよ。あれ、高くて楽しみにしてたのに」

「……そういうのじゃなくて」

「……あ、これはクッキーに比べたら大したことないけど、この間レーンブルクに行ったら、気づいたら隣で飯食べてたな」

「いやいやいやいやいや!! クッキーより怖いって!」

「でも、気配の断ち方がイマイチだよ。近くにいるのわかって、あんまり驚かなかったし」

「……お兄様もやばいのね。知ってたけど」




 リトルシスターはレイナは苦手らしい。独特だが悪いやつじゃないのは分かりそうなものだけどね。ただ、人の好みはそれぞれだしな、全員に好かれる人が存在するわけない。



「にゃー」



 気づいたら俺の方に猫が寄ってきていた。銀髪に青瞳の猫だ。俺が部屋で飼っている猫と同じである。



「それ、飼ってる猫?」

「そうそう。名前は、銀色の毛に青い瞳はレイナに似てるから、レイにゃにしてる」

「ふーん……その猫、魔力かなり持ってない?」

「あー、確かに。そうだけど気にならなかったな」

「ふーん、ちょっと触って良い?」

「いいよ」



 リトルシスターはレイにゃの頭を撫でている。彼女は俺と違って動物からは好かれないので嬉しそうだ。



「うん、アタシ今まで動物に好かれたことないんだけど、なんか初めてちゃんと頭撫でれたわ!」

「そうだな」

「なんか、この猫、あのレイナに似てて、魔力めっちゃ多くて不自然だけど……まぁ、猫だし、可愛いなら何も問題ないわね!」

「うん。そうだな」

「今日、部屋行って良い? その猫と遊びたいし」




 そんなこんなで、授業が終わったあと、リトルシスターが男子寮にある俺の部屋に来た。彼女は俺の部屋を見て驚いてた。

 



「なんか、アタシの部屋と違くない? こ、こんなベッドってふかふかなの? 枕も凄い良いのだし、この良い匂いがするのは何?」

「知り合いからもらったよく眠れるようになる植物の花だな」

「こ、この時計、すごく高そうだけど」

「知り合いの老人剣士に入学祝いにもらった」

「え? あの、この、人形は何?」

「あぁ、これは【ポムン】っていう人形だな。数十年前に流行った人形らしい。今では生産もされないけど、かなり珍しい骨董品らしい。知り合いから入学祝いでもらった」

「ねぇ、この部屋って知り合いが色々弄ってくれたの?」

「そうだな」

「な、なにがぼっちよ! お兄様ずるいわ! あ、アタシより良い部屋じゃない!」



 そうは言われても革命団の人が全員、入学祝い持ってくるから使わないわけにもいかないのだ。



『だ、団長、わ、わたくしからの植物飾ってくれて嬉しいですわ!!!』

『うむ、当然だ。部下からの贈り物を無碍にする上司がどこにいる』

『だ、団長!』


 キルスとか泣いて喜んでたし、あれ使わなかったら絶対泣いてたな。どっちにしろ泣くけど、使わなくて泣かれるのは心が痛い。



「むむ、お兄様……ちょっと、待ってて!」



 そういうとリトルシスターは大急ぎで部屋を出て行った。その後、パジャマ姿で戻ってきた。



「何しにきた」

「寝たいから来たのよ。アタシ、この布団で寝てみたかったし」

「えぇ……」

「ほら、隣で添い寝しなさいよ! お兄ちゃんでしょ!」

「あ、はいはい」

「えへへ、久しぶりだぁ」

「え?」

「あ、な、なんでもないわ。危ない、素が出たわ」




 甘えん坊、それに加えて最近なれない学校生活で寂しかったのだろう。めっちゃ強めのハグをしながら寝ている。


 良い布団だからだろうか。彼女はすぐに寝てしまった。


「ゼロ様」

「レイナか」

「はい」

「イルザ様、寝ていらっしゃいますね」

「そうだな」

「さて、あまり大きな声では話せませんが、少し気になる話がありまして」

「聞こう」



 レイナが窓から入ってきた。話があるらしいのでそのまま聞くことに俺はした。どうせ革命団絡みだろうが。



「第三王女様、イルザ様とよく絡んでいらっしゃいますよね」

「らしいな」

「その王女様は六大神について、よく調べているようです」

「神様ね。まぁ、宗教国家だしね、王族なら気になることもあるんじゃない」

「えぇ、ただ、イルザ様、そして生徒会長のアルザ様にもかなり定期的に六大神について聞いてるのだとか」

「ふーん」

「怪しくないかと、潜入中のキルス様がおっしゃています」

「あれじゃない? オタクが好きなジャンルだと語ってしまうやつじゃないか? 王女様も立場あるし、あんまり友達多くないだろうから、話せる人に何度も同じ話してるだけでは?」

「……それかもですね」

「だろ? じゃ、俺眠いからおやすみ」

「はい、私も添い寝しますね」

「またかよ」




 

◾️◾️



 次の日、俺はいつものように授業を受けていた。魔法の授業なので特に何もせずに適当にノートに団長引退後の計画を書いていた。


 ふむ、野菜を売るか。でも、既に大きな商会があってそこが沢山売ってるし。俺が今更参入しても難しそうだな、それに加えて、一人じゃ育てられる野菜も限られてくるかもしれないし。



「えー、魔法には階級があり……特級、一級、二級、三級に分かれています。特級が一番難しいのです。難しい魔法の系統としては回復魔法が有名ですね。回復系統は一級からしか存在しません」



 うーん、回復魔法は極めているからスルーとしよう。何を売れば良いのか色々と考えていると、授業が終わりを告げてしまった。



「今度小テストあるからな、術式と詠唱覚えておけよ」



 授業が終わりを告げたので、端っこの席を立ち上がり食堂に向かおうとしていた。



「……回復魔法、治癒魔法……術式の構築」




 レインはぼそぼそ、難しくノートに色々書いているようだ。回復魔法はセンスがいるらしいのでかなり彼は悩んでいるようだ。



 俺は興味ないのでスルーをして、食堂へ向かっていく。



「あの、ゼロ・ラグナー君だよね?」

「うん?」

「あの、僕、ナナ・ラキルデュースって言うんだけど。少しお話とかさせてもらってもいいかなぁ?」



 名前を呼ばれて、振り返ると桃色の髪の毛をショートボブみたいな髪型の女性だ。瞳も綺麗な桃色で、少しあざとそうに上目遣い、そして声も甲高い人であった。そして僕っ娘、属性が多いなこの王女様。


 この人、リトルシスターといつも一緒にいる人。つまりは第三王女様だ。この国の一番偉い一族の人なので、無下にすることは凄く難しいとなってしまう。


「あ、はい。どうぞ」

「ありがとう! あのね、二人きりで話したいから図書館行こう!」

「あ、はい」



 二人きりとか、そんな事をポンポン言えるとはあざといなこの王女様。幼い頃から貴族社会とかてっぺんから見ているとこんな処世術が身につくのかもしれないけど。


 図書館に着くと本とか沢山ある。その端も端の、人気がない場所で彼女は足を止めた。


 この人は王族。そして、リトルシスターの友達であるので下手なことは言わないようにしないといけない。


「あのね、ゼロ君。ここまで付いてきてくれてありがとう!」

「あ、はい」

「それでね、少し聞きたいことがあってね」

「あ、はい」

「ゼロ君は、六大神について知ってるかな?」

「あ、はい」

「あの、僕の話聞いてくれてる?」

「あ、はい」

「えっと、聞いてるんだよね?」

「あ、はい」



 うむ、下手なことは言わないようにしすぎて逆に話を聞いていないような感じになっている。気をつけないと


「聞いてます。それでナナ様、続きを」

「あ、うん。それでね。六大神について知ってるかな?」



 これは昨日、レイナが言っていた六大神について聞き回っているということなのだろうか。あざといし可愛いから話聞いてくれる人いそうだと思うんだが。


 ただ、やはり王族だから話せる人っていないのか? だとしたら、なぜ俺を呼んだのだろうか。



「六大神、この世界を創造したとか。人々を守っているとか、言われてる神様ですよね」

「うん、六大神についてなんだけど。それについてゼロ君はどう思っているかな?」

「……特に、何も。神様としか、そもそも会ったことないですし」

「あはは。確かにそういう感想になっちゃうよね……じゃあ、愚神アルカディアは知ってるかな?」

「……まぁ」



 それは俺が【あのお方】と言ってる神様です。勝手に祀って、勝手にそれを元に革命団つくって、勝手にそれを使って厨二ロールプレイをしていましたので知ってます。



「愚神アルカディア、嘗て世界と人間を滅ぼそうとしていた神様だよね。童話とかでは悪役になっているイメージが強いね」

「そう、ですね」

「それでなんだけどね。そのね。あの、もし、変な事を聞いたなって思ったらこの事を忘れて欲しいんだけどね」



 すごい保険をかけるな。


「あの、愚神アルカディアが実は……良い神様って言ったらどう思うかな?」

「……」




 おいおいおいおいおいおいおいおいおい。これ、なんか嫌な話の流れじゃないだろうか?


 この話の流れって、俺が……代行者ロールプレイをしていたい時代に『革命団にしていた話の流れじゃないだろうか!!!??』


『──全てはあのお方の思し召すままに……』

『──あ、あのお方とは?』

『聖神アルカディア。歴史の闇に葬られ、名を汚された神のことだ。歴史上は愚神と言われているが、本当に人に牙を向いた愚神は六大神……』


 

うわわわ!? こ、これはすっごい嫌な汗が全身から飛び出してきた!! 


ふむ、これは是が非でもスルーをするしかない。何が悔しくて現実の方の姿のゼロ・ラグラーとしてもその布教をされなくてはならないのだろうか!



「あ、あの、俺、そもそも神様をあんまり信じてないというか」

「え? そうなんだ。まぁ、最近宗教的な側面をあんまり重要視しない人も多いから不思議な話じゃないよね! それで、僕が言いたいのは架空の存在で、歴史上悪いと言われている神様が実は良い人で歴史が隠蔽されていたとしたらどう思うかなって意味なんだよね」

「あ、そ、そうですか」

「うん。大地神としてその力を授かれている王族として、こんな事を大っぴらには言えなくてさ。それでね、聞きたいの。ゼロ君、六大神が悪い神である可能性はあると思うかな?」

「あ、えと、僕、よ、よくわからないっていうか」



 これは超絶スルーさせてもらおう。王族の方なのかもしれないが、見え透いた地雷を踏みに行きたくない。そもそもこの国は大地神を信仰をしていて、その国の王族の王女様が信仰をしていないというのを知ってるだけで面倒ごとな気がしているし。


 


「そっか。ごめんね? ゼロ君」

「いえ、お役に立てずすいません」

「ううん。呼んだのこっちだし、凄く役に立ったよ」

「それならよかったです。それでは失礼します」

「……うん」



 に、逃げるんだよぉ! 



「あ、最後にもう一個だけ」

「は、はい?」

「このノートに見覚えはないかな?」



 そう言って彼女が取り出したノートには見覚えが強くあった。何故ならばそのノートは


【──パパンが持っていた世界の真実笑、が書かれていたノートにそっくりだったから】


 うわぁぁあああああ!? こ、こいつ、まさか、そのノートの所有者だったのか!? ぱ、パパンがあげたとか!?


 不味い、動揺するなぁ。深呼吸しろ。



「……あ、いえ。し、ししし、知らないです」

「……あるんだ、これ」

「ないです」

「ふーん、私、嘘を見破ることできるんだよね」

「え!?」

「嘘。見破れないよ。でも、その反応でわかっちゃった。これ、見たことあるんだね?」

「……ないでしゅ」

「……ゼロ君、結構わかりやすいね。この後、時間あるかな?」

「ないです」

「じゃあ、放課後は?」

「バイトです」

「なら夜は」

「一ヶ月くらい予定埋まってまして。来月また声をかけて欲しいです」

「私がデート誘われた時、断る時に言うセリフみたいな断り方するね。ねぇ? 本当は時間あるよね? ほら、僕、王族だぞ☆?」



 眼をキラキラさせながら国家権力を盾にしてくる女。こんなのが上に立っているからこの国は発展が遅れているんだろうなと思いました。



 しかし、ただの貴族であり、学園では落ちこぼれの俺に拒否権などあるはずがない。俺は放課後、王女様に呼ばれていた。




「あいつ、黒エンブレムの」

「魔力ゼロの子でしょ」

「生徒会長の弟か、それとあの主席の兄……なんか、覇気がないよな」

「眼が死んでるし、なんで王女様と一緒なんだ」




 嫌な注目のされ方だよな……あ、リトルシスター! 助けろ、俺はお前のお兄ちゃんだぞ!!



「……(ぷい)」



 しかし、リトルシスターはそっぽを向いた。おい、お前血縁者が困っているのに見て見ぬ振りをするとは良い度胸しているじゃないか。



「あのね、ゼロ君。この話は絶対に他言無用にしたいから、個室でしよ! ゼロ君と僕の部屋どっちが良いかな?」

「……そもそもどっちかの部屋に行くことが強制二択なのがおかしいと言うか」

「あはは……王族」

「イエスマム。俺の部屋にてお話を伺います」

「うん! ありがとうね!」




 こ、この女。国家権力をフル活用をして俺を動かしやがって!!! でも下手に抵抗してパパンとかママンに迷惑が入ってしまうのも忍びないし!!



 そう思って、彼女を俺の部屋に呼んだ。すると、部屋にはレイにゃがベッドの上で丸まって寝ていた。



「猫飼ってるんだ」

「可愛いので」

「にゃー」



 あ、起きた。レイにゃは俺がベッドの上に座ると膝の上に乗ってくる。それを見て、第三王女ナナは手を伸ばそうとしている。



「撫でて良いかな?」

「どうぞ」

「あ、可愛い。この猫、毛先綺麗だし……瞳も綺麗、すごい高貴な風格だね」

「あ、そうですね」



 第三王女のナナ様は俺の隣に座ると、先ほどの暗黒厨二病ノートを取り出した。そして、とあるページを開く。



「これはね、僕のお父様、つまり国王の書斎にあったの」

「……へぇ」

「愚神アルカディア、六大神、そして、世界の真実。この世界の歴史、そのものをひっくり返すような内容なんだよね。読んだことある君ならわかるよね」

「……読んだことないです」

「そっか。なら今これ読んで欲しいな」

「か、活字苦手で」

「王族」

「あ、はい。読みます」



 渋々そのノートに眼を通すと、一部が破けており読めない部分もあったがおおよそ俺のパパンのノートと内容は変わらない感じだった。



「なるほど。わかりました」

「うん。これの内容どう思うかな」

「……正直、要領を得ないかなと。ただの虚言かなって」

「うん。僕も最初そう思ったの。でも、大地神を信仰している国の王様。それがこんな六大神を悪く言うようなノートを書いている、そして、それを残しているんだよ」

「……なるほど」

「これ……ただの戯言で流して良いとは思えない」



 いえ、ただの戯言で流して良いと思います。



「このノートには、嘗ての魔法学園。その七人の生徒によって描かれたと書いてあるんだ。そして、そのうちの一人が僕のお父様、そして、その他五人。そして、最後の一人が……ゴルザ・ラグラー。君のお父様に当たる人なんだ。このノートの著者である彼等は自身達のことを真神を知る七人の賢者セブンクラウンと呼んでいた

「……」



 ここで俺は全てを察した。我が父は厨二病だったんだ。だが、ぼっちではなかった。同じく厨二病の奴らと一緒にてんやわんや、やりながら設定を深めて厨二サークルを学園で作って行動をしていたのだろう。



「お父様にこれについて聞いても、何も話せないの一点張りだったんだ」


 そりゃ、過去の厨二ノート、学生時代の黒歴史を娘に聞かれても答えられないだろう。この女、王女なのに察し悪いな。


 お父様、国王様がすごい可哀想。


 パパンと一緒に行動をしていた国王も最初は楽しかったがそのうちに、厨二は卒業をしたのだろう。それは俺やパパンと一緒だ。カレーは美味しいが毎日は食べたくないし。毎日食べていたらそのうちに飽きてしまうのだ。



「僕は、この世界の真実が知りたい」

「どうぞご勝手に」

「君にも協力をして欲しいんだ。このノートを知るのは今のところ、僕と君だけだし」

「……特に真実とかないと思いますが」

「あるよ。僕の勘はよく当たるんだ。君と話してて人生が変わりそうな気がギュンギュンきてる」

「こんなの、ただの都市伝説的なやつですって。陰謀論とか信じてマジになったらちょっとやばいですよ」

「もし、一緒に行動をしてくれたらご褒美あげる」

「いらない」

「お金とかは? 君結構欲しいんでしょ? イルザちゃんから聞いた」

「あの妹……ただ、お断りしますよ。賃金と労働がバランス取れてるかはわからないし。逆に損かもしれない」

「王族の命令だぞ☆?」

「国家権力の濫用だ!!」

「権力とはこうやって使うんだよ」



 こいつ、絶対に俺が了承するまで逃さないつもりだ。



 こんなわがままで察しが悪い子供が娘とは国王も大変だろうなぁ。


 それに凄く恥ずかしいはずだ。昔の厨二病ノートを勝手に漁られて、これが世界の真実なんだと陰謀論を娘が信じているなんて。恥ずかしさだけじゃない、どこか、いたたまれ無さも思ってしまう。


 ──わずかだが、この娘の目を覚まさせてあげて、何より厨二病に足を突っ込んでいるこの子を矯正させてあげたいと思った。要するに国王様が可哀想だと思ったのだ。


 以前一度だけ、お姿を見たことあるが国王様は頭が禿げていた。きっと娘がこんな感じだからストレスなんだろうな。可哀想に。俺のパパンはふさふさだ。


 それはパパンに俺が厨二ノートを読んだのがバレていない、俺が見えても見てないふりをしているからこそ成り立つのだ。

 俺は厨二ノートをなぜ国王が残していたのか検討がついている。それはいくら黒歴史だと言っても仲間との大事な思い出だからだ。


 ──夜風に吹かれながら(昔は俺もバカやってたな……)



 みたいな感じで良い思い出として心にしまっておきたかったはずなんだ。伝説とか裏の歴史とかそう言うのに惹かれてしまう時期は誰でもあるんだ。

 それは恥ずかしいことだけど、それが思い出だから下手に消せないのだ。パパンがあのノートを残していたのもそういう理由だろう。


 仲間との恥ずかしい思いで。それをガチでそういうことなんだと悟ったふりをして、陰謀論を掲げ、都市伝説を真に受けているこの王女様。それを見た国王は随分頭を悩ませているんだろう。


 可哀想に。歴史は繰り返すのか。



 まぁ、それはそれとして、このままだと埒が明かない。どうせ俺は魔力ゼロだし、役に立たないだろうし。この子もそのうち厨二ごっこからは飽きるだろう。


 神様とか居るはずないのだ。この世界で会ったことある人! と聞いて出てきた試しがない。


 彼女も俺のように目を覚ますのだろう。適当に協力をしているふりだけはしておけば摩擦も少ないだろう。それにこの子、了承するまで終わらなそうだ。



「わかりました。ただ、俺も色々忙しいのでずっと協力は無理ですよ」

「うん、何かあったらで良いんだ! 頼りにしてるよ!」

「……あ、はい。じゃあ帰ってくださいよ」

「あれ? 僕のこと嫌い?」

「好きになる要素がないです」

「顔可愛いけど」

「顔は可愛いけど、性格がちょっと」



 異世界の美女は変わっている奴しかいないという感覚が俺にはあった。これだから異世界は……あ、でも日本でも中学の時に超美人生徒会長から告白されて、家について行ったら、俺の写真が死ぬほど勝手に盗撮されてて、スタンガンで気絶させられて監禁されたことあったな。



 その時は、手首の関節外して拘束解いて脱出したけど。



「せ、性格は……ちょっと気にしてるから言わないで」



 気にしてるのか。気にしていてこれなのか。と言いたくなったが妹と仲良くしてくれているから、スルーしておくか。



 そして、俺はこれから愚神の謎(絶対厨二病ノート)を追うことになる。


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