第5話 闇バイト
早いもので学園に入学してから二ヶ月が経過した。俺はギリギリ入学ができていたのだ。
この学園では生徒全員の左肩部分にエンブレムが発行される。優秀な生徒ごとに、金、銀、銅、青、黒の順になっている。はい、間違いなく黒でした。まぁ、なんとか入学できてるだけで良かった。
普通に実家は有名一家だから、パパンとママンに小言言われないで済んだし、団長としての立場もギリギリ保てそうだ。
『あえて、下の順位を取り、下から天明界を探すおつもりなのですね! わたくしは上位成績ですので、上から探しますわ!』
キルスがその狙い看破してました! みたいな顔をしていたが実際はギリギリのギリギリ、入試ギリギリぶっちぎりの最下位の凄いやつであるのは内緒だ。
因みにだがリトルシスターは主席らしい。兄弟で上と下を独占するとはオセロみたいで特別感があるという物だ。
──そんなふざけたことを言うと殴られそうなので俺は黙っている。
まぁー、それはそれとして……学園に入学をして二ヶ月俺はとあることで悩んでいた。それは金欠である。
実家からの仕送りだが、基本俺は使わない。その理由は貯金をしているからだ。なぜ貯金をしているのか、それは簡単だ。
団長を辞めた時に異世界スローライフを送るためなのである。資産をちゃんと形成しておくのは日本人の価値観に由来しているのかもしれない。
そのため、ずっとお小遣いとかは貯金しているのである。アルカディア革命団では団長としてお金を貰う……というのは流石に辞めている。万が一、秘密がバレた時に殺されるでは済まない気がするし、倫理的にやばい気がするからだ。
だから、金は俺の今の立場で俺自身が稼ぐ!!
さて、そんな俺は今、お金のビッグチャンスを掴んでいる。
【日給! 5万ゴールド!! 誰でもできる安全な仕事です!】
ふふふ、この紙が王都で貼られているのを見つけてしまった。現在学生なので学生寮で生活しているのだが、学生寮があるのは王都である。お金探しと暇つぶしを兼ねて、何か面白いバイトないかなと探していたところにこの張り紙、我ながら運命を感じてしまっている。
さてと、早速だがこのバイトに向かうとするか。善は急げと言うしな。
学生服を着ながら歩いていると何人か他の生徒ともすれ違った。
「あれ、魔力ゼロの子でしょ」
「ふふ、劣等生ね」
「ダメよ、あの子の悪口言ったら妹さんと姉さんに物凄く詰められるんだから。お姉さんなんて現在学園の生徒会長よ」
ふむ、どうやら劣等生が大分板についてきたようだ。さてさて、そんな些細なことは置いておいて、バイト先に向かおう。
王都は広い、迷わないように注意を払いながらバイト先に到着した。ここだな、日給5万の場所は
「あのー」
「あ?」
「ここで働きたいのですが」
「魔法騎士学園の生徒だな」
「はい」
「ククク、御愁傷様……いや違う。よくきたな、魔法学園の生徒はお前で二人目だ」
なんと、二人しかいないのか。うわー。魔法学園の生徒達情弱過ぎない? こんな良いバイト他にないよ?
バイト先は王都にある、怪しい裏道。そこに建てられている古屋……から更に地下にあるのか。秘密階段みたいに地下に階段が置いてある。こんな場所だとは知らなかったな。
出迎えてくれたのは男の人で、ちょっと強面だが笑った時の顔が少しキュートで良い人そうだ。
地下に進むと大きな地下室だった。
「ククク、まぁ入れよ」
「お邪魔しまーす! それでバイトの内容なんですけど」
「あぁ、宝石があるからそれに魔力を込めれば良いだけだ」
「……え?」
「なんだ?」
「あの、僕魔力なくて」
「あ? 魔法騎士育成学園なのにか?」
「はい」
「……っち」
しまった、これだとバイト代貰えないのか。魔力無しで流石にバイト代は
「まぁいい。取り敢えず宝石に手を当てるだけで良い」
「え? バイト代それでもらってもいいんですか?」
「ククク、あぁ、かまわねぇぜ?」
なんて良い人なんだ。顎髭が一ミリも似合ってないとか思っちゃってごめんなさい!! めっちゃダンディでカッコいいです!!
この部屋にはなんか石像みたいなのが建てられていて、雇う側の人間っぽい人が数人いた。全員白衣を着ている。ほぉ、血みたいなのが白衣に付着しているが……まぁ、異世界だし気にすることもないか。
そして、同じく制服を着ている生徒が……あ、この子キルスに嫉妬してるナデコって子じゃん。
「……あれ? 君……誰だっけ?」
「同じクラスのゼロ・ラグラーだよ。どうもナデコさん」
「貴方もここで働きたいの?」
「はい」
「……悪いことは言わない、今すぐ逃げて」
こいつ……自分だけ良いバイトを独占する気だな? キルスに嫉妬をしていた時から思っていたがかなり欲深い人間のようだ。
「それとここで見たことは……忘れて」
おいおい。自分だけやっぱり独占する気じゃあないかぁぁぁあああああ!! そ、そんなことは絶対にさせない。ここのバイトを他の生徒には秘匿にし、自分だけその恩恵に預かろうとする欲の亡者め!!!
絶対に許さん! 俺は欲の亡者が大嫌いなんだ!!!
「いや、俺も残るよ。お前一人だけ、良い格好はさせたくないしな」
「……そう、良い人だね。でもね、君の行動は正しくない、きっと、ここがどういう場所なのか、分かってきたと思うんだけど……」
「え? あ、うん」
正しくないとか言ってくれてるな。効率よく金が欲しくて何が悪いんだよ! この世界は積立NISAもないから自分で積み上げていくしかないんだ
「ここで俺は逃げない。悪いが、お前一人に独り占めはさせない」
「……そっか。なら、せめてここのことはワタシ達だけの秘密にして」
「……確かにここの場所を外に流すのは得策ではないな」
こんな穴場バイト、他の生徒に知られてしまうと面倒だ。俺の金が稼げなくなる。現在俺の貯金は200万ゴールド、必死に貯めてきた。ここから更に増やしていきたい。
具体的には100億ゴールドくらいは行きたい。無理かもしれないが……だが、それで終わらせるわけにはいかないのだ。
お金の独占を、ここの二人だけにする、確かに悪くない。俺達以外には普通のバイトをして、ちまちま稼いでもらい、俺達が独占する。
ふむ、提案としては悪くないな
「分かった。ここのことは俺達だけの秘密だ」
「うん、ありがと……えっと、ゼロ、だっけ?」
「あぁ、名前覚えてくれてありがとう。お前とはなんだか長い付き合いになりそうな気がする。お前の名前は欲の亡者ちゃんであってるよな」
「ナデコ」
「そっか」
「さっきまで……覚えてたのになぜ、間違う?」
「噛んだ」
「なら、しょうがない」
二人でこそこそ話していると、入り口にいた男性が椅子を蹴飛ばした。
「おい、何こそこそしてやがる! さっさと宝石に手を当てろ!! このクソガキどもが!!」
「……本性、出してきた」
「あぁ」
まぁ、五万もあげるのに働く方がチンタラしてたらそれは怒るよ。等価交換、ただでさえ高額なんだからこれくらいはね。
「じゃ、俺から」
宝石は紅く光っていた。大きさは俺の部屋に置いてある目覚まし時計くらいの大きさだった。手を当てる、魔力は持っていないという設定だから、暗黒微笑BGMを発動させるわけにもいかない。
うーむ、何も反応はない。
「まぁ、こんなもんだな。次、そっちの女がやれ」
これだけで5万ゴールド。今夜はちょっと美味しいものでも食べてから帰ろうか。普段は貯金をしているが偶には奮発して良いのを食べないと続かない。ダイエットと同じである。
さて、ナデコはどうなるだろうか。ナデコが宝石に手を挙げると、宝石が赤く輝き出し、眩い光に包まれた。
「どうやら【選ばれし者】、みたいだな」
「ククク、まさかここで見つけられるとはな」
ゾロゾロと立ち上がり、男達は剣を抜いた。後ろからは他にも人が出てくる。女四人、男四人さらに増えた。
「……逃げて、ゼロ。ワタシ、道作るから」
ドッキリとかじゃないよな? アメリカ番組みたいな一般人を巻き込んでみたいなもんでもなさそうだ。
あの剣は本物だし、魔力を高ぶらせているのも本当だ。
これはあれだ、闇バイトってやつだったのか。気前がいいのかと思っていたが……闇バイトかぁああ!!!!!
敵の数は全部で13人、ふーむ、この子じゃ厳しいかもしれないな。実力があるのかは正直わからない。実戦に強いタイプなのかもしれないけど、相手も数が多いしね。
魔力を使ったら暗黒微笑BGM。かと言って全員ぼこぼこんにしてもそれはそれで違和感ある。この子に任せたら死ぬかもしれん。ここは……
◾️◾️
『るーるー。るるるるるー、あああああああああああ』
気づけば狭い室内に黒鳥が顕現していた。その黒鳥の出現に全員が頭上を見上げる。天井には蝙蝠のように黒鳥が張り付いていた。その数、七体。
まるで何かを呼ぶかのように、謎の鳴き声を発している。
「私もその宝石に手を当ててもいいのかね?」
「「「「ッ!!!」」」」
「……っ!?」
壁に誰かが寄りかかっている。場の空気感がその一言にて変わってしまった。全員がその場所に意識を強く向ける。
神父服の男、彼等はその人物を知っている。
「代行者か、貴様!」
男がそう呟いた、彼等はその存在を知っている。反対にナデコはその存在について何も知らなかった。
(誰……知らない。でも、わかる、あの尋常じゃない魔力量、濃度、出力。隊長よりも格上ッ!!)
纏っている魔力が人の域を超えていた。
「まさか、代行者がこの場所を掴んでいたとは……!」
「……私を知っているか、ならば話は早い。神は常に天から私を見てくださっている。これもあのお方の思し召し」
(代行者……聞いたことない。こんな実力者が存在していた、なんて……不意打ち、をしたとしても、勝てる気がしない。あの魔力じゃこっちの一撃は最低以下のダメージ。でも、あっちは全てにおいて、一挙手一投足が致命に、なる)
(う、ごけない。うごけば、死ぬ)
とん
軽い音が鳴った。それだけでその場に居た三人が地に伏せられた。
「は、速ぇッ」
「神器所有者か!?」
「だとしても、こりゃ速すぎるだろ!!」
「あぁ、すまんね。ただ、軽く気絶させただけだ、安心したまえ」
割れた仮面から微かに覗ける青い瞳が彼等を射抜く。残った戦闘員達の中で一人の男だけが笑っていた。
「確かに速いなぁ。だが、それだけだ。俺の間合いならば問題ない」
「ほう、間合いに自信がおありかね?」
「あぁそうとも。元、聖騎士、【紅閃光】と呼ばれた俺は見る必要がない。感じればその瞬間に無意識で切れる」
赤い瞳と褐色肌、そして、白い髪を持っている若い男性が前に出る。それと同時に仲間である全員の首を飛ばした。
「これで互いに邪魔が入ることもない。貴様も俺と戦うのに他が入るのは面倒だろう」
「ふむ、私としては何も問題ないのだがね」
「その余裕をずっと貼り付けておくがいい代行者。その余裕を無くす前にお前の首は飛ぶだろう」
鉄剣を持っている男は両手で鞘を持ち軽く後ろに引いた。それと同時に彼の周りに魔力による領域のような場所が発生する。半径2メートル、彼を中心とした丸型の魔力領域。
「ほう、無詠唱。しかも、
「あぁ、この
「なるほど、思っている以上に歳月をかけているか。それに対して敬意を表すとしよう」
代行者は大胆にも何もせず一歩踏みだす。それを見て、ナデコが足を止めるように声をかけた。
「待って……」
「何かね」
「その、領域は不味い。普通、入ったら、死ぬ……間違いなく」
「面白いネタバレだ。ならば私はその地雷伏線を踏まぬようにしよう」
そう言いながらも彼は思い切り一歩を踏み出した。敵も目をぎらりと開きながら魔力を高める。そして、代行者の足が魔力の領域に入った瞬間、閃光の如き剣が動いた。
(勝ったッ!! 代行者を狩ったとならば、俺の立ち位置は更に向上を──)
剣を振り切ることは出来なかった。なぜならば、代行者が親指と人差し指で剣を挟み、それを受け止めていたからだ。
「あ、ありえん!? 馬鹿な!? どんな手品だ!!」
「……あ、ありえない、神技……」
まさしく神懸かっている存在。こんな小さい王都の隅で超越をした技能が再現されていた。
「大した24年間だ。私でなければ防ぐのは難しかっただろうに」
「こ、の、ふ、ふざけるなぁ!!」
剣を手放し、男はもう一本の剣を抜いた。それにて切り掛かる寸前、自身が魔力領域の内部にいることに気づいた。
自身はそれを展開していない、なぜならば全身全霊、全力、全快の最高状態での一撃を防がれていたからだ。
本能的にそれが通じないのは分かっている。それならば誰がそれを作り上げているのか。
──代行者の周りに魔力による円形の領域が構築されている
「良い魔法だ。貰っておくとしよう」
「こ、この一瞬で、う、うつしとったのか!?」
(ど、どんな魔力センス持ってれば一瞬で、他者の魔法を模倣なんてことができるんだ!? 詠唱を俺は言っていない、しかも、その精度は、俺以上──)
──手刀
代行者の一撃により、男は気絶をする。神速的な一撃で意識は完全にノックアウト状態となる。
(強い……きっと、これまでもこれからも……これ以上の強者に対面する、ことはない……)
ナデコは戦慄していた。力の桁が、次元が、格が全てにおいて段階的に違う。一段や二段ではない。数十段近く、大きな差が存在している。
「私の目的はここまでだ……この後の処理は任せるとしよう。騎士を呼ぶなり好きにしたまえ」
その言葉を最後に霧が立ち込めてきた。室内であり、一瞬で煙は充満し彼の姿は見えなくなる。これにて、闇バイト事件は終わりを告げる。
◾️◾️
ナデコは本日のことを隊長に報告をしていた。それを聞かされた隊長と名乗る女性は頭を抑えていた。赤い髪に似合う紅瞳が僅かに曇るほどその報告は彼女を悩ませる知らせであった。
「なるほど……分かりました。ナデコよくやってくれました」
「……うん」
「しかし、代行者ですか……存在は本当だったのですね」
「知っているの?」
「はい。代行者、その存在が本当だとするのであれば……存在が確認されたのは、今回で歴史上2度目です」
「2度目?」
「一度目は、かなり前、約20年前が一度。当時から絶大なる強さを誇っていたそうです。何と戦っていたのか、死体の山を築き、魔法騎士を殺し、平民や貴族を殺しまわっていました。一時期は国家テロリストとして裏では懸賞金をかけられていました。しかし、奴は一切の証拠を残さず、消えてしまいました」
「……」
「実際に表に賞金が出なかったのは意味がないと判断されたからです。代行者は絶大なる力を当時から持っていましたからね。それにその存在を実際に見たと言う魔法騎士も殆どいませんでした。捕まえるのは不可能、そう判断され、更には途中で代行者は唐突に行動を中止しました」
「……中止」
「はい。その理由は知りません。死んだのか、飽きたのか。だとしても、下手に代行者を刺激をするのも良くないと決定され絶対に表に賞金を出さず、表では指名手配もしませんでした」
「……隊長は会ったことあるの?」
「まさか、当時の代行者は20年前です。私は今年で24歳、子供でしたから」
「……強、かったよ」
「でしょうね。当時の精鋭達が誰も捕まえられず、情報を握れなかったのですから」
ナデコは先程確認した、代行者の強さを思い出す。圧巻、別競技をしているかのような凄さを感じていた。
「今回代行者が倒した、そして貴方が捕縛をした天明界のメンバーですが、全員に呪いの魔法が付与されており勝手に死ぬようにされている痕跡がありました。情報などもそう簡単に引き出せないでしょう」
「……それが、分かってたから代行者は、何もせず消えた?」
「その可能性が高いでしょう。全く、久しぶりに現れたと思ったら益々謎が深まるばかり……代行者が持っている情報、私達が持っている情報量も違いすぎる。天明界の拠点の情報をどれだけ長く私が苦労して手に入れたか」
隊長と呼ばれる女性は頭を抱えていた。代行者は急に現れ、天命界のメンバーを倒すとあっさりと消えてしまった。そのことに対して、彼女はある予測に思い立ってしまった。
「……特に調べもせずにあっさり消えたとナデコは言っていましたね」
「うん」
「天明界の拠点をあんなにもあっさり、しかも調べずに立ち去ると言うことは、あの程度の拠点にある情報なら欲しいと思っていない……のかもしれません。天明界を私達が知ったのはつい最近、そして、拠点をようやく調べても、それより先、目ぼしいのが何もなし」
「……代行者、は天命界と、戦ってる?」
「それも分かりません。あくまで可能性があるというだけ、ただ、私達が掴んでいた天明界の拠点の一つを代行者も知っていた。確かにナデコの言う通りの可能性もあります。しかし、ただ単に気まぐれに天明界を潰した、長期的に戦っているのか、そもそも敵同士なのか、内部分裂なのか、代行者自体の目的もわかっていません。安易な判断は避けるべきでしょう」
「……」
「しかし、いずれにしても国家直属の私達より大きな情報もを持っているのは確実でしょう」
「だとしたら、情報源は国?」
「他国の大貴族、もしくは王族すらあり得ます」
「……確かにそんな情報一般人が持っているはずない」
そこまで話していて、隊長はあのことを思い出した。拠点に居たとある男子生徒のことだ。
「そういえば、ゼロ・ラグラーという生徒がいたんでしたね」
「うん」
「彼もまさか、天明界を追っていた……?」
「ううん、単純に困っている人を見過ごせない性格らしい」
「はい?」
「正義感が強いんだって……だから、怪しい場所があるって分かって、どうしても調べずにはいられなかったんだって。すごいよね」
「……それは嘘とかではないんですか?」
「違うと思う。天明界、って、少しだけ言ったらそんなの知らないって。でも、怪しい仕事に同級生とか世界で一番可愛い妹と姉が騙されたりするのは良くないと思って調べたんだって」
「ふむ……偶々そこに居合わせたと?」
「うん」
「……」
「まさか、代行者と疑ってる?」
「……えぇ、まぁ」
「それはないよ。ゼロは魔力が本当に0。対して代行者はあり得ないほどの出力を持ってた。まるっきり別人」
「魔力を隠蔽していた可能性はありませんか?」
「それもないと思う。ワタシの瞳、特別だから流れとか貯蔵量もある程度見れる。でも、ゼロは本当になかったよ」
「……確かに貴方が言うのであれば間違い無いのでしょう」
「うん、いつも学校じゃ馬鹿にされたり、姉妹と比較されたりしてるんだって、でも心は腐らず、正しく生きたいって眼をキラキラさせて言ってた」
「ふむ……万が一、その男が代行者の仲間である可能性……いや、それを言い出したらキリがないですね。貴方の眼もあります。それに本当に代行者の仲間なら、尻尾を掴ませないためにすぐに消息を断たせるでしょう」
「うん、ワタシもそうする。万が一でも痕跡を残したくないし、代行者はこれまで一度も証拠を残してないわけだし」
「えぇ、少し考えすぎてました。それにあの一族、彼の姉と会ったことがありますが素晴らしい人格者でした。それに弟もすごく可愛くて頑張り屋さんと褒めていましたし。考えすぎでした」
「……うん、ゼロは素晴らしい人格者だと思う。あの時、逃げずに、戦ってくれる、つもりだった」
「なるほど……では、引き続き学園内にいると思われる天明界のスパイを探してください。今回のことで天明界が本当に存在していることはハッキリとしたのです、それだけでも良しとすべきでしょう」
「うん。代行者は?」
「そっちは情報が無さすぎます。無闇に探しても労力がかかるだけでしょう。暫くはそれは保留とします」
「……うん」
◾️◾️
いやー、まさか闇バイトだったとはねぇ。天明界、厨二病集団で、都市伝説などをガチ考察して違法実験までしているヤバい組織がまさか、あんな闇バイトをしているとは思いもしなかった。
でもまぁ、闇バイトだと全然気づかなかったよ。前世でもあったんだよね、闇バイトに引っかかること。
ただのイベント参加だけで三万円!!
みたいなのに行ったら、カルト集団の教祖に信者になるまで帰さないとか言われて、信者達500人にも帰さないって言われたから大暴れして全員ぽこぽこにして警察に通報したの思い出したわぁ。
あれに比べたら今回の天明界のバイトは、マシだったね。規模感が小さいというかさ。
あ、そうだ。あとあのナデコって女の子、あの子も天明界に騙されたのはちょっと同情したよ。
可哀想に。俺と同じで目先の利益に釣られたんだろうなぁ。
そして、騒動が終わった後、騎士団の人に色々話して、終わる頃には夜だった。終わった後は一緒に帰りながら歩いたけど……その後も疲れた。
『天明界って、知ってる?』
『え? なにそれ、知らないかな?』
ここで知ってると言うと絶対にややこしくなると俺は悟った。天明界は都市伝説厨二病集団、代行者として団長しても関わっているんだからお腹いっぱいだっての!!
ゼロ・ラグラーとしては絶対に関わりたくない!!! 俺の将来は貯金して異世界スローライフなの!!
知らないふりをしよう。そして、闇バイトに引っかかったと言うと俺のイメージが下がり、妹に小言を言われるので、
『正義感が俺を突き動かしたんだ。あんな見え見えの怪しい仕事に誰かが騙される前に俺が調べるべきだとも思ったんだ。俺は弱くて、魔力もない落ちこぼれだけど、人として、生き様では後悔したくない』
少年漫画の主人公が言っていたみたいなことを言って、俺のイメージを上げておいた。これなら妹も小言言わないだろう。
さーてと、今日のことは災難だったけど切り替えて明日からバイト探しますかね。考え事をしていると部屋についた。
学生寮の個室の部屋を開ける。
「ただいまー」
「お帰りなさいませ。ゼロ様」
「レイナ、なぜいる?」
「さぁ、なぜでしょう? 貴方に会いたくなったからです」
「お前二日に一回は俺の部屋に来てるだろ。てか、昨日も来てたし」
「実家は暇なんですよ。ゼロ様のお母様とお父様に気を使うのもちょっと疲れます」
「お前は少し、気を遣ったほうがいいと思うけどな」
「むむ、結構使ってますよ。お母様にはゼロ様が可愛いと言いまくり、お父様は顔が怖いのでおやつはつまみ食いしないですし」
「ふーん。それで? いつ帰るの」
「もー、愛する可愛いメイドにそんなことを言ったらダメですよ」
「本当に暇なんだな。お前、羨ましいよ」
「今日は添い寝したら、朝方一緒に登校して帰る予定です」
「呑気だなぁ」
「こう見えても一応副団長もやってますよ」
「確かにそれはありがとう」
レイナは結構、俺の部屋にくるんだよなぁ。俺は今日は話す気力がないのでベッドに横になった。
するとレイナも隣に来た。
「ふふふ、今夜は寝かせませんよ」
「はい、おやすみー」
「ちょっと!」
「はいはい、可愛い可愛い」
「もう!」
レイナが騒いでいると部屋をノックする音が聞こえた。誰だ、こんな夜中に……ドアを開けるとそこには……
革命団、アルカナ幹部。【星】ジーン、【魔術師】キルスが立っていた。
「少し、お話をさせていただけますか。団長殿」
「わたくしもお願いしたいです」
「勿論だとも、さぁ、入りたまえ」
くっ、今日は疲れているのにまだ代行者ムーブをする必要があるのか!! レイナもいつの間にか、顔をキリッとさせている。
「副団長殿もおいでとは、私達と同じ要件ですかな」
「えぇ、ジーン様、お察しの通りです」
「相変わらず、副団長殿は耳が速い。流石は団長殿が認めるだけはございます」
「やりますわね。副団長様」
ジーンとキルスはレイナにそう言うが正直何の話なのかわからない。っていうか多分レイナも今回はわかっていないだろ。
「キルス様、毎回思うのですがなぜ私をそんな目で見るのですか?」
「いえ、わたくしこそが副団長に相応しいと思っているからです」
「ほう、貴方がゼロ様の隣に相応しいと」
「えぇ、前から納得がいっていなかったのですわ」
「ふふふ、しかし私を任命したのは団長、つまりはゼロ様。そこに異議をあげるのは不敬になります」
「……っち。団長、わたくしの方が貴方様の隣には相応しいと思いますわ!」
「ゼロ様、言ってあげてください。私の方が相応しいと」
なんだ、この戦い。正直どっちでもいいというか、というかそもそも両方とも夜遅いから出てって欲しいというか。
「ほほほ、お二人とも元気なのはよろしいですが、ここは団長殿のお部屋。そして、団長が指名をしたという場合は何か意味があるということ。キルス殿、適材適所、団長殿が貴方に【魔術師】の【冠位】を与え、敢えて野に放ち行動させることには深い意味がおありなのでしょう」
「……まぁ、確かにそうですわね」
「ほほほ、若く元気なのは素晴らしいですが。今回はその件は置いておきましょう。私たちが団長殿の元へ来たのは、天明界の件ではあったはず」
「えぇ、そうですわね」
「あ、そうでしたそうでした! うっかりしてました!(あ、天明界の件なんですね。単純に寂しくてゼロ様エネルギーが不足していたからハグとか添い寝を求めてきたことがバレなくてよかったです)」
あ、天明界の件で二人はきていたのか。レイナの顔つきからしてあいつは全然知らなかったの確定だな。
「さて、団長殿、此度の采配お見事でございました」
「わたくしも全く同じ感想ですわ」
「──ふっ、私としても今回のは運が良かったと思っているんだがね(なーんの話だこれ!?)」
「団長殿はいつもそう言って謙遜なさる。これで更に私よりも何回りも若いとなると末恐ろしさすら感じます。全く団長殿が味方で良かったと心底思います」
「わたくしも今回の流れ、完璧で驚きましたわ。まさか、最初からここまでの道を計算されていたとは」
「えぇ、まさか、私もゼロ様があんな手を使い、こんな手を使い、あーなって、こーなって、こんな結果にしちゃうなんて、びっくりしちゃいました」
レイナだけIQ3かな? お前何も知らんだろ。
「ふ、その件について、私が何を考えていたのか。話してもらえるかね? キルス、これは言語化の訓練でもある。理解し相手に伝えるとなると、ただ理解をするよりも一、いや二段階は理解を深めないと分かりやすい説明はできないというもの」
「はい。まず最初は敢えて魔力を封印して学校内の試験に臨み、それで合格をなさったことです。劣等生という立場を逆に利用し、素早く【執行部隊】の疑いの眼から自身を抜けさせておりました」
執行部隊って、なに?
「今回もその延長線の話となっているんですわね。閃光のような速さで情報を掴んだ団長は天明界拠点に忍び込んだ。そして、その場で敢えて目撃をされることで、一度わざと自身に代行者としての眼を向けさせる……しかし、ゼロ・ラグラーが魔力がないというのは入学してからの二ヶ月で分かりきっていること。試験の場にいた者のみならず、生徒達に知れ渡っている。劣等生であることは疑いようない事実。本来ある無限の魔力を察知させない団長の魔力隠蔽は他者の比ではない。まるで静と動。だからこそこの動きは成り立ちます」
「ふむ、少々わかりづらいが大凡は間違っていないと言えるだろう」
何言ってんだ、こいつ……正直全然何言ってるのかわからない! レイナフォローしろ!!
「……(無言の訴え)」
「……(スルーしておきましょう)」
「……(スルーするな!)
「……(だ、だって今回の話。マジで私わからないんですよ!!)」
ふむと、唸っていると【星】のジーンが笑いながら、話を更に付け足していった。
「私から付け加えるとすれば、敢えて一度疑われ、そこからこれまでの完全なる劣等生の立場、何より代行者とゼロ・ラグラーの魔力比を頂上的レベルで扱い、疑いを晴らすことで最も遠い存在を演じたということでしょう。私ですら一度疑った相手が再び候補として上がることは少ない。それも、全く違う魔力比であれば尚更のこと」
ふむ、なるほどな。なんとなーく話の概要が掴めてきたような気がする。レイナも少しわかったようで頷いていた。
「流石はゼロ様、というところでしょう」
あ、レイナが話し出した
「今回、誰よりも代行者の容疑者候補から外れたのは正解でした。学園内に天明界のスパイがいるなら動きやすいことこの上ない。我々以外にも天明界を探している存在もいるようですし、劣等生の立場はかなり利用できそうですね」
「なるほど、流石は私の部下。よく分かっている。ここまでバレてしまっては私の計画も型落ちか」
「いえ、何をおっしゃいますか! わたくし達は後から難癖をつけているのと同義」
「実際、私は団長殿が行動を終えるまで何を意図していたのか、見当もつきませんでした。しかも、トップの方が自らリスクを負い行動をなさる心意気、感服いたしました」
「ジーンよ、上の者は権利もあるが同時に責任もあるということ。それを示したい私の目論見も救うとは、これは驚かざるを得ない」
「ただの、老人の浅知恵にございます」
「ふっ、そうか。ならば今後とも頼らせてもらうことにしておこう」
まぁ、良くわからないけど。丸く一個にまとめて平和に終わりました! ちゃんちゃん! みたいな空気感だけ出しておこう。
全然自分は理解してないけど物事が勝手に進むこの状態はあまり好きじゃないから、さっさと終わらせて3人には帰ってもらおう。
さーてと、今日は早く寝て、明日からバイト探しだ!! 睡眠ちゃんと取りたいから、レイナとキルスは添い寝するのやめて欲しい。
────────────────────────────────
面白ければモチベになるので☆、感想よろしくお願いします!!
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