小話 メイド(神、あのお方)から見た代行者

 私の主人であり、上司であり、命の恩人でもあるゼロ・ラグラー様なのですが、相変わらず変わっている方でした。


「最近知り合った王女様は面倒でさ」

「はぁ」

「なんでも、訳わからない厨二ノートを見ててさ。世界の真実だとか言ってさ、六大神が悪いとか言い出して」

「いつも貴方が言っていることじゃないですか」

「そうだけどさ。あっちはガチの顔で言うんだぜ? 勘弁して欲しいというか」

「はぁ」



 このお方は宗教国家の第三王女と最近、世界の真実を追う同盟を組んだとか、組んでいないとか。


 しかし、当の本人はそんなのは馬鹿らしく存在しないと思っているようでした。これまでもそんな感じなので、特に珍しいとは思わないのですが。



 ──毎回思うのですが、この方はなぜ物事を奇跡的に運ぶのが上手いのでしょうか。



 あの王女も言ってしまえば情報源としては大分価値がある。話半分でこの方が聞いていたとしても、情報としては本当に価値がある。なぜなら、ゼロ様が存在しないと陰謀論だと、馬鹿にしてても


 六大神は本当にいるのですから。


 天明界も、もしかしたら、国の上位層に存在しているだろうし。この人毎回奇跡的に、奇跡的なムーブをするから凄いと言わざるを得ません。適当なのに凄いと言わざるを得ないのです(大事なことなので二回言っている)。




「ゼロ様はどんな女性が好みなのですか?」

「どうした? なぜそんなのを聞くんだ?」

「最近貴方の周りには女性が多いと思いますが、靡いている様子がありません」

「あー、こう、俺の周りの美女って基本捻くれてる人多いから」

「私、イルザ様、アルザ様、ナデコ様、ナナ様、キルス様、他にもアルカナ幹部諸々いますけど」

「うーん、こう、もっと自然な出会いがしたいんだよね。と言うか今はいいかな。資産形成して、団長辞めた時を考えるのが先決だし」

「そうですか。どう考えても銀髪青眼のメイドがメインヒロインだと思われるのですが」

「自分で言うのか。自己評価高いの羨ましい。俺としては出会いはもっとこう、自然なのが良いんだよね。団長とか貴族とかそんなの関係なしに会いたいみたいな。ファンタジーならさ、エルフとか」

「あぁ、エルフ族が好きなのですか」

「まぁ、特別好きとかではないけど。獣人とか、まぁ、取り敢えずはいらないな」

「そうですか」



 そう言いながら私はゼロ様に大量の手紙が入った箱を渡した。これはアルカディア革命団の団員から、団長である彼に向けられたファンレター的な奴なのです。


 正直、この大量の手紙全部に目を通すのは面倒そうです。しかし、彼はそれら全部に目を通します。しかも、自筆で返信までもするのです。



「前から思っていたのですが、そういう手紙ちゃんと読んで返信するんですね」

「一応しておくべきだろ。架空の存在を信仰させて、偽りの俺を尊敬させてるからさ。い、一応な。俺の自己満足だよ!!」

「なるほど」



 この人、変なところで律儀というか。上に立つ人としての器を持っていると偶に感じてしまいます。団員とご飯に行ったら絶対お金を出してるし、資産形成したいとか言いながら、必ずご飯代を出して、いつも財布を見てため息を吐いているのを何度も拝見しています。


 それなのに、団長としてはお金はもらわない。騙しているからもらうのは気がひけるとか言っていますし。


 二時間ほどで返信を全て書くと、ゼロ様は私の膝に頭を埋めていました。結構大胆なことを緊張するまでもなくしてくるところに偶にドキドキしてしまいます。


 いきなり神である私の膝に頭を乗せるとは……人間のくせに、神に対してなんたる無礼!! 膝枕など!! 


 まぁ、ゼロ様なので特別に許してあげますが。


「ふむ、前から思っていたがお前の膝枕はそれなりに気持ちがいいな」

「ふふふ、そうでしょうとも」

「膝の体温を下げて、氷枕みたいにできる?」

「要求が多いですよ。それは無理ですが特別に耳かきしてあげます」

「うむ、気がきくな。相変わらず痒いところに手が届く」

「ははー、仰せのままに、団長殿」

「ノリいいよな。お前」

「貴方のメイドですから」



 この膝枕をしながら適当に耳掃除をしていると、ゼロ様の耳垢の特徴がわかってきた。



「結構、乾いてる感じ、ぺりぺりした瘡蓋みたいな耳垢が多いですよね」

「そうかー」

「それで、耳かきしながら天明界の話してもいいですか?」

「やめて! このゆっくり休憩の時間に聞きたくない! その話は後でして!」

「はいはい」



 ゼロ様の休憩が終わると、二人してベッドの上で座り合った。私は最近の報告をしないといけません。



「天明界ですが、拠点の隠し方がかなり巧妙なようですね。なかなか見つけられません」

「やっぱりそれなりな規模の集団なんだな。都市伝説を信じているヤバい奴らの癖に……いや、そういうのをマジにしてるからこそマジでヤバい人なのかもな。ガチで危機感持った方がいいよな。いい歳こいて神様復活とか」

「それと、以前ゼロ様が倒した人が居ましたよね。【紅閃光】の人です」

「……誰だっけ?」

「ほら、元聖騎士の位を持っていた男ですよ。かなり凄腕の剣士だと私と前に話しましたよね」

「……えっと、忘れた」

「かなりの凄腕の剣士なので、覚えていて欲しいです。ゼロ様からしたら大したことのない天明界のメンバーかもしれませんが世界的に見たらかなりの凄腕なんです」

「でも、レイナとか見てると他の人とかあんまり覚えられないんだけど。ほら、お前等って造形美しいし、綺麗な瞳はまるで宝石みたいだろ?」

「きゅ、きゅん!」



 こ、この人は神である私を誑かすとは万死ですよ! くっ、神なのに人間にキュンキュンしちゃいました



「見た目はね、良いのに。他はうんまぁ」

「そこ、いらない一言です。あれですよ、欲の亡者ちゃんこと、ナデコ様と一緒に働きに行ったらそこにいた剣士です」

「あー! あいつか!」

「思い出す流れが独特」

「あぁ、あれは結構な剣士だったな。俺天才だけどさ、生まれて三ヶ月の俺と良い勝負だなって思ったから凄いなって思ったんだ。あぁ、思い出した思い出した、大した剣士だったよ。いやー、俺が生まれて三ヶ月だったら、あの天才剣士、俺と良い勝負だったろうな」

「嫌味の極地か」



 この人、偶に自分のことを天才とか平気で言うんですよね。まぁ、ゼロ様は天才なのは本当ですから否定出来ませんけど



「あれは聖騎士の位を持っていた、ダグゼという名前の剣士だそうですよ」

「ふーん、それで?」

「その剣士が脱獄したようです」

「え? マジ?」

「マジです。ゼロ様が気絶させて、王国が幽閉していたそうですが、まんまと逃げられたそうです」

「あらあら」

「しかし、これではっきりしましたね」

「あぁ、レイナの太ももが少しふっくらしていることがわかったな。お前、ちょっと太ったろ」

「ち、違います! 太ってません! 脱獄を手助けした存在がいると言うことです! 王国の騎士団の中にも天明界の連中がいるというのが言いたいんです!」

「あぁ、なるほどね」

「あぁ、なるほどね、じゃないですよ。一応聞きますが、これを確かめるために、あの剣士を生きたまま倒し、騎士に処分を任せたんですか?」

「ふっ、その通りだ」

「はい、適当に処分とかが面倒だからやったんですね。わかりました」

「流石だ。ここまで看破されるとは、お前こそ団長に相応しい。凄いやつだよお前は、この団長の地位はお前にやろうじゃないか。頑張れ、レイナ、お前がナンバーワンだ」

「やりませんよ」

「ちぇー、んだよー」



 ここで私が団長にでもなったら信仰が途切れるのが目に見えているからです。


 流石の私も気づきます。信仰は間接的に生まれていると言うことに。



 聖神アルカディアを信仰しているわけではない。ゼロ・ラグラーが信仰をしていると言っているから、信仰をしている。彼が信仰をしているのだから良い神様に違いない、間違いない。


 団員達がそう強く思っているのが凄くわかる。きっと、この人にそれを言っても、厨二病的な痛いやつを思われて



『お、おう、日頃から疲れてとかあるよな? あ、あれだ、ハグしてやるぞ? 頭なでなでもしてやろう』



 と言われるだけなのは目に見えているので言わない(偶に頭なでなでして欲しいさびしんぼう神様なので敢えて言う時がある)



 それゆえに彼に団長を辞めてもらっては困る。私が主に困るし、団員達も路頭に迷うし、もし、神々が復活したら勝てるのは彼だけだろう。


 他の団員でも良い勝負はできそうなのは何名かいらっしゃいます。特に【星】のジーン、一時期はゼロ様に剣を教えていたほどの剣士。彼が実質のナンバー2と言っても良いでしょう。


 実力的にはゼロ様の次に彼が位置している。ただ、だが、失礼ですがゼロ様とジーン様は隔絶している、絶対的な実力の差が存在している。


 最早、別の競技。比べるのがおかしいほどの実力的な差がある。ジーン様もそれは認めているようで、ゼロ様が味方で心底安心しているとおっしゃっていた。



 そう、私もそう思います。神として、この人間が私を嘘だとしても信仰をしてくれていて良かったと心底思っています。


 彼を一言で表すならば



──突然変異の人間。



 無限の魔力を持つ、究極の一。私はゼロ様をこのように評価している。才能マンという言葉では説明ができない。努力をしていないとは思っていない、幼少期から代行者としての実戦経験を持っていた。


 だが、それだけでは説明がつかない。努力ができる、そういったのとは違う。完全的な別次元の存在。



 もしかしたら……神という概念が産まれたのは、こういう稀に生まれてくる化け物みたいな人間を、人々は【神】と崇めていたのかもしれない。




「あ、そう言えば団員達から会いたいって言われてたの思い出した。代行者の服着て行かないと……行きたくねぇ」




 こんな気の抜けた感じなのに全盛期の力を持ってても勝てる気が一切しないんですよねぇ。



「ゼロ様はどうして、魔力を使う時は絶対に代行者ムーブになるんですか? いつもあれ恥ずかしくないですか?」

「そりゃ、暗黒微笑BGMが始まるからな。いつ誰が見てるか分からないから魔力を使った時は代行者ムーブしてる。代行者がいなくて俺がいて暗黒微笑BGM出たら俺が代行者ってバレるだろ。大問題だろ、俺結構昔やんちゃしてたからそれバレたら貴族としての地位もやばいし、パパンとかママンとか、リトルシスターとかビッグシスターも立場がやばくなりそうだし」

「なるほど」

「あと、一応、団員はあっちが素だと思ってるだろ、偶にあっちのムーブしてないと出来なくなるかもしれないからな、恥ずかしいからしたくないけど。してる」

「なるほど」

「ほら、この手紙見てよ。女の団員からなんだけど、いつも優しそうに気品ある話し方をしている団長が素敵ですってさ。これ書かれてどうやって辞められるよ?」

「無理ですね。お疲れ様です」

「うむ」



 その後、私とゼロ様はアルカディア革命団、秘密基地に向かった。そこには他の団員達がいた



「あ、団長様!」

「団長!!」

「きゃー、団長よ!」

「団長、歴史について気になる箇所がありまして見ていただけますか!」

「僕、団長の役に立ちたくて、魔法を覚えるの頑張ってます!!」

「俺なんて、冒険者のランク上げました!」

「団長は世界の歴史を見破っているから凄いよな」

「あの人、未来を視れるとか」

「流石だよな、団長」

「しかも、団長お金もらってないらしいぜ」

「凄すぎだよな。聖職者なんだろうな」

「性根から人格者、王の器だよ。あの人は」

「男気にも溢れてるよな」

「俺、団長みたいに振る舞ってたら街に住んでいる好きだった女の子と付き合えたんだよ」

「俺も俺も」

「やっぱ団長みたいにしておくべきだよなぁ」

「聞いたか、団長ってまだまだ発展途上なんだって」

「まだ上があるのか!?」

「しかも、この間聖騎士の【紅閃光】を敢えて騎士団に処理を任せたのも王国の騎士団に天明界のメンバーいるのを確定させるためなんだって」

「頭脳もキレッキレだな。流石です団長」

「流石です、団長、略して……さすだん!!!」

「さすだん!! さすだん!!」

「さすだん、さすだん!!」

「いや、団長最強、団長最強の方が良くないか」

「略して、だんさいだな」

「だんさい、だんさい! だんさい!!」

「さすだんさすだん!!」

「でも、団長がこんなに頑張ってくれてしかも、無給なんだよな。辛くて辞めたりしないか心配よね」

「そうよね。私、団長のためにクッキー焼いたからこれで少し気持ち上げてくれないかな?」

「団長が辞めたら、絶対この組織崩壊するしね」

「内部分裂まっしぐらだよ、あんなカリスマ性と実力と実績を持ってる人他にいないし」

「団長こそ給料たくさんもらうべきだよね」

「優れた人には優れた対価が払われるべきだよ」






 ……これは辞められない。少し同情しました。ゼロ様も顔がなんだか青くなっていて、諦めているような顔をしていらっしゃいます。あとで、ハグしてあげよう



「うわーん、レイえもん!! 団長辞めたいよ!!」

「もー、しょうがないなぁ、ゼロくんは」




 ごめんなさい、人間。愚かな愚神で。この散々褒められて、団長がどんどん辞めづらくなって、疲弊しているゼロ様をこうやって甘やかすのが私としては、悪くないと思っているのです。










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