【KAC20243】箱入りのお嬢様達
孤兎葉野 あや
箱入りのお嬢様達
「最近、今までよりも遠いところへ旅をしてきたのですが・・・」
王城の貴賓室で、女王の客人の一人・・・最近の通り名や、この国で流布している物語の呼び名では『賢者』が口にする。
この時点で、女王様が『私も行きたい!』と言い出さないか不安ではあるけれど、今日のところは大丈夫そうだ。
「とある地方では、『箱入り娘』という言葉があるそうなのです。」
「え、箱入り・・・? 本当に娘を箱に入れるわけではないのよね?」
「はい。名家に生まれるなどして、ほとんど家から出ることなく大事に育てられた娘を示す、比喩表現だそうですが・・・」
「それが子供の頃のウヅキにぴったりな言葉だなって、二人でなんとも言えない気持ちになったんだ。」
隣から『剣士』・・・『賢者』を『ウヅキ』の名で呼ぶならば、こちらは『ヤヨイ』が、少し恥ずかしそうにしているウヅキの言葉を補足する。
「あなたの場合は色々とあったでしょうから、確かにそうよね・・・」
女王がうなずくのを見ながら、私も心の中で同意する。
知り合う前から、彼の国に類稀なる優秀な娘が生まれ、半ば秘匿されるように育てられている・・・という話は聞いたことがあるくらいに。
「そういう意味では、私も箱入り娘に当てはまるのかしらね・・・」
「「え・・・?」」
「は・・・?」
ヤヨイとウヅキの声が重なり、私も思わず疑問が漏れる。
「ちょっと、ミカの声まで聞こえたのはどういうことかしら?
なかなか外に出してもらえないって意味では、間違ってないでしょ。」
あっ、女王の矛先がこちらに向いた。護衛兼幼馴染として、彼女のことを一番知っているのは確かに私だけど・・・
「ええ、『周りがあまり外に出そうとしない』のは確かよ。そりゃあ子供の頃から王女様なんだから。
ただ、その『箱入り娘』という言葉を元にするなら、あんたは箱に大穴開けて遊び歩いた後、しれっと中に戻ってきてる娘でしょ。」
「あら、言ってくれるじゃない。もちろん、一人でそんなことは無理だから、優秀な護衛がいたおかげとも言えるけどね。」
「あんたねえ・・・いつも私の手を引いて、所構わずすっ飛んで行ったのはどこの誰よ。」
「えー? あなたも結構楽しそうにしてたと思うけど。」
「ぐっ・・・それはそうだけど、一歩間違えれば危なかったのは確かだからね。」
まあ、地面にへばりついてでも止めなかったのは私自身なので、そう言われると旗色が悪い。
「あはは、二人も結構やってるんだね。」
「私も、もっと早くヤヨイに出会えていれば、こんな風だったのかもしれません。」
この二人の出会いについては、激動の時期でもあったので、簡単に触れて良いものか分からないけれど、今ウヅキがそんな表情を出来るのは、良いことなのだろう。
「そういえば、今のウヅキの『箱』って、ヤヨイってことになるのかしら。」
「えっ? 私達は普通に出歩いてますけど。」
「まあ、家から出ないってことには当てはまらないけど、
なんというか、ヤヨイが隣にいることの頑丈な守り感が凄いわよね。不届き者なんて絶対に近寄れないような。」
「あはは。そのためなら私は、箱にでも壁にでもなるよ。」
「私も、喜んでその中にずっとずっといますよ。」
女王の言葉に、ウヅキがこてんとヤヨイの肩に寄りかかって笑う。
うん、いつもの二人だなあ・・・
「あら、見せつけてくれるじゃない。ミカ、私達も明日二人きりで城を・・・」
「やめなさい。暇つぶしの出来る『箱』くらいにはなってあげるから。」
「ふふふ、ありがとう。皆、こんな話の流れになったところだし、今夜は早めに休むことにしない?」
あっ、そちらの方向に火を付けてしまったか。ヤヨイもウヅキも、近くで話を聞く側に回っていた四人もうなずく。
どちらが娘の箱となるか、あるいは互いに囲い合うのか、今夜はそれぞれに二人きりを楽しむ時間になりそうだ。
【KAC20243】箱入りのお嬢様達 孤兎葉野 あや @mizumori_aya
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