第13話

 外が暗くなると、カフェの看板はバーへと変わる。

「あ、そろそろ同伴出勤の時間だわ。それじゃ、お勘定、ここに置いておくから。強君もばいばい。また会いましょうね」

 葛さんはそう言って店のドアを開け、ネオンの光る街へと繰り出していった。

「強君、あなた朝からずっといるけど、時間とか大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫です。晩ご飯食べたら、家に帰りますから、それまではここに居させてください」

「それは構わないわ。さあ、何を食べたい?」

「ユウカさんのおすすめで」

「うふふ。じゃあパスタにしてあげる! ミートソースにしてあげるわね」

 ユウカさんは鼻歌を歌いながらパスタを用意している。

 暇を持て余した俺は、スマホで最近のニュースを見ていた。俺の世界が、視野が狭かったことをまざまざと見せつけられる。

 視覚障害者だった頃と違い、今は目が見える。だから、世界は拓けたのだと思ったが、どうやらまだまだ知らないことは多そうだ。

 世界情勢、病気、政治、食中毒、犯罪。スマホには目まぐるしい世界の渦のようなものがある。俺はそこに飛び込む覚悟でいろいろな記事を見ていく。

 そこで目に付くのが、人の背後に影、口から影。とにかく影が多く目に留まった。

 世界は、マイナス思考で溢れているのだろうか。それとも、誰かを陥れようとする人がいて、騙されたり、嫌な思いをする人がいるのだろう。

「さ、パスタが出来上がったわよ。お口に合うといいのだけれど」

「ありがとうございます」

 目の前に出されたパスタは、リボン型をしていて、その上にミートソースが掛かっていた。

 フォークでパスタをソースに付けて食べる。

 甘酸っぱくて、とても美味しい。

「ユウカさんは料理の天才ですね。凄く美味しいです」

「嬉しいことを言ってくれちゃって。ついサービスしたくなっちゃうじゃないの」

「いいんですよ。正当な対価は受け取った方がいいと、俺は思います」

「それもそうね。ありがとう」

「いえいえ」

 そして俺は十分もせずにパスタを食べ終えた。


 お勘定を済ませて、店を出ると、少し肌寒く感じた。

 街中は影でいっぱいだ。俺はすぐさまチャンネルを見えないところに変えて、自宅へと戻った。

 自宅に戻ると俺は影を見えるようにする。

 そして俺は話しかける。影に、今日あったこと、共闘のこと、共存のことを。

「俺、あまり多くのことを言われてもわからない」

 そういうものだから、順に話していくことにした。

「正直に言ってほしい。お前は人を騙すことが出来るのか?」

「出来る。でも、しない。強、嫌がる、それ、嫌」

「今日、初めて共闘したけどどうだった? 影を食べた感想は」

「力が漲った、でも、同時に寂しい気持ちがいっぱい、溢れた」

「俺達は共存出来るよな?」

「出来る」

 影はそれだけは断言した。

 俺はそれを信じようと思う。もし、裏切られたら、その時はその時だ。

「お前考えすぎ。早く眠れ。俺も眠る」

「ああ。おやすみ」

 俺はシャワーを浴びてから寝間着に着替えてベッドに身を預けた。

 間接照明が、心地良い眠りへと誘う。

「俺達に、友情はあるよな」

 ぽつりと俺が呟くと、影は「……そうかもしれないな」と言って、寝息を立てて眠りに就いた。

 俺も眠りに就こうと目を閉じる。暗い世界。それが、ついこの前までの見え方だったのに、今となってはこの見え方が恐ろしい。

 ぼんやりと天井を見つめていると、次第に瞼が重くなって、いつの間にか俺も眠りに就いていた。

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