前世持ちの親友が言うには僕のスキルは規格外らしいです ……綺麗な箱の形をしてるんだけど?

真偽ゆらり

箱に入るモノ、入っているモノ

「貴方のスキルは【箱】です」


 スキル付与の儀式にて告げられた頓智来とんちきなスキル名に受けた衝撃で僕は前世の記憶を――特に思い出したりはしなかった。そういうのは親友で間に合ってるので。




 場所は変わって冒険者酒場。

 同じくスキル付与の儀式を受けていた親友と合流して飯を食いながら話していると授かったスキルの話に。


「【箱】!? そりゃまたよく分かんねぇスキルだな。俺の【検証】よりも使い道が分からんって」


「使い方は分かるよ? こうやって箱が出せる。今んとこ二個だけね」


 スキルを使うと白い紙製の箱が手のひらに現れる。


「カップが丁度入りそうな大きさだな」


 親友の言葉にさっきまで飲んでいたカップを試しに箱へ入れてみると、確かに大きさはピッタリだった。


「出せるって事は消したりもできるの?」

「……できた」


「カップは?」


 テーブルの上と下と確認するが箱に入れていたカップが見当たらない。


「まだ飲みかけだったのに」

「ふむ。もっかい箱を出してみてくれ」

「あった! 中に入ってる」

「マジか!? アイテムボックスじゃん」

「ぼっくす?」

「俺の前世のある地方で箱を意味する言葉だ」

「ふーん」

「『ふーん』て、お前は相変わらず俺の前世発言を否定も肯定もしないよな」

「確かめようがないし、聞いてて面白いのもあるから」


 箱からカップを取り出して飲みかけのお茶を飲む。


「なんか変わったか?」

「さっきと同じ味だけど、何か変わるのか?」

「温度とか」

「この短時間で変わるわけないだろ」

「……確かに」

「あ、待って箱の方に変化がある」

「ほう」

「お茶の湿気でへたってきてる」

「そりゃ紙だもんな」


 これでは箱の意味をなさない。


「それ消して新しいの出したりはできないか?」


 へたった箱は光になって消えたが、箱が出ない。と、思ったが三秒くらい待ったらまた出せるようになった。


「新しい箱を作るのに少し時間が掛かるみたい」

「そっか。大きさは変えられるのか?」

「変えられるっぽい。感覚的にあの鳥の丸焼きが入るくらいだけど」


 そういって店員のおっちゃんが運んでいる大皿を指差す。


「うおっ!?」


 するとおっちゃんの手にある鳥の丸焼きがきえ、大きめの箱に変わった。


「なるほど、遠隔でも発動できんのか」

「おう、これやったのお前か?」

「いや、俺じゃねぇ。相棒の方だ」


 親友に指差された僕の方へおっちゃんの顔が向く。


「ご、ごめんなさい」


「別に怒っちゃいねぇよ、料理の方も箱の中に入ってるだけで無事だったしな。それにスキルを貰ったばっかのガキが暴発させるのはこの時期の風物詩だからな!」


 おっちゃんは「ガハハハッ」と笑いながら戻っていった。


 大箱を消して新しい箱を出そうとして気付いた。


「スキルレベルが上がってる」

「早ぇな!?」

「木製の箱も出せるようになったみたい」

「そんだけ?」

「ん~、出せる箱の数が四つになってる」


 机に並ぶ大きさの違う四つの木箱。感覚的に変えられる大きさの範囲も広がっている。


「どうした?」

「これとこれをこーして、じゃーん! 箱ハンマー」


 直方体の大箱に細長い箱が付いたモノが掲げた僕の手に。


「武器にするには中身入れて金属製にしないとだな」

「そしたら重くて振り回せない」

「身体レベルの方も上げてこうか」


「おう坊主、暴れんなら外行け! 外!」


「「はーい」」


 皿の残りを急いで平らげ、僕たちは冒険者組合の訓練場へと移動した。




 棒状にした木箱を持たせた親友に向かって手のひらサイズの木箱を投げる。

 当たったらどっちの箱も砕けるので三十秒のクールタイムを待って攻守交代。


「球体にはできないの――な!」

「あ、なんか実績解除ってある」


「レベルアップではなく?」

「うん。箱の模様が変えられるようになったみたい」

「それなら遊びがてら箱の破壊と生成を繰り返すより色々試した方がいいか」

「例えば?」


 親友は少し考えた後、いくつか例を上げてくれた。


「地面に半分埋めるように出して相手をつまづかせるとか」


 石の装飾が追加できるように。


「土でも詰めた箱を上から落として攻撃に使う」


 箱に張り紙を付けられるようになった。


「出した箱に絵でも描いてみるか?」


 箱の色が変更可能に!


「地面に埋めるように出して消して、中身を別の場所に捨てるのを繰り返せば穴が掘れるんじゃね?」


「あ、スキルレベルが上がったよ」

「どうなった」

「箱に蝶番が付けれるようになった」

「箱の素材は?」

「変化なしだね。あ、でも紙や木の種類が変えられるっぽい。それと出せる箱の数が八つに」


 素材を硬い木にして蝶番の部分で殴れば武器になりそうだ。


「何やってんの」

「こうすれば武器として使えそうかなって」

「痛そうではあるな」

「でしょ!」

「予備の武器を箱に入れて仕舞っとけばよくね?」

「……その予備が壊れた時に使えるし」

「いや、予備を使うってなった時点で撤退しようぜ」


 ですよね。


「でも蝶番があると宝箱っぽいよな」

「この棒が?」

「違ぇよ!? 普通の箱に蝶番が付いて開け閉めできたら、だ」


 蓋の部分を半円柱状かまぼこ型に、石で装飾して……色も変えてみよう。張り紙を銀紙にして貼り付ければもっとそれっぽくなるかも。


「できた!」

「は?」

「宝箱」

「マジだ……少し安っぽいけど宝箱が――て流石に中身は空か。実績解除はあるか?」


「作れる箱の種類に宝箱(もどき)って追加されたね。あとスキルレベルが五まで上がったけど、中身はもっと上がらないとダメみたい」


 遂に箱材に金属銅と鉄が追加された。出せる箱数は三十二まで増えてる。


「上がり過ぎじゃね?」

「別に良くない?」

「それはそう。う~ん傾向からすると『箱』って付く何かを作るのがスキル経験値的なのが多いかもしれねぇな」


「例えば?」


「箱庭」


 箱の中が以前に親友から教えてもらった日本庭園風に、スキルレベルは六に。


「実績解除でもっとスキルレベルが上がると箱庭で休めるようになるって」


「玉手箱」


 縄で縛られた漆塗りの箱。スキルレベルが七へ。


「これは開けない方がよさそうだね。他に思い付くのってある?」

「相棒、お前も考えろ」


 暇つぶしに聞いて来た親友の前世話を思い返す。


「あ、シュレーなんとかの箱」

「猫、な?」

「え、でも出てきたけど」


 出てきた箱の大きさは猫なら余裕で入る大きさだった。


「確か思考実験の一種で箱に毒と猫を入れ――待て待て待て、開けようとすんな相棒! 猫の生死に関係なく毒が出るかもしんねぇから!」


 今まさに開ける寸前だった手を止める。


「…………」

「そんな顔すんな、出したのは相棒じゃねぇか」

「……ならパンド――」

「それもっとダメなヤツだからな!?」

「そうなの? まぁ、スキルレベル九だとレベル不足で出せなかったけど」

「だから危険物を出そうとすんじゃ――ってレベル上げると出んの!?」

「ねぇ他に面白そうな箱ってなにがあったっけ」


「待った待った待った! 相棒、俺が悪かった。俺が考えるから、俺の前世話で聞いた箱を興味本位で出そうとすんじゃねぇ! 世界が滅ぶ」

「大げさな……」

「厄ネタばっか教えるんじゃなかった」

「箱、ハコはこ……しまう。しまっちゃ――」

「よーし! 今アイデア出すから!! ほんとに待って!? えっとなんかないか、なんか安全そうな箱……あ、『箱入り娘』なんてのはどうだ?」


 それって箱なのかな?


「鎧だ」「鎧だな」

「でっかい鎧だね」

「これ『箱入り娘』で出したんだよな?」

「そのはずだけど……」


 箱入り娘で出てきたのはでっかい鎧だった。


「ここはいったいどこなんですの!?」

「良かった、中にヒトいた」

「良かった……のか?」


「下の方から声が……あ、ヒトがいましたわ!」

「うゎ、スッゴイ美少女だ」

「確かにとんでもねぇ美少女だけど、なんかおかしくねぇ?」


 鎧の兜が外れ中から出てきたのは訓練場にいた全員の視線を集める程の美少女。

 おかしいのは鎧とのサイズ比。巨漢のヒトにとっても大きいくらいの鎧なのに彼女は僕らと変わらないくらいの身長しかない。


「来てしまったのはしかたありませんわ。幸い超剛筋の重鎧もありますし」

「え、それ着れんの? 動かせるん?」

「なに当たり前の事をいってるんですの? 当然です――わ!」


 彼女が鎧の中に戻ると超剛筋なる重鎧は機敏に動き出し、拳を地面に叩きつけて運動場を真っ二つに。


「マジか……」

「鎧が凄いのかな? それともあのかな?」


「この鎧に特別な装置は積んでませんわよ? あっても精々鎧の中を快適空間にする魔道具ですわ」


 つまり素の身体能力だけで地面を割ったってこと!?


「「………………」」


 運動場にいる誰もが何も言えなかった。

 喋れたのは地面を割った彼女だけ。


「ところでこちらにも漫画は売っているんですの?」

「「………………」」

「聞いてます?」


「は、はい! 本はまだ高級品なので漫画は売ってないかと思われますです」


 親友が敬語使ってるとこ初めて聞いたな。少し変だけど。


「……帰りますわ」


 彼女はため息を吐くと光となって消えていった。


「とりあえず『箱入り息子』の方も試してみるね」

「おいバカやめろ相棒――って遅かったか……捨て犬?」

「子犬だね、三匹いる。名前はポチ、タマ、チーだって」

「タマとチーは猫の名前だろうに」


 現れた箱の中に毛布でくるまれた内の一匹だけを抱きかかえようとするが上手くいかない。他二匹も一緒についてくる。胴体が一つしかないせいで。


「これは三匹なのか一匹なのか」

「ケルベロスの幼体ィ!?」

「この子飼ってもいいかな?」

「従魔契約を速攻で済ませてから聞くな。飼う気満々か!」

「うん!」

「別にいいけども」

「やった!」

「にしても相棒のスキルは召喚術でもあるのか? なぁ、試しに『段ボール箱』を出してみてくれないか」


 親友の頼みに応え、『段ボール箱』なる箱を出してみる。


「良かった、スキルレベルぎりぎり足りた」

「今いくつよ」

「二十九」


 親友は口を真一文字に結んで難しい顔をしながら段ボール箱の元へ。


「!」


 今、膝を抱えて座るダンディなおじさんがいたような? と思った瞬間――組み敷かれて首を絞められる様な感覚と供に意識を失ってしまった。







「まさか伝説の傭――よぉ相棒、目が覚めたか」


 顔を舐めるくすぐったい感触に目を開けると椅子に座った親友が手を振っている。

 地面が柔らかい? どうやら意識を失っている間に医務室へと運ばれたらしい。


「いったい何が?」

「呼びだした存在に俺達は締め落とされたんだ」

「なるほど僕らのレベルが足りないから召喚獣が言う事聞かなかった感じかな?」

「違う……と言いたいところだが意味合い的にはそれが一番近いかもだな」

「スキルも無事? 授かれたことだし強くなろう」

「そうだな、相棒」

「うん! 僕たちの冒険はこれからだからね」


「その言い方は縁起悪いから箱にでもしまっとけ」


[僕たちの冒険はこれからだ]

[たちの冒険はこれか]

[の冒険はこれ]

[冒険]

[]


「今、何やった?」

「言われた通り箱にしまっといた」

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前世持ちの親友が言うには僕のスキルは規格外らしいです ……綺麗な箱の形をしてるんだけど? 真偽ゆらり @Silvanote

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