行田ゼリーフライヤーズの4番、足袋

熟成二段仕込み

それ行け!行田ゼリーフライヤーズ

埼玉県名発祥の地とされる埼玉県行田ぎょうだ市。出土した鉄剣が国宝に指定された埼玉古墳群や足袋の生産で知られているが、近年では、田んぼアートでも注目を集めている。そんな行田に「ゼリーフライ」と呼ばれる郷土料理がある。主におからとじゃがいもを素揚げしたもので、形が小判に似ているところから「ぜにフライ」が転じて「ゼリーフライ」。ご当地の名物料理をチーム名に冠したプロ野球球団の行田ゼリーフライヤーズは、本拠地である九万石ドームで千葉ナッツとの試合を行っていた。


「監督、箱どこにあるか知りません?」


試合中のベンチで箱を探しているのは、行田ゼリーフライヤーズの4番、足袋と書いて「あしぶくろ」である。ちなみに足袋あしぶくろは本名ではない。ゼリーフライヤーズの4番は代々、足袋あしぶくろという名を襲名することになっており、当代は48代目になる。茶屋四郎次郎と同じシステムと言えば、お分かりいただけるだろうか。


足袋あしぶくろ、今は試合中だぞ。だいいち箱なんて何に使うんだ?」

「私が中に入るんですよ」

「棺桶じゃないんだから。人が入れるほど大きな箱ならすぐに見つかるだろう、それより、次はお前の打席から始まるんだ、準備をして早く行け」


足袋あしぶくろはベンチ前に出て素振りをしながら、


「ところで監督、どうして足袋と書いて『あしぶくろ』と読むかご存知ですか」

「いいや。行田は足袋たびの生産が盛んだったそうだから、『たび』と読んでも良さそうだけどね」

「私もそう思ってたんですけど、襲名する際にその理由を先代から教えてもらったんです」

「オレにも教えて」

「良いですよ。まず。池に袋と書いて何と読みます?」

池袋いけぶくろ

「それじゃ、手に袋と書いて何と読みます?」

手袋てぶくろ

「だったら、足に袋と書いたら?」

足袋あしぶくろ

「ほらね?」

「なるほど」


思考はシンプルな方が良い。もちろん時と場合によるのだが。

素振りを終えた足袋あしぶくろは打席に向かと、


「監督、それじゃバッターに入りますね」

「箱、あった!」

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行田ゼリーフライヤーズの4番、足袋 熟成二段仕込み @Niiza_Chuo-ku

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