男は俺だけな王立聖女学院~もしかしたらどレズの生徒会長が童貞で超能力者な俺に堕ちるかもしれない~

むね肉

第1話

 男女比1:9の異世界に転移した。

 この世界は天国(地獄)である。

 完全女性優位の社会。権力者はほぼ女。法律も女のためのもの。男は希少価値が高いので守る、という名目で囚われる。


 美人は多い。性格や趣味嗜好は様々だが、共通してみんな性欲旺盛。男に興味津々。女性同士の猥談なんて聞いてられない。

 その癖、男を見つけるや否や、いそいそと髪を整えたり服のシワを伸ばしたりして、顔を赤らめる。照れがあるんだ。


 そんな世界だから、いつも股間が大変なことになる。お腹の奥の方がキュッとなって、股間がヌルヌルになる。

 我◯汁じゃない。いきり立ちはしない。俺はいま女体化してるので、興奮すると股間が濡れてしまうんだ。


 そう。俺ことサイク・ミライは超能力者である。

 女体化を代表とする有名どころの超能力は大体使える。

 今もそれを使って正体を隠しており、そして模擬戦に励んでいた。


「また腕を上げたね、ミライ!」


 俺と木剣を打ち合いながら、アリアがはつらつとした声を上げる。

 王立聖女学院、生徒会会長アリア・ローレライ。

 茶色の瞳。すらっとした鼻筋。薄いさくら色の唇。

 長い黒髪は後ろでくくっている。いわゆるポニーテールだ。


 可愛い。

 俺はアリアに一目惚れしている。

 俺の好きな子だ。

 意中の相手。

 ベタ惚れと言ってもいい。


 そんな俺の憧れの女性の格好は、薄手のタンクトップだった。


 ノーブラだった。

 ほぼ裸だった。

 好きな子の裸だ。


 股間が濡れる。


 アリアは木剣を振り下ろす。

 ほとばしる汗。

 動く度にこぼれそうになる谷間。

 そしてタンクトップなので、腋は全開。


 濡れる。


 でもヤバい。これ以上濡れると本当にまずい。

 なにがまずいって、極度に興奮すると女体化が解けて元の男に戻るんだ。俺の超能力の弱点である。

 もしここで俺が男だとバレれば、退学では済まない。犯罪奴隷として死ぬまで種馬にされる。

 そんな人生はごめん被りたい。


 俺はアリアの木剣を自分の木剣で受け止めると、激しく打ち合う。

 股間のこれは汗だと自分を誤魔化すために。


 最初は天国だと思った。

 しかし、転移したその日の夜に俺より50も年上の貞淑なレディから襲われそうになって以来、俺は自衛のために女体化している。


 俺が王立聖女学院に入学したのも、その一環だ。

 この学院は全寮制の女子校であり、不純 "同性" 交遊禁止という校則がある。ようはレズ禁止だ。あまりにも男と触れ合う機会が少ないので、やけになって女同士でハッスルすることはままあるらしい。

 俺にとっては願ってもない校則だ。女体化さえしておけば襲われる心配もないし、興奮する機会だって限られる。因みにこのルールを破ると厳しく罰せられ、更正院と呼ばれる学内の矯正施設にぶち込まれるという。


 そんな経緯もあって、俺は未だに童貞だった。

 この世界では珍しい。いや、同世代ではほぼ皆無だろう。

 恥ずかしくはある。俺だって童貞のまま死ぬつもりはない。なら、簡単だ。女体化を解いて男に戻ればいい。この世界なら、男というだけで初めてなんかいつでも捨てられる。


 だが、そうはいかない。

 俺は一度、女性からのお誘いを断ったのだから。

 たとえ50歳上だろうと、俺はレディからのお誘いを無下にした。

 その瞬間に運命は決まった。


 童貞は好きな人に捧げる。

 そして今、俺にはその好きな人がいる。

 きちんとお話をして、何度かデートを重ねて仲を深め、それからアリアに告白する。


 性欲なんかには、絶対に負けない。


「私と打ち合いながら上の空なんて随分余裕じゃない! さっきからどこを見てるの、ミライ!」


 おっぱいだ。

 お前のおっぱいが俺の股間を濡らすのだ。

 おっぱい揉みたい。

 自分のじゃなくて、本物の女の人のおっぱいが揉みたい。

 でもそれは、アリアのじゃなきゃダメなんだ。

 俺は好きな人と結ばれたいと思っているんだから。


「上の空なんかじゃありません! 今日こそは一本取らせてもらいますよ、アリア会長!」


 青春の一ページっぽい爽やかなやり取りをしているが、俺は股間が濡れないようにするのに必死だ。

 というか、パンツが濡れると色々大変なんだよ。洗濯の時とか。

 どうしてアリアは無駄におっぱいを揺らすんだ。乳首が見えたらマジでヤバい。確実に女体化が解ける。

 俺の興奮はいよいよ限界に達するが。


「そこまで!」


 第三者から制止の声が上がった。俺達は打ち合いを止める。


「素晴らしい模擬戦でしたよ。アリア会長、ミライ書記」


 副会長のルーテミスが俺達を称える。

 彼女に救われたか。

 俺は二人に礼をする。

 俺の童貞は今日も守られた。


「ありがとうございました。アリア会長、ルーテミス副会長」

「私こそ、ミライの成長を見れて嬉しかったよ」

「私は審判をしていただけですから」


 模擬戦に付き合ってくれた二人は人格者だ。人としても尊敬できる。


「流石は私が推薦して生徒会に入っただけはあるよ。いつも頑張ってて偉いね、ミライ。いいこいいこ」


 頭を撫でられてにやけそうになってしまう。しかし、俺も男だ。甘やかされてばっかりなのは良くない。アリアは一つ年上なので俺のことを妹みたいに思っているのかもしれないが、それは俺の望むところじゃない。少しは男らしいところを見せて好かれないと。

 ……女体化したこの姿じゃ意味ないかもしれないが。


「俺、もっと腕を上げます。だから、その時はまたお願いできますか?」

「もちろん。またやろうね」


 タオルで汗を拭いながら了承するアリアに、ルーテミスが追従した。

 また股間が濡れそうになる。アリアがタオルで汗を拭くとき、腋がチラチラ見えるのだ。

 俺は奥歯を噛んで何とか耐える。

 余談だが、俺が男口調なのは問題ない。本当にこの世界は色んな女性がいるから、微妙な空気になったりもしない。


「みんなー。もうすぐ下校時刻だよー」


 会計のユリがやってきた。のんびりした女だが、こいつは危険人物だ。制服を着崩しており、常に下着が見えそうなんだ。

 俺は股間を引き締めてエロに備える。


「早く帰って偉人の裸夫像写真集見よーよ」


 そらきた。


「はしたないですよ、ユリ会計」

「えー。でも副会長だってこの前、本物の男の人の裸が見たいって言ってたじゃないですかー」

「あ、あれはそのっ! 夜も更けてきて口が滑っただけですから……」

「ほんとにー? 素直にならないと私のコレクションは見せてあげませんよー?」

「それは困ります! あれがないと……」

「あれがないと何ー? ちゃんと言ってくれないと分かんなーい」


 ユリに煽られて、ルーテミスは頬を赤らめながら呟く。


「ごめんなさい、私は男の人の裸が見たいえっちな女です……」

「はい、よくできましたー」


 言葉で俺を興奮させるな。

 股間が濡れるだろ。

 無心になろうと思って俺が遠い目をしていると、ユリが話しかけてきた。


「っていうか、ミライちゃん何で黙ってるのー? 下ネタ話してるといつも入ってこないよねー。もしかして、レズだったりしてー?」


 ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながら、ユリはスカートをまくってパンツを見せびらかしてくる。

 Tバックだった。

 彼女のパンツは黒のTバックだった。

 俺の股間が濡れそうになる。


「そんなわけないだろ、ユリ。ちょっと疲れてるだけだ」


 俺は澄まし顔で乗り切る。

 ふう。危ない危ない。エロに備えていなければ、今頃は無様に敗北して股間がヌルヌルになっていたところだ。


「失礼ですよ、ユリ会計。ミライ書記に限ってそんなことはあり得ません。女同士なんておぞましいことを言わないでください。みなさんもそう思ってるからこそ、この学院に入ったのでしょう?」


 ルーテミスが顔を歪める。

 レズ禁止の校則を掲げてるこの学院では、レズは結構嫌われてる。俺は別に良いと思うんだけどな。


「私もミライ書記を見習うべきでしょうか。入浴は必ず一人で行い、洗濯も極力自分でやる上、その男口調。あなたも私と同じで女同士の仲を嫌悪しているのでしょう?」

「え、あ、ああ、そ、そうですよ?」


 突然水を向けられて焦っていると、アリアが横から大きな声を出した。


「まあまあ! 落ち着きなさいよ、ルーテミス。良いじゃない。趣味嗜好は人それぞれで。そんなことより、もう寮に帰ろ。今日はここで解散ね。それと部屋に帰ったら、みんな洗濯物を出し忘れないように。いい?」


 全員が了承の返事をする。

 強引ながらもアリアが場を収めてくれたので、俺は事なきを得た。


 ただし、洗濯物という鬼門がある。

 これが俺にとっての最大の難関だ。

 王立聖女学院は全寮制なので、生徒の持ち回りによる洗濯当番というものがある。

 そして生徒会に入ってる者はちょっと特別で、生徒会の中だけで当番を回している。

 いつもはのらりくらり躱して自分で洗ってる俺だが、アリアが当番の時だけはなぜか逃げられない。


 そして今日はまずい。

 パンツが濡れてる。

 ふりふりのリボンがついた純白のパンツが濡れてる。


「あ、アリア会長! 今日は俺がやりますよ! 模擬戦に付き合ってくれたお礼をさせてください!」


 俺の提案に、アリアはふっと綻ぶ。


「気遣ってくれてありがとう、ミライ。でも大丈夫。魔導洗濯機に放り込んで、あとは干すだけだから」


 やっぱりアリアは人格者だ。思わず惚れ直してしまう。

 今は嘘をついているけど、いつかは正体を明かして好きだと告白しよう。

 本音を言えば、別人として接触する考えも頭によぎったことはある。俺が男だなんてアリアは知らないんだから、偽名でも名乗ればバレる心配はない。


 でもダメだ。好きな人にこれ以上嘘はつけない。

 騙していたことを謝って、それから男として好きになってもらうよう努力する。たとえ嫌われるとしても、それが俺のすべきことだ。

 改めて決意した俺は、頭を切り替える。

 今はとりあえずパンツの問題を解決しないといけない。


「お疲れではないですか、アリア会長。勉強に剣術の稽古に生徒会の仕事をこなして、こんな雑用までしなくちゃいけないなんて……。お願いです。少しだけでも手伝わせてください」


 俺が頼み込むと、アリアは柔らかく微笑んだ。


「私を甘やかしてくれるのはミライだけだよ。だから私は……ううん。なんでもない。嬉しい。気持ちだけもらっておくね」

「アリア会長……」


 なんて健気な人なんだ。パンツ問題とは関係なしに、当番を代わるべきだと俺は思った。


「でも──」

「──いや、本当に大丈夫! 大丈夫だから! ね? 気にしないで。あの……私、洗濯が好きなの! 汚れが落ちていく感じが、こう、疲れも洗い流してくれる気がするから!」


 なんと。アリアは洗濯をするのが好きだったのか。

 だとすると当番は俺達四人で回しているから、四日に一度しかこない念願の機会ということになる。どうりで手伝わせてくれない筈だ。

 それに思い返せば、アリアが洗ったパンツからはすごくいい匂いがしたような気がする。アリアの匂いに近いというか……そのものというか……まあ、女の子の匂いって感じ。

 あれは丹念に洗ってくれていたからこそだったんだな。


 参った。知らなかったとはいえ、余計なおせっかいを働いてしまった。

 よし。ここは一度洗濯物を出しておいて、パンツだけは隙を見て回収して自分で洗おう。

 そう決めた俺は、みんなに挨拶して自室に帰った。





 俺は忍び足で洗濯室へと向かう。

 無論、パンツ回収ミッションを遂げるためだ。

 やっぱりどう考えてもアリアに男の下着を洗わせるのはダメだ。好きだからこそ余計にそう思う。


「さてと……。それじゃあ、やるか」


 俺の姿がふっと消える。

 超能力の一つ、透明化だ。

 俺が下着を漁っている姿を目撃される可能性は、万に一つもあっちゃいけないからな。

 ……なんだか罪に罪を重ねているような気もするが、今は俺のパンツを回収するのが最優先である。

 ちなみに透明化の弱点は、大声を出すと解除されるというものだ。


「ん?」


 静かに廊下を歩いていると、洗濯室の方から声が聞こえてきた。俺は洗濯室の扉の前まで行って耳を澄ます。


「ィイ……」


 誰かいる? アリアか?


「ラィイ……」


 人の名前を呼んでるのか?

 だとしたら困る。アリア一人でも隙を見計らうのは難しいのに、二人以上いたらお手上げだ。

 渋い顔をしつつも、俺はこっそり洗濯室に侵入する。

 しかし、そこで俺が見た光景は、にわかには信じがたいものだった。


「あっ……んっ……」


 熱い吐息を漏らし。

 内股で立つ。

 俺の憧れの女性……アリア・ローレライが、喘ぎながらパンツを嗅いでいた。


「んふぁ……」


 彼女が鼻に擦り付けているパンツ。

 そのふりふりのリボンがついた純白のパンツには、妙に見覚えがあった。

 それ、ひょっとして俺のパンツじゃ……。


「ミラィイイ……」


 アリアは切なく俺の名前を呼ぶ。

 それは愛する人を健気に求める訴え。

 でも絶対に叶わないと知ってるから、彼女は縋りつくように右手を下腹部へ伸ばす。


「ミライ……ミライ……」


 聞いたことのない甘い声。

 俺の知らないアリア。

 誰がそうさせたのか。

 いや違う。誤魔化すのは止そう。

 アリアは俺を想って鳴いている。


「ミライ……好k……」

「うわぁあああああ!!! 聞きたくなぁあああいい!!!」


 俺はたまらず絶叫した。

 透明化が解けて、俺の姿を視認したアリアが驚愕に目を見開く。


「きゃああああ!!!!」


 アリアの悲鳴が耳をつんざいて、俺は我に返った。


「す、すみません、アリア会長!」

「どうしてミライがここに!?」

「すぐ出ます!」

「ま、待って、ミライ! これは違うの!」


 アリアが真っ赤になって追いすがってきて、俺の服の裾を掴む。


「俺は何も見てません! 本当です!」

「お願いだから話を聞いて! でないと……あなたを殺して私も死ぬ!」

「わ、分かりました! 分かりましたから! 聞きます! だから落ち着いてください!」


 そこまで言うと、アリアは俺の服の裾を離した。

 気まずい空気が流れる。やがてアリアはぽつりとこぼした。


「その、実は……私、レズなの」


 左手に握りしめてるパンツを見れば分かる。一心不乱にくんかくんかしてたもんな。男である俺のパンツを。


「これは……その、ごめん」


 話を聞けば、洗濯が好きだというのは嘘で、本当はただ単に致したかっただけだとか。これが初犯ではなく、何度も何度も隠れてやってたとか。俺以外の下着は使ったことないとか。そして今日のパンツは特別すごいことになってたとか。

 アリアに全てを吐露されて、俺はかなり嫌な予感がした。なんだか、今の彼女の勢いの良さはとてもまずい気がする。

 衝撃の告白に俺が無言のままでいると、アリアが何かを決意したように俺の瞳を情熱的に見つめてきた。


「ごめんなさい、ミライ! 許して欲しいなんて言わない! 罰は絶対受ける! でもねミライ、私はあなたが──」

「あー!」


 俺は大声でその先のセリフを遮る。


「ミライが好k──」

「うわー!」


 聞きたくない聞きたくない聞きたくない!

 俺は耳を塞いでうずくまる。

 だって、女体化した俺を好きになってくれても全然嬉しくない。

 いや、それどころか最悪だ。

 本性が男である俺とは決して結ばれない運命なんだから。


 なら、正体を隠して女体化したままアリアと付き合う? 無理だ。そんなことはできない。俺は男なんだ。男の俺を好きになってもらわないと意味がない。


「大丈夫ですか、アリア会長!」

「なんかおっきい声が聞こえたけどー」


 ルーテミスとユリの声だ。廊下から聞こえてきた。

 まずい。

 パンツを握りしめてるアリアの姿を見られれば、俺までレズだと思われるかもしれない。

 どうすればいいんだと俺が混乱していると、アリアに手を引っ張られた。


「きて、ミライ! こっち!」


 強引に押し込められて、扉がぱたんと閉まる。

 暗くて狭苦しいロッカーの中である。

 俺はひそひそとアリアに囁く。


「どうして隠れるんですか、アリア会長……!」

「ごめんね、ミライ。でもお願い。少しだけ我慢してくれないかな? みんなに見つかったら、私退学になっちゃうかもだから……」


 触れ合いそうなほど近くにあるアリアの唇から、吐息が送られてくる。

 体は密着しており、彼女の豊満な胸がぐいぐいと俺に押しつけられた。


 柔らかい。

 股間が濡れる。

 俺の体はこんな時でも正直だった。

 でも、制服越しとはいえアリアのおっぱいの感触を初めて味わったのだから仕方ない。

 俺が声を殺して小刻みに震えていると、アリアが小さく呟いた。


「どうしてそんなに震えてるの……? やっぱり興奮してるよね……?」


 俺はギクリとする。そんなことはないですと否定しようとするが、声が出てこない。

 というか、やっぱりってどういう意味だ? その言い方だと、俺がアリアに好意を寄せてることを、アリアは予てより知ってたみたいじゃないか。

 降ってわいた疑問に俺が首を傾げていると、突然アリアが下半身をもぞもぞさせ始めた。

 アリアは荒い息を吐く。


「はぁっ、はぁっ……。はんっ……!」


 な、なんだこの人!? まさか……今ここでおっぱじめる気か!?

 俺はアリアがとち狂ったのかと思ったが、そこではたと気づく。

 俺達はある意味両想いだったことに。

 つまり、体が密着して興奮してるのは俺だけじゃない。


「ミライぃ……」


 とろかすような切ない声で俺の名前を呼ぶな。そんな健気によがらないでくれ。俺の股間が一瞬で洪水を引き起こしてしまう。


「ねえ、ミライ。…………いい?」

「い、いいって、何がですか……?」


 間近にあるアリアの唇が、さらに近づいてくる。


「ミライだって本当はそのつもりだったんでしょ? 私知ってるよ。ミライはいつもいつも私の体を視姦してたもんね。今日の模擬戦でも、ねっとりした欲情を肌で感じてたよ? 私の胸をそういう目で見てたよね。私……すっごく嬉しかった。だから安心して。私ならミライの欲望を受け止められると思う。初めてだから恥ずかしいけど……ミライに満足してもらえるように頑張るね」


 違う。そうだけど違う。


「勝手に下着を使ってたのはごめんね。これからはもうしないから。だから、ちゃんと付き合おう? 私はあなたが好きなの、ミライ」


 聞きたくて仕方なかった筈の言葉。好きな人から好きだと言ってもらえた。

 しかし、それは俺が求めている好きとは違う好きだ。

 俺の心は悲しみを帯びる。

 でもそれはそれとして、好きな人と密着したまま耳元で囁かれたら、体の方は抗えない。

 俺の股間はキュンキュンする。


「だ、ダメです……」

「ダメなことなんて無いよ。二人だけの秘密にしよ? きっと隠し通せるから」


 もう、辛抱たまらなかった。襲いたくて我慢ならなかった。

 ダメなことなんて無い。そうアリアから言われて、俺の中の張り詰めた糸がぷつりと切れた気がした。

 もういい。知るもんか。どうにでもなれ。

 頭が熱暴走を引き起こした俺は、アリアの手を握って恋人のように指を絡ませた。


「アリア……」


 俺が名前を呼ぶと、手を強く握り返された。アリアの感情が体温を通して伝わってくる。

 でも、唇が近づいてくる気配はない。あれだけ明け透けに迫ってたクセに、アリアは小さく震えて俺を待っていた。きっと目もぎゅっと瞑っているんだろう。

 そうだ。アリアはこういう人なんだ。何度も確認しないと俺の気持ちが分からない人なんだ。ロッカーに入った短い間に、何度俺の気持ちを確認してきた? 俺が言葉にして行動で示してあげないと、不安でたまらないのだろう。

 そしてあの時言ってた通り、俺だけがアリアを甘やかしてやれる。


「ミライ……?」


 アリアが心細そうに俺の名前を呼ぶ。俺は強引にアリアの唇を奪った。目を閉じると多幸感に包まれる。

 アリアは一度びくっとして、でもすぐに俺を受け入れてくれた。幸せだ。柔らかい。鼻息が当たりそうで呼吸を止めてしまう。

 ここからどうすればいいかは知らない。激しく貪るような大人のキスは俺にはできない。唇を重ねるだけの子供のキスしかできない。それでも俺は死んでもいいような気分だった。ただ離したくないという思いがあった。

 俺はアリアと繋いだ手に力を込める。


 その時だった。

 多分だけど、それは偶々だったんだと思う。

 さっきからもぞもぞしていたアリアの膝が、俺の股間に触れた。


「…………」


 俺はイッた。

 盛大に絶頂した。

 お互いの唇が離れて、俺の女体化は解けた。


「やだっ。離れないで、ミライ。もういっか……え?」


 アリアは物欲しそうにもう一度キスをねだると、違和感に気づいて不思議そうに声を漏らす。暗くて俺の姿が見えてないのだろうが、体つきでじきにバレる。

 いや、それどころか少しも待つ必要はなかった。俺は天国から急転直下で地獄へ落ちる。


「なんか……なに、これ?」


 俺の今の格好は女子制服。下はスカートで、パンツも女物だ。

 そんな状態で俺は好きな人とキスをした。しかもさっきまで、俺の目の前で俺の好きな人が俺を想って致していた。

 結果、どうなるかなど明白だ。勃ち上がるに決まってる。

 人生で一番大きくなった俺のアレは、猛々しく露出した。


「あ、待って、ミライ。二人、どっかに行ったみたい。ごめんね、いま開けるから」


 触れただけだと違和感があるくらいで、俺が男だと分からなかったのだろう。叶うならそのままでいて欲しかったが、アリアが内側からロッカーを開いて、外の光が差し込んでくる。


 終わった。そんなすぐにはアレは萎れない。

 俺の恋が終わる。蔑まれて嫌われるんだ。アリアに嫌われると思うと、吐きそうになる。

 ただ幸いなことに、あまりにも興奮しすぎて、俺の意識は遠ざかっていった。

 次に目が覚めたときには、俺は牢獄で鎖に繋がれているだろう。アリアに会うことも、もう二度とない。


「え、誰……? おと、こ?」


 困惑して、またアリアの悲鳴が上がった。


「な、なんで!? ミライは? 一体どこに……。もしかしてあなたは……ミライ、なの?」


 よく分かったな。今の俺は女装した露出狂のド変態なのに。


「そんな……ミライが男だったなんて……」


 失意に沈む声。どう詫びればいいのかも分からない。キスまでした意中の女性が実は男だったなんて、嫌に決まってる。いや、そもそもアリアは男嫌いの可能性が高い。アリアがレズなのはそういう理由なんじゃないのか?


 これが超能力を悪用した罰だと言うのだろうか。

 だとしたら……最後に謝ろう。謝る以外にできることなんて、俺には無いんだから。

 俺はアリアの嫌悪に満ちた目を見て……嫌悪に……あれ? 嫌悪に、満ちてない?


 そしてゆっくりと意識が途絶える寸前、俺は確かに聞いた。


「男の人のってこんな風になってるんだ……」


 顔を赤くするアリア。

 その少しだけ興味を持ったような、それでいて恥ずかしがってるような表情を見て、俺は思ったんだ。

 ああ。もしかしたら、童貞で超能力者な俺が、どレズのアリアを落とせるかもしれないなって。




 後日、俺達は二人揃って更正院に収監されるのだが、それはまた別のお話。




──────────────

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

もし続きを書くなら、こんな感じで進行する……かも。



女体化した俺はずっこけて、アリアの顔面に尻を押しつけてしまう。


「ミライ! どうしてあなたは毎度毎度私に絡むの!」

「す、すみません、アリア会長!」

「でも……女体化したミライに押し倒されると興奮してしまう自分が憎いっ!」

「そうじゃないんだよなぁ……」



いかがでしょうか?

もし楽しんでもらえたなら幸いです。

それとよろしければ、評価や感想をいただけると嬉しいです。ではでは。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

男は俺だけな王立聖女学院~もしかしたらどレズの生徒会長が童貞で超能力者な俺に堕ちるかもしれない~ むね肉 @mwtp

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ