「死ねッー! ザイナス家の元次期当主っ-!」

 「ザイナスはよくベトミリィみたいな妖精盗聴のヤカラと一緒に居られるよな」と、昔何度か言われたことがある。

 俺はベトミリィに何度も助けられてきたし、そう思ったことは一度も無かったが。


 始祖ベトが残した遺産は、『妖精の家』。

 この世の裏側にあるという妖精の家と、始祖ベトは血を使った契約を交わした。

 人と妖精の血を混ぜる契約だ。

 妖精は妖精が循環できる環境で見聞きしたことを、自然災害の予兆から人の噂話まで無差別に集め、妖精の家に持ち帰る。


 始祖ベトの子孫は、妖精に『お願い』をすることで、そうやって霞を積むように集められた情報を得ることができるらしい。見たことはない。


「一応言っとくがよ、ザイナスに頼まれてもフェニアとかいう女の現在地は分からないからな。人の現在地を測定するにはオレが直接会って妖精でマーキングしないといけないんだからよ」


「そういやそんなこと言ってたか……」


 ベトミリィはうんと子供の頃から物知りで、俺が知らないこともなんでも知っていて、俺が疑問に思ったことにすぐに答えてくれて、俺が迷子になったらすぐに来てくれて、俺が木刀片手に王城に忍び込んだ時はドアの前で待ち伏せてて、俺が昔秘密で書いてた日記内容も全ページ暗記してた凄い奴だ。


 この日もそうだ。

 俺の事情も大体把握してて、俺が町に来る時間も大体把握してて、先回りして待っていて、俺が聞きたかった話も大体まとめ終わってる。

 まさにいつものベトミリィという感じだ。


「結論から言うと、たぶん『平民の天才剣士フェニア』とかいう人間は存在してねえな。というかたぶんコイツ、お前が知らんなんらかの計画の一環で大会を荒らしてっただけだぞ」


「……!?」


 俺は、ベトミリィにいつも驚かされている。

 いつも、いつもだ。


「どういうことだ?」


「ここ数年、地方で何度か人助けをする少女の姿が目撃されてんだ。魔獣退治、山賊撃退、畑仕事手伝い、土砂崩れ対応……その少女が名乗ってる名前が、『フェニア』だ。地方と大会での目撃情報の容姿を擦り合わせてもズレがねー。たぶんその地方お助け女とザイナスを倒した女は、同じ人物だ」


「おお。やはり人格的にも優れた女だったか」


「……だけどどう調べてもその容姿特徴で『フェニア』って名前のガキが生まれ育った記録がねえ。生まれたはずのねえ女が、突然世界に生えてきた。しかもオレらの世代で無敗だったザイナスに勝つほどの奴が、だ。こいつは怪しいよなぁ? で、大会会場を調べたら、変身奇跡論の痕跡が見つかったんだよ」


「……?」


「奇跡論についての説明をしてくぞ。これは昔生まれた『この世界は神の奇跡で作られた』『世界の全ては神の奇跡の集合体』『神の奇跡を理解し解析できれば世界の全てを操れる』って思想から派生した不可思議技術全ての根幹を指す」


「……ああ、うん……?」


「変身奇跡論は『信仰される神には決まった姿が無い』っていう理論を利用して、『自分の容姿を望む形に変化させる』っつー古風な術でな……奇跡論自体は一般的だが、変身奇跡論は特定の地方の風俗に根付いてる、地方宗教分派の伝統術式で……」


 俺が理解できるまで、ベトミリィは補足説明を継ぎ足していく。いつもそうしてくれる。


 ベトミリィはいつも、自分を算助盤けいさんきだと言っている。問題が目の前にあった時、自分は答えを示す答案用紙ではなく、計算を助ける道具にしかならないと。一部の答えだけをすぐに出せるだけの人間が自分だと、自嘲している。


 ベトミリィは、生まれてこのかた自分を好きになったことがないらしい。俺と同じように。


「……つまりだ。ザイナスをぶちのめした女は、術で容姿を美少女に変えて偽名を使って活動してる奴の可能性が高えんだな。中身はババアか、ブサイクか、もしかしたら男かもしんないぜ」


「なるほど」


「何企んでるのか分かったもんじゃねえ。妖精で情報集め切れてねえけども、最近は王家転覆を企んでる地方騎士の集まりもあるって噂だぜ。でかい戦いがもうしばらく起こってねえし、不穏分子の総数自体はショボいらしいがな。フェニアとかいうメスは姿を変えて大会に潜り込んだそいつらの手先って可能性も……」


「それはない。あの女とは剣を交えて、互いの本質まで手を届かせあった。あれは悪じゃない」


 俺が思ったことをそのまま言うと、ベトミリィは時々困ったような顔をする。


「すんげえ確信持って話すねぇザイナス君。3分戦っただけの関係のくせに」


「決闘の中に限るなら、3分は一瞬より短くて、永遠より長いもんだ。……上手く言えないが」


「……オレぁさぁ、そういうセンスだけで他人の善悪判断する君はやべーすげーやつだと思うぞ、目眩がする」


「ありがとう」


「……まあいいか。嫌味の通らん男だ……」


 俺は嫌味が分からない男なんじゃなくて、嫌味に気付いても返答に困るから聞かなかったことにする男なんだが、どうもベトミリィは俺には嫌味が通じないと思い込んでいるらしい。

 ベトミリィの中の俺は過剰に鈍感な善人になっている気がする。俺はそうでもないはずなんだが。


 俺に高度な会話技術を求めないでほしい。

 俺には剣しか無いんだ。

 慮ってくれ。

 そんなことを思いながらいつも話している。


「それともう一つ、ザイナスに大事なことを伝えとかねえとな。お前が参加した今年の捧剣祭な……どうもうちの国の姫の目的が裏にあったらしいぞ」


「……!? なんだそれは?」


 完全に、初耳の話だった。


「さてね。ただ、なんか姫の婚約者を決める相談自体は前からあったっつー話だ。けど姫が婚約を嫌がってたらしくてな。アプローチを変えるために『強い婚約者候補』を探してた、みたいな伝聞系の密談をこっちで拾ってんだよ」


「そのために伝統の祭典を利用した……? 不敬……いや、中心が主催であり勇者の子孫である王族なら……中央会議も話を通すか……ベトミリィはどう思う?」


 話が複雑になってきたら、とりあえずベトミリィに意見を聞いて、話を分かりやすくまとめてもらったのを聞くのがベストだ。


「オレはさっきは自称フェニアが悪党である可能性を言ったけどな、実際はそうでもねえと思ってる。ザイナスの意見を参考にしてるのも、まあ、そうだが。優勝した後に本人が消えてっからな」


「……?」


「姫の婚約者になるのが目的の悪党とか、優勝した者が得られる特権が欲しい奴なら、優勝した後に消えることないだろよ。自称フェニアが優勝した後スタコラ消えてどうなった? ザイナス君、50文字以内で答えなさい。配点20」


「それは……フェニアが騎士に任命される儀礼が行えなくなって……」


「8点。正確に言えば、『優勝者不在』になったんだよ。予定してた諸々の式典とかも全部やれなくなった。どこもかしこもてんてこ舞いの大忙しで、そうこうしてる内に参加者もそれぞれ帰っちまって……姫様の婚約者選びは『また今度にしましょう』『なかったことにしましょう』になったそうだぜ。ザイナス、分かるか?」


「何がだ?」


「言ったろ、姫は婚約者決めに反抗的だったって。オレらは姫のツラも性格も知らねえが、とんだオテンバ姫だ。感心すんよ」


「?」


「自称フェニアが金を貰ったのか、姫に同情したのか、それとも全然違う繋がりがあるのかは知らん。だけど、姫に頼まれた自称フェニアが動いて、姫の望む結果を出して、姫がたった1つの望んだ結果……『婚約者決定先送り』を掴み取ったと考えたらどうだ?」


 俺は素直に膝を打った。


「……お、おー。おー! なるほど。なるほどな……あれか、ベトミリィはフェニアと姫様が組んでた可能性を考えてるのか。騎士の端くれとしては顔も知らない姫様を疑うのは不敬にあたるようで気持ちが悪いところはあるが……なるほどな」


 俺は心底感心し、ベトミリィへの尊敬レベルを引き上げた。


「その可能性が高いだろ。少なくとも、今見えてる範囲で自称フェニアが優勝してすぐ忽然と消えて得したのは婚約したくなかった姫しかいねーよ。他は全部どっかしら損してる。損して現状維持ってのはそういうことだかんな」


「なるほど、なるほど」


「変身奇跡論は隣国の、帝国の辺境教会の秘術だ。この国の人間が使うってのは考え難いんだよな……帝国の元傭兵……いや元教会騎士団員あたりが一番ありえんのか……? その辺が姫の『見えざる手足』になったのが自称フェニアだと思うんだが」


「思ったよりずっと陰謀の話だったな。頭がパンクしそうだ……皆大変だなぁ……」


「何他人事みたいに言ってんだ! おめーは完全に当事者っつーか廃嫡絶縁追放までされた最大級の被害者なんだからもっとキレろ! 次期当主権剥奪されてザインの家追い出されてんだよオメーはよォ!」


 俺は常々思っているが、ベトミリィを悪い奴だと勘違いしている奴は、いつも俺の代わりに怒ってくれたりしてるベトミリィの熱いところを見て、どう思ってんだろうか。誤解のしようがない性格をしてると思うんだが。


「……確かにそうだ。言われてみれば……俺も昨日までそれで死ぬほど落ち込んでたしな……剣振ってると余計なこと忘れられるのが心地良くて……」


「こん……こんのバカがっ……!」


「まあ待て。話が難しいのが悪いだろう。ベトミリィが要約してくれてようやく理解できたくらいなんだぞ、俺は」


「悪いのは話の難しさじゃなくてお前の頭だ」


「……要約してくれて、ようやく、な」


「死ねッー! ザイナス家の元次期当主っ-!」


 向けるなよ、殺意を。ただの思いつきの駄洒落だろうが。


 俺はベトミリィの力と知恵を借りて、この時初めて、俺を負かした女が謎のベールの向こう側に存在していたことを知った。

 少なくとも、最初に抱いた『平民の天才騎士』という印象が全て嘘であることも、ここで知った。

 俺が、あの女について無知なまま、ただあの3分に感じたものだけを理由に、不格好に惚れ込んでいた自覚を持った。


 だけれども。


「俺が剣を通じて感じた心は、複雑な陰謀や誰かを騙してやろうという悪意は感じられなかった。素直な性格をしてたように思えるんだが……」


「出たな、ザイナス流……続けろ」


 ベトミリィは偉そうに腕を組んで話を聞く姿勢になる。こんなに偉そうに腕組める奴他に居ないんだよな、本当に。


 俺の心は、理屈を越えてフェニアという女の真っ直ぐさを信じていた。


「それにだ、捧剣祭に出る前のフェニアは国のあちこちを回って人助けをしてたんだろ? 姫の婚約者決めを妨害しに来たにしても、そいつは素直な善意によるもんだったんじゃないか?」


 む、とベトミリィが小さく唸る。

 ベトミリィもまた、フェニアの行動に悪意を見い出せず、そのせいで考えをまとめられていないように見えた。


「ま、それなんだよなぁ。この、各地を巡って行き当たりばったりに人助けをしてる時期の行動には意図が見えねえ。邪推ならいくらでもできるんだが……現地証言聞く限り、マジで善良なだけの通りすがりって感じで……わからん」


「だろう? 俺は彼女は清廉だと考える。姫に頼まれて大会を荒らしたっていう推測が当たってたとしても、それは善意によるものだと思う。彼女は見惚れるほど美しかった。容姿は作り物かもしれないが、剣は誤魔化せない。あれが彼女の真実のはずだと俺は……」


 気付くと、黙りこくったベトミリィが半目で俺のことをじっと見ていた。


「何か言いたげだなベトミリィ」


「いや、オレはお前のことを一生誰のこともまともに褒めない奴だと思ってたからな。少し……いやかなりビックリしてるだけだ」


「俺だってたまには人を褒めるが」


「ふぅん? ま、お前が普通に人を褒めまくる男になったのか、それとも1人だけ例外で褒めるようになったのか……それは知らんがな。オレが関与できるような話じゃねーしな。しかし、だ」


 ベトミリィは曖昧な顔をしていた。

 なんとも言えない顔だった。

 どう言うか困っている顔だった。

 善意で動いて外国の厄介な害虫を近所の畑にばら撒いてしまった善人に何を言おうか考えている時、みたいな顔。たまにする顔だった。


「だとしたら、かわいそうなこったな。自称フェニアがお前の言う通りの性格してるなら、今頃死ぬほど後悔してんじゃねーか? 本当に悪気が無かったらって話になるけどよ」


「後悔?」


「善意で動いて姫を助けようとして、お前の人生をメチャクチャにしちまったわけだろ。自称フェニアが善人なら、今死ぬほど後悔してんじゃねーのって話だよ、分かる?」


「……む」


 ベトミリィの視点の置き所は俺と違う。

 だから俺が気付かないことにもよく気付く。

 

 俺はその時まで全く想像もしていなかったが、考えてみれば当然のことで、あの女が善良で誠実であるなら、こうなった状況は絶対に想像していなかったはず。

 同時に、俺の父上もフェニアの存在を全く知らなかったはずである。であればそもそも俺が家の名誉を穢さないよう、俺の出場を止めていたはず。


 父上の想定を破壊したのは、突然前情報無しで出場して大会を荒らしていったフェニア。

 フェニアの想定を破壊したのは、フェニアの性格を考慮せず、家の名誉を守るために俺を絶縁して叩き出した父上。


 何故この2人、俺の見えない所で互いの思惑を刺し貫き合ってるんだ……?


 しかしベトミリィもよく気付くな。


「あー嫌だ嫌だ。考えりゃ考えるほどよぉ、ザイナスのとこのクソ親父の歪んだ思想、カスみたいな思い上がり、ザイナスへの腐った信頼が透けて見えるのが嫌んなって仕方ねえ。本当にあの親父、お前の兄貴じゃなくてお前に期待しがちだったよな」


「?」


「ほとんど確信してたんだろうよ。ザイナスが捧剣祭で優勝してよ、王の剣になってよ、そのまま姫様と婚約してザインの家が躍進するって夢を」


「ん? ……あ」


 俺と父上は親子だが、俺と父上の間に絆や繋がりがあるかというとそうでもなく、俺と父上の間に相互理解はなく、ベトミリィに言われなければ分からないことが多くある。


「ザイナスのクソ親父がいくらなんでもブチギレ過ぎなのもそういうこったよ。あのクソ親父は、お前に捧剣祭を優勝してもらって、お前が姫様の婚約者に選ばれるのを期待してたのさ」


「……ああ……」


 ひどく納得して、俺は何度も頷いていた。


「それはかなりありそうだ。いや、それ以外無い気がしてきた。確かに父上の振る舞いは、俺から見ても『そういう落胆込みの怒り』があったように思える……」


「いや、それっぽい推測述べられたからって即盲信すんなよ、バカか? 鵜でもここまで鵜呑みにはしねーわ。自分の目で確かめて来いよ」


「その推測言ったのは……ベトミリィだろ!」


「バカみたいに信じたのはザイナスだが……」


 いい性格をしているのだ、ベトミリィは。たまに腹立つが、たまに面白くて、いつも頼りになる。ここは腹立つ時のベトミリィ。


「ベトミリィ。フェニアの現在地の手がかりになりそうなもの、何かないか」


「直接会わねーとガチの追跡は無理だって。マーキング打ててねえんだから。妖精使いっつっても万能じゃねえし、妖精諜報が世界中に知られて1000年以上経ってるから対策も多いんだよ、色々と」


「だけど、お前なら何かもう持ってるはずだ。俺が困った時、俺にできないことで俺に可能性を見せてくれるのは、いつもベトミリィだからな」


「……珍しく、分かりやすく褒めやがって。苛つくぜ。たった3分なんてそんな重いもんか? そんなに変わるもんか?」


 ベトミリィが複雑そうな、面倒そうな、嬉しそうな、忌々しそうな、そんな顔をした。

 俺はそんなベトミリィを、特に理由も無く信じて、どうにかしてくれると頼り切っていた。


 俺は、あまりにも無能で、あまりにも足りていなくて、あまりにも気付きが足りていなかった。

 こんなにもベトミリィを頼って、信じていたくせに、『自分には何も残っていない』なんて思いながら生きていた。ベトミリィはずっと残ってくれていたのに、だ。


 俺はあまりにも最悪だった。

 なのに、ベトミリィは一度も俺を見放さず、この時も、俺の助けになる情報をくれた。

 あいつはいつだって、いいやつだ。


「……一応自称フェニアの目撃証言について紙にまとめてある。自称フェニアの人助け記録みたいなもんだ、現在位置の参考にはならねえ。だけど、何かの手がかりになる可能性は……なくもない」


「! 貰っていっていいか?」


「おい、ザイナス。お前の考えが分からん。これで何するつもりだ? 仮にその自称フェニアを見つけて、どうすんだ?」


「あの女の軌跡を辿る。そうしてあの女の強さの秘密を突き止める。そして」


「そして?」


「お前は何も悪くないと伝える。お前の勝利は素晴らしかったと伝える。お前は実力で勝ったのだから誇れと伝える。お前は騎士に相応しいと伝える。そして、来年の捧剣祭は俺が勝つと伝える。その上で、来年俺が勝つ」


「……」


「ベトミリィも見に来い。来年勝つのは俺だ」


 本気で言った。

 誓うように言った。

 絶対に成し遂げると決めていた。

 俺の心の中のドロドロしたものを、全てぶつけて、この停滞から前に進みたかった。


 負けたまま終わりたくなかった。

 マイナスをゼロに戻したかった。

 見惚れたあの女に、勝ちたかった。


 俺が拳を掌で握っていると、ベトミリィがよく分からない顔をして、頬杖をついていた。


「なんで、お前があんな女に負けんだろうな。普通に考えたら負けるわけがねーのに」


「ん?」


「いや、なんでもねえよ」


 ベトミリィにはベトミリィの考えがある。

 俺がそれを分かる必要はない。

 必要な時はベトミリィから言えばいい。


「なあザイナス、さっき話してた推測が真実だったとして、姫を恨まねえのか」


 ただ、俺よりベトミリィの方が頭が良い以上、俺が考えていることをベトミリィに開示しておいて、ベトミリィが考えて動く……そういう形にしておいた方が後々助かることがある。


「恨まない。騎士が王族を恨むものか。それに、結婚に関わることで悩むのは、人間なら誰にでもあることのはずだ」


 俺は思ったことをそのまま述べた。

 あとはベトミリィが好きに考えて動けばいい。

 と、思ってたが。

 ベトミリィは微妙に不機嫌になった。


「姫の手先になったあいつが大会荒らしたせいで、お前の人生無茶苦茶になったんじゃねえのかよ」


「……否定はしない」


「ちょっくら痛い目見せてやろうってんなら、別に協力してやってもいいぞ。気に食わねえしな」


「王族だぞ?」


「ただの王族だろーが」


 ベトミリィは口が悪い。

 表面的な所を見ていると、薄っぺらくて勢いで話してるチンピラのように見える時もある。

 だけどもよく見ると、そういう時のベトミリィの目が、目の前の人間を試すような、値踏みしてるような、そんな風になっている時がある。

 この時もそうだった。


「来年、捧剣祭を見に来い」


「あん? なんでだよ」


「フェニアには絶対に来年も参加してもらう。で、お前が気に食わないと思った姫様。姫様が応援するであろうフェニア。どっちの鼻も明かしてやる」


「……はっ」


 機嫌良さそうに、ベトミリィは鼻で笑った。


「ザイナス流にイカしてんな。いかにもお前が考えた一番かっこいい勝利って感じが悪くねえ。いいぜ、最前列に見に行ってやる。来年は勝てよ」


「ああ」


「負けたら笑ってやんぜ」


「笑うな……」


 笑うなと言ったのに、そう言った俺を小馬鹿にするようにベトミリィは笑っていた。生き方も反応も逆張りまみれの妖精使いめ。


「しっかし、なんだ。試合の応援とか、オレら初めて普通の友達みたいなことしてんじゃね?」


 俺は、そうだ。

 ベトミリィのその言葉に、心底驚いたんだ。

 驚いたのが失礼だったんだが。


「ベトミリィ……お前……俺の友達だったのか……」


「おいこら」


 俺は何も知らず、何も分からず、何も把握していないので、何も実のあることが言えないし、これが実際にどういう関係なのかもよく分かってない、が。


 あいつは、俺なんかのことを友達だと思ってくれている……らしい。

 無敗の時の俺じゃなくて、負けた後の、唯一の取り柄の剣ですら敗者の俺のことを、友達だと言ってくれた変わり者。

 俺に何もなくても、それでも別にいいと、そう言ってくれたような、そんな気がして。


 ああそうか。


 もしかして俺、嬉しかったのか?



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