綻び

 今世では初となる日本政府との接触。


「んー」


 それを終えてから三週間。

 未だに何の連絡もなく、普段とは何も変わらない生活を送れている中で。


「……なんか、空気中の魔力量が増加していない?」


 僕はソファに腰掛けながら窓の方を眺め、ゆっくりと首をかしげる。

 

「どうしたの?」


 そんな僕の元へと、ちょうどお風呂から出た後に髪の手入れに長い時間をかけていた桃葉がやってきて疑問の声を告げる。


「んー」


 それに対して、僕は少し言い淀む。

 自分の感じている違和感は、桃葉に言うべきものだろうか?」


「咲良ちゃん」


 そんな風に僕が考えた瞬間。

 いきなり桃葉が僕との距離を詰めてそのまま力強く自分の両頬を掴んで持ち上げ、強引に視線を合わせてくる。


「私との間に隠し事はなし。二人で一人、でしょう?」


 そして、そのまま結構な圧をかけてくる。


「うーん……でも、まぁ、そうかぁ」


 確かに今さらだったかもしれない。

 そう考えた僕は自分の指先を空気中へと向ける。


「空気中の魔力量が上がっている」


「……?それは、そうなったらどうなるの?」


「さぁ……?地上とダンジョンでは空気中の魔力量には結構開きがあるんだけど、これが何を表すかはちょっと。別に地上でも問題なく戦えるしね」


「なら、何が問題なの?」


「何の問題もないかも。でも、何かはあるかもしれない」


 理由のわからない異変はちょっと怖いところあるよねー。


「冥層か……?確か、昔高名な研究者とやらが冥層以降においてはすべてのダンジョンにおいてはその階層構造も出現する魔物の種類も全く同じである。このことから冥層以降のダンジョンはすべて一続きである、という話を流布していたはず、である」


 僕はかなり初期の段階から日夜冥層に潜り、大量の魔物を狩り尽くしていた。


「……ねぇ、確か。ダンジョンスタンピードって魔物の狩らなすぎで起こるんだよね?」


「えぇ、そのはずよ」


 ダンジョンスタンピード。

 それは地上へとダンジョンから魔物があふれ出してくる現象とされている。

 その現象の理由ははっきりとわかっているわけではないが、主な理由としてはダンジョン内部の魔物の飽和と言われている。

 ダンジョンにいる魔物をずっと狩らずにいると、多くなりすぎた魔物が地上に溢れてくるという話だった。

 

「……うーん」


 冥層以降が一続きのダンジョンなのだとしたら。

 僕が世界中のダンジョンの冥層以降の魔物を間引きしていたことになる。

 その中で、僕が冥層内で魔物を狩らなくなったら……ワンチャン、ダンジョンスタンピードにもつながる……?


「……確か、冥層の魔物は存在するだけ大量の魔力を噴出する存在もいたような、いや。でも、そもそもとして空気中の魔力量が多くなったからと言ってそんな致命的な影響が及ぶものなのだろうか?」

 

 僕は自分でぶつぶつとつぶやきながら疑問を膨らませていく。


「ねぇ」


「もぎゅっ」

 

 そんな中で、僕は急に桃葉から顔を潰される。


「一人で考えこまないで」


「……まぁ、それもそうかぁ。僕が考えても仕方ないか。何とかなるやろ」


「えっ……?」


 僕が悩んだところでしょうがないか。

 桃葉の言葉に頷いた僕は考え事を切り上げるのだった。

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