伸び

 百合配信。

 とは言ったものの、何か露骨にカップルとなったアピールをするのも違うらしい。

 妄想の余地が必要なのだそうだ。

 ということであくまで僕と桃葉が二人の配信でやったのは二人で仲良く配信をしただけであった。


「お、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 だが、その配信は非常に大きな伸びを見せてくれた。

 自分の配信の視聴回数。

 そして、色々な人が上げている切り抜きの再生回数を見て僕は歓声を上げる。

 他のSNSでも大きな話題となっており、二次創作として僕たちモチーフの絵や漫画が投稿されて伸びを見せている。


「う、うへへへ……見られているぅ」


 ただダンジョンで配信しただけだというのに、これ以上ない伸び。

 それを前にして僕は笑みを漏らさずにはいられなかった。

 これは、これは、これは本当に素晴らしい。


「言ったでしょ?伸びるって!」


「う、うん!そうだねっ!」


 自分のスマホでSNSを確認している僕へと告げる桃葉の言葉に勢いよく頷く。


「おほーっ」


 もう前世の僕では考えられなかった圧倒的な数値である。

 ずいぶんと成長したものだ。

 うへへへ、もう笑みが止まらない。

 やっぱり伸びるってのはいいものだね。

 いつもよりちょっとだけ跳ねた程度ではあるが、これでも十分にうれしい。


「咲良ちゃんが満足そうで私もうれしいわ。この調子でどんどんと私たちの動画を増やしてもっと伸ばしていこうね」


「う、うん……!これからもどんどんと伸ばして……う、うん!」


 手札はあればあるほどいい。

 マンネリ防止にもなるし……こ、このまま順調に伸ばしていきたい……!それでもっと多くの人に見てもらうんだ!


「でも、今日の配信はちょっとなしね……ダンジョンで撮るのはやめましょうか」


「えっ?なんで……?」


「純粋に絵として、ね?明らかに私の実力が一段下がるし、苦戦は一切ないし。ダンジョンでの配信である必要が一つもなかった。ダンジョンでの配信は個々の方がいいわね。そっちの方が伸びるでしょう」


「そ、そっか……」


 まぁ、確かに今日の配信はそこまで面白味はなかったかもしれない。

 何の苦戦もしていないしね。

 ずっとこちら側が圧倒していた。

 確かにこれはダンジョン配信としてイマイチだったかもしれない……ダンジョンで料理をするっていう物珍しさとかも特になかったし。


「私たちが撮るならもっと別のをやる必要があるわね」


「もっと別の……?」


 僕は何かを考えていそうな桃葉の言葉に疑問で返すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る