コミュ障たる所以

 学食で食べる最中。

 僕は桃葉越しにではあるものの、環奈さんと林檎さんの二人と会話することができていた。


「なんで話すのが苦手なの?」

 

 そんな雑談の中で、環奈さんが僕への疑問の声を上げる。


「……おっと」


「それって話しても大丈夫なやつ?」


「……う、うん」


 僕は自分へと聞いてくる桃葉の言葉に頷き、彼女の耳元へと己の口を近づける。

 わざわざ隠しだてしなければならないような話じゃない。


「虐待されていた経験、から……かな?多分。何か話すと怒られて殴られちゃうんじゃないかって思ってぇ……どうしても話し出すのに時間がかかっちゃって。自分の中にある話していいよという基準の門番がいつも怯えて萎縮しちゃってて……もともとの生来のものもあるかもだけど」


 そして、そのままおそらく自分がコミュ障である所以を語る。


「……すぅ、そうなの」


「う、うん……多分」


 僕が桃葉の言葉に頷く。


「……むぎゅー!」


「んなぁ?」


 それと共に桃葉が急に僕へと抱き着いてくる。


「私にはどんどんと、何でも話していいからね!私は何だって受け入れるから!」


「う、うん……!」


 一か月くらい同じ屋根の下で暮らして、桃葉のことは段々と僕が本能的に受け入れられるようになってきた。

 桃葉相手なら、萎縮せずに話すこともできると思う。


「急にどうしたの?」


「何か特別なことでもありましたかな?」


「特別といえば特別……話していいのよね?」


「うん」


 僕は桃葉の言葉に頷く。


「……その、咲良ちゃんは虐待を受けていた子で、その経験からうまくしゃべれないみたい。何か話すと、怒鳴られて殴られちゃうらしく」


 そして、それを受けて語りだした桃葉の言葉にも僕はその通りだと言わんばかりに頷いていく。


「……そ、そうだったんだ」


「……そ、それは中々な壮絶でありますなぁ」


 そんな話を聞いた環奈さんも、林檎さんも互いに絶句したような態度を見せる。


「……軽はずみにこんなデリケートなことを聞いちゃってごめん」


「えっ!?……ぁ、その」


 その次に見せた環奈さんの謝罪を前に動揺の声を漏らす。


「べ、……別に、い……桃葉」


 過去には色々と嫌なこともあった。

 でも、今は違う。

 だから、謝る必要はないし、こんな暗い雰囲気になる必要もない。


「い、今はは桃葉がいるから大丈夫だよ?謝ることない」


「~~っ!」


 僕は慌てて現状から回復させるべく今は幸せであることを桃葉へと告げる。

 一緒に暮らして、たまに配信活動を行って果て無き承認欲求を満たして、その現状に僕は満足できていた。

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