学食
「おぉ……」
学食として自分がおばちゃんからもらったお盆。
その上に載っているカレーライスを前にして僕は思わず感嘆の声を上げる。
これが、学食!
「そんなにカレーが好きだったの?」
「いや、こういう形でご飯を受け取るのが新鮮で」
「……そっか。それじゃあ、席の方に行こうか」
「うん」
僕は桃葉の言葉に頷き、彼女の後を追っていく。
「ねぇ、私たち二人もこの席を一緒していいかな?」
そして、そんな桃葉がやってきたのは自分のクラスの女子二人がすでに座っている四人掛けの席だった。
「ぴっ!?」
「全然いいよ!」
「好きに座ってー」
「ありがと」
僕が思わず固まっている間にも桃葉たちの間で会話が済み、彼女は一人で先に座ってしまう。
「ほら、座りな」
「……あむあむ」
僕は口から変な声を出しながらも、桃葉の言葉に従って腰を下ろす。
「ねぇねぇ!咲良ちゃん!」
そして、そんな僕へと先に座っていたクラスメートの一人、赤崎環奈さんが僕に話しかけてくる。
「私の名前ってもうわかるかな?」
「はひっ!!わ、わ、わかるます!」
僕は環奈さんが告げる疑問のことに頷く。
名前ならわかる。
話しかけてくれたのが環奈さんで、その隣にいるのが飯野林檎さんだ。
「えっ!?本当に!じゃあ、私の名前言ってみてよ!」
「あっ、あっ、赤崎環奈、さんで、ですぅ」
「そーっ!あっているよ!もう覚えてくれたんだ。私ってばまだ自己紹介していないよね?どこで覚えたの?」
「えっ……あっ、えっと」
あわわわ、声が、声が出ない。
こ、これは普通に答えていいやつかな?
気持ち悪がられたりはしないかな?大丈夫かな、大丈夫かな?お、怒られて叩かれたりはぁ。
「ほら。私に言ってごらん?」
「……教卓の上においてあった座席表を見て覚えた」
そんな自分の元に垂らされた桃葉の救いの言葉に僕は飛びつく。
「へぇー、座席表を見て覚えてくれたらしいよ」
「えっ!そうなの、うれしい。ありがとね」
「……座席表を見て全員覚えたの?」
「確かに、結構な人もいるよね?そんな簡単に覚えられたの?」
「……記憶力は、ちょっとだけいい方で。フリガナもしっかりと振ってあって読みやすかったよ」
僕は桃葉の耳元で疑問の声に答える。
「えー!本当に見ただけで覚えたの?記憶力いいのだね。これなら勉強を教えるのも簡単に終わりそう」
「わー、すっごい!」
「あれだけの時間で名前を覚えるとはおぬしもやりますなぁ」
「え、えへへ」
なんか自分が褒められていそうな雰囲気を前に、僕はだらしなく笑みを浮かべるのだった。
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