お昼

 授業がわからずに机の上へと項垂れている僕に対して。


「それじゃあ、お昼にしようか!」


 そんな暗い雰囲気を消し飛ばすかのように明るく桃葉の方が声を上げる。


「……お昼」


「そう!お昼!学食の方へと行って食べにいきましょう?」


「……うぅ」


 僕は桃葉の言葉にそっと視線を逸らす。

 あまり人前で食事をするのが好きではないのだ……桃葉が相手ならまだちょっと慣れてきたけど。


「」


「で、でも……普通に桃葉にも友達とかいるよね?こうして、僕にばかり構っているわけにもいかないんじゃあ」


 ずっと、桃葉は僕のことを気にかけて話しかけてきてくれているが……彼女自身の交友関係は大丈夫なのだろうか?

 クラスの雰囲気と桃葉の打ち解け具合を見るに、ちゃんと友達がいそうだけどぉ。


「んっ?別にいいのだよ!私がやりたいからこうしているの!だから、大丈夫!ほら、私と一緒に行きましょう?」


「う、うん」


 僕は桃葉の言葉に頷き、彼女と共に食堂の方へと向かっていくのだった。


 ■■■■■


 大きな、大きな食堂。


「おぉ……」


 そこへとやってきた僕は思わず感嘆の声を漏らす。

 色々な食事の匂いが混ざり合い、多くの人が食事をしている。

 そんな光景を始めて見る僕はちょっとだけ感動する。

 僕だけ給食費を払っていないから給食は食べられなくて、お昼の時間中はずっと保健室で色々な先生方がくれるご飯を保健室の先生と食べていた自分としてはこう、色々と来るものがある。


「それじゃあ、好きに頼んでいいからね?お金は私が払ってあげるから」


「……へ、へへ。ありがとうございますぅ。お金は配信の報酬が入ってきたら払いますのでぇ」


「うん、お願いね」


 今の僕はまだ、お金を持っていない。

 後で必ず返すと心に誓い、しっかりとメモを残しながら桃葉へとお世話になってしまう。


「ど、どれがいいのだろう」


 食券を買う機械の前に立つ僕は何を買うかで悩む。

 

「せっかくの学食なのだから……美味しいのがいいよねぇ」


「ははは、そんなに悩むことじゃないよ。好きに頼みなよ。どうせ、明日もここに来るのだからさ。私はあまり朝強くなくてお昼は作ってあげられないから」


「あっ、そ、そっか……明日も高校には来るのか」


 僕はしっかりと転入していて、明日も来るのか。


「そうだよ?だから、食べたいものはいずれ食べられるからそんな悩むことじゃないよ」


「そう、かぁ……じゃあ、これで」


 桃葉の言葉へと頷いた僕は、とりあえず一番右上にあった食券を選んで購入するのだった。

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