事情

 緊張する。

 初めてやってきた女の子の家……そこを前にこれ以上ないほど緊張する僕は視線の置く位置もわからないまま桃葉のリビングに置かれている椅子へと座っていた。


「それでだけどさ……」


「はひっ!?」


 そんな僕の対面の席に座っている桃葉がまず口を開く。


「君は、なんでダンジョンで過ごさなきゃいけないことに?帰る、家はないの?」


 そんな桃葉が口を開き、告げるのは僕への疑問である。


「え、っと……」


「話し、にくいのはわかっているのだよ……でも、君は私の命の恩人で、できるだけ助けたいと思っている。だから、だからさ。お願い。話してほしいな。私は、あなたの力になりたいの!」


「い、いや……別に話せないことじゃないから、いいけどぉ」


 昨日の夜のうちに僕のプロフィールは考えてある。

 今の僕に隙はない。


「ありがとう」


「え、えっとね……僕は結構ひどい両親のもとに産まれて、ずっと虐待されて生活していて。ご飯がもらえなくて、お腹がすいたから管理下にたまたまなかったダンジョンへと潜って魔物を狩り、それを食べて生活していたのだよね。それでここからが一番大変なのだけど」


「……ここからっ」


「虐待を働くようなひどい両親は僕に国籍もくれなくてさ。出走届を出さずに育てていたこともあって僕は完全無戸籍。どこの国の人でもない子になったのだよね。それで、第一回のダンジョン大騒乱。魔物が地上に出てきてしまったときにその両親が死んじゃって、元々住んでいたアパートも魔物の攻撃で崩壊。これにて僕は完全に天涯孤独。両親も失い、家もなくし、国籍がないからゆえに国も頼れない……だから、僕はダンジョンという一種の無法地帯で生活するしかない。みたいなところがあるの」


 嘘をつくときは一部に真実を混ぜたらいいと聞いたことがある。

 だから、真実をだいぶ混ぜてみせた。

 嘘をついているのは無国籍であるということと性別くらいだろうか。

 僕の両親は国籍を作らないほど無責任ではなかったからね。


「さ、咲良ちゃん!」


 すべてを話し終えた。

 そのタイミングで感極まった様子の桃葉が自分へと抱き着いてくる。


「な、何かなっ!?」


「い、今まで大変だったんだねぇ!」


「あっ、えっと……今はかなり幸せだから平気だよ?」


「それでもだよっ!それにダンジョンで寝泊まりはダメなんだよ!これからは私の家でずっと暮らしてね!」


「えぇ……?」


 僕は桃葉の言葉に困惑の声を漏らす。


「というかもう帰さないから!このまま私の家で生活して、それで高校にも通ってもらうから!」


「……んむっ?」


 そして、決して無視できないような桃葉の言葉に僕は首をかしげるのだった。

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