二人

 さぁ、二人でコラボ配信をしよう。

 いつするか?今でしょ。

 実に軽いノリかつスピーディーな段取りで僕と桃葉のコラボ配信が行われていた。

 ちなみにコラボ決定から実行まで驚異の十分である。


「今日の配信には!コラボ相手として現在話題沸騰中!世界でも屈指の実力の持つナナシちゃんに来てもらってます!」


 ダンジョンの上層から少し降りて中層。

 中層の中では上のほうとなる場所にやってきているさなか、桃葉は元気よく自分の名前を告げ、その手を僕のほうへとむけてくる。


「ふへへへ、わ、話題沸騰中のナナシちゃんですぅ」


 それを受け、桃葉に続いて僕も自己紹介の言葉を口にしながら己の胸を張る。

 話題、……話題沸騰中かぁ。ふへへ。僕も大きくなったものですなぁ。


「じゃあ、みんな!今日もこんにちはー!」


「こ、こんにちはー」


「楽しんで配信を見ていってね!」


「……ってね!」


 僕は桃葉に続く形でサクサクと自分の自己紹介を話していく。


『コメント』

 ・はやいなぁーwww

 ・こんにちはー!

 ・ナナシちゃん友達になれたのかな?

 ・配信終了からまだ一時間ちょっと。

 ・こんにちはー!

 ・こんにちはー!


 それに反応する形でコメント欄が爆速で動き始める。


「今日の配信はプロ級に教わる中層の歩き方講座だよ!」


「ですです」


「私も中層に潜れるくらいの実力はあるけど、やっぱりまだまだ。前はあぁして死にかける思いをしちゃったからね!ここらへんでちょっと、本気でプロの人にダンジョンでの戦い方を教えてもらっちゃおう!という話だよ!ということでお願いね?ナナシちゃん!」


「め、冥層にまで行けるトップオブトップの力を見せてやるぜ、ぜぃ!」


 僕は桃葉の言葉にうなづき、ぐっと両手でガッツポーズをとってみせる。


『コメント』

 ・さすがに冥層は盛りすぎで草。

 ・おっとぉ?

 ・冥層までいけるならそれはプロレベルじゃないのよ、世界最強なんよ。

 ・やめてあげてよ!陰キャ特有の調子に乗っちゃう癖が出ているだけだから!

 ・やばすぎて草も生えませんわ。


 ……あれ?あまり冥層にいけるところが信用されていない?

 むぅ、これは今度。

 僕が冥層に行っている配信をしなければ。


「ということで、今回は私へのアドバイスのほうをお願いします!」


「う、うん!任せて」


 僕は桃葉の言葉に力強くうなづいて見せる。

 そこそこの自信はある。

 中層なら幼少期の僕のホームグラウンドであるからね。いっぱい歩いて、いっぱい探索したとも。


「それじゃあ、中層を潜るうえで気を付けたほうがいいところとか、あるかな?」


「え、えっとねぇ……まず、中層は、えっと、うん」


 上層は1階層から29階層まで。

 中層は30階層から49階層まで。

 下層は50階層から100階層まで。

 冥層はそれより先がずっと!って感じで、各階層はこういう風に分けられている。


「あのね?上層と中層。そこの一番の差は罠の有無、なの」


 中層となる30階層からは罠が設置されるようになる。

 そして、それが難易度を跳ね上げる要因なのだ。 


「……あぁ、そうだね」


「中層でも普通に死ねる罠とかもあって、本当に気をつけなきゃいけないの。しかも、これはあまり知られていないけど、罠の存在を認知している魔物もわずかにいるんだよねぇ……だから、普通に罠って危険なのだよ?魔物が利用するから」


「えっ!?そうなの!?」


 僕の言葉に桃葉が驚く……驚いてくれる。

 ふへへ、うれしい。もっと色々と話しちゃお。


「罠が見つからないように隠している魔物も一定数いるんだぁ」


 罠は基本的に注意深く見ていれば引っかかることはない。

 結構罠がある場所などは見つけやすいから……だけど、それを魔物が隠してしまうこともあるのだ。


「中層の罠は安全。そんな意見を信じて罠を甘く見て、それで魔物の手によって隠された罠を見破られずに食らって死んじゃったという冒険者も実はそこそこいる」


 ちなみに下層の罠はカスである。

 誰からかに隠されていなくとも勝手に隠れている。

 そして、冥層ではもうダンジョンの中すべてが罠のような環境へと様変わりする。


「隠しているって言っているけど、例えばどんなの?」


「え、えっとねぇ……たとえば、明らかに地面色が変わって、それを踏むと発動する罠とかがあるでしょう?」


「うん、あるね」


「あの罠の上に魔物が人間の死体を引きずって持ってきて罠を隠しちゃんだよね」


「へっ?」


「狙いは生きている人間が死体を回収することになる、かなぁ?あの罠は重さに加えて人の体温で反応しているところもあるから……すでに死体で重みが加えられている中で、死体を回収しようと伸ばした手が罠になっている地面に触れてしまえば一環の終わり、かなぁ?」


「う、うわぁ……」


 僕の言葉に桃葉が思わずといった形でなんとも言えない声をあげる。


「そんなわけだから、中層であっても罠を軽視しちゃ、だめだよ?」


「わ、わかったわ……本当に勉強になったわ」


 桃葉は神妙な面持ちでうなづき、罠の脅威を学んでくれるのだった。

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