接触

 初接触。

 ライナちゃんとの初接触は意外で、想定外な形になった。


「僕の名前は有馬咲良っ!!!一般通過高校生もどき!両親死亡ネグレクトダンジョン育ち!えっと……、えっと、えっとぉ……うん!」


「……りょ、両親死亡、ネグレクト?ダンジョンそだ、ち?」


「そ、そすすすすすす……」


「ふふっ。ちょっと、慌て過ぎだよ。深呼吸して?」


「……すぅ、はぁー」


 僕は自分の前にいる髪金。

 何処となくギャルっぽいライナちゃんの言葉に頷いて深く深呼吸する。


「ちょっと出待ちみたいな形でいるのは迷惑だったかな?」


「そ、そ、そ、そそそそそそそそそそんなことないですぅ!」


 僕は慌ててライナちゃんの言葉を首を横に振って否定する。

 自分と彼女の二回目の接触。

 それはライナちゃんが僕の配信を確認して出待ちするような形になった。

 僕が配信上で告げた『ライナちゃんと友達になりたい』って言葉に、彼女に会うため僕が上層の方で再びライナちゃんがダンジョンに入ってくるのを待とうとしていた自分の行動。

 それをいち視聴者として見てくれていたライナちゃんがわざわざダンジョンに来て上層の方で僕を待っていてくれたのだ。


「それじゃあ、今度は私の自己紹介からするね?」


「は、はひっ!」


「私は九条桃葉。17歳で高校に通っている現役の高校生だよ」


 ……げ、現役の高校生!?ま、眩しい、青春コンプレックスぅ!


「それで、もう一回自己紹介を聞いていい?」


「あっ、はす。ぼ、僕は有馬咲良、です。歳は同じで、17歳です」


 もう配信は止めている。お互いに本名を教え合っても良いだろう。

 まぁ、僕のは本名じゃないけど。有馬咲良という名前はここに来るまでの間に決めていた自分の偽名である。

 女の子になっちゃった以上、男のときの名前だった影入秋斗と名乗るわけにはいかないからね。

 偽名を名乗っていても許してほしい。


「あらっ!同い年なのね」


「ですですです」


「高校どこ?私は一条学園に通っているんだけど、ここらへんの?」


「いや、僕は高校に通ってなくて……」


「……あっ、そう、なんだ。ごめんね?」


「いや、いやいやいやいやいや!あ、謝られることじゃないで、す!」


 僕は再度、九条さんの言葉に首を横に振って否定する。


「……詳しく、咲良ちゃんの自己紹介をしてもらっていい?」


 咲良、ちゃん!?

 し、下の名前……下の名前で呼ばれただとぉ?こ、これがとも、だち。

 ふへへへ。ならもう、僕も下の名前で呼んでもいいよねぇ?」


「そ、そんなに自分のことが気になるかなぁ?桃葉ぁ」


「うん、気になるかな……特に、両親死亡ネグレクトダンジョン育ちの辺りとか、これは本当なの?」


「うん、全部本当のことだよぉ。僕は両親から虐待されてて、食事も与えられなかったもので、自分が幼児の頃からダンジョンに赴いて魔物を食べて育ったんだよぉ。あっ!配信見ててくれたならミノタウロスの話とかもわかるよねぇ?僕の幼少期のお肉があの子だったんだよぉ?それでね、それで、両親は小学生の頃に死んで、それから僕は一人で生きてきたの。だから、小学校は途中からいかなくなって、中学校にはそもそも通ったこともないんです」


 僕が義務教育未完了ボーイなのだ。


「え、えぇ……?」


「その幼少期の記憶が今の僕の強さを作っていますから。今思うと得でした」


 両親がしっかりとした人たちだったら僕は強くなっていないし、そもそもとしてダンジョンに潜っていなかったかもしれない。

 と思うと、今こうして僕が承認欲求を満たせたのは両親のおかげ。


「……その、なんか本当にごめんね」


「いやいや!?な、な、なにを……なにを謝るの!?だ、大丈夫だから!わざわざ謝らなくても!」


 頭を下げている桃葉を前に、僕は大きな動揺を示すのだった。

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