第3話
「ん・・・うぅん・・・ここは?・・・」
目が覚めると見慣れたダンジョンの天井・・・いや、いつもとちょっと違う見慣れないダンジョンの天井だった。
「僕は何をしてたんだっけ・・・」
あー、そうだった。今日は朝から仲間のみんなと一緒にどこのダンジョンに行くかって言う話になって・・・
最近冒険者ランクが上がって、それならとランクに見合う新しい装備に一新した事もあってお金がなかったし、今までより良い装備になった事で気が大きくなってたんだろうな。みんなが中級ダンジョンに行こうと言い出したんだっけ、そんな僕も勢いに乗って、「ついでに新しい装備の性能も試せるね!」なんて言ってしまったのもいけなかった。
中級ダンジョンに入ってから快進撃が始まった。魔物の数は多いけど大して強く無いから、中級ダンジョンの難易度はその程度なんだなと、みんなそう思って調子に乗ってどんどん奥へ奥へと進んで行ってそれから・・・
そこまで考えた所で良い匂いがして来たので釣られて目を開けると、ヌッと黒い影に視界を遮られた事で、恐怖から反射的に叫んでしまった。
〜少し遡る〜
安全地帯まで助けた冒険者を運んだ後、ざっと傷を確認する。ボロボロだったしそんな暇は無かったので今まで気が付かなかったが、まだ若い少年だった。
「怪我の程度は、擦り傷が多いくらいか?・・・」
他に大きな傷は見当たらないな。内部の怪我も回復魔法を使えば大体治る世の中だし、問題ないか。心配なら後で治療院に行けとでも言っておくとして、とりあえず治療を施す。
・・・
治療を施す。
・・・
治療を・・・あれ?詠唱なんだっけかなぁ〜・・・
当分の間、回復魔法を唱えてなかったので首を傾げながら詠唱する。
「んー?・・・ケ・・・ケガアル?」
『怪我があるのは確かですね。もしかして足りませんか? 増やしますか? 分かりました増やしましょう! 傷口大盛り怪我マシマシで!!』
「増やさんで良いわ!頼むから大人しくしてて?」
ったく毎度毎度コイツは、なんでこうクレイジーな思考回路してるんでしょうねぇ?隙あらば斬れ味アピールしたり強度アピールしたりとホントなんなのこの魔剣。あ、魔剣だからこんなもん?さいですか。
気を取り直して・・・
「えーっとなんだっけ、あー・・・、んーーー???、あっ!思い出した」
ぽんっ、と右拳で左掌を叩いて、呪文を思い出した俺は掌を寝かせている冒険者の少年にかざして詠唱を始める。
「怪我ある者に神の励ましによる祝福を与えたまえ。ヒール!」
集中して回復魔法を掛け続けると徐々に傷口が塞がっていった。
「まだアザとかはあるが、ざっとこんなもんか。さて、この冒険者の少年が目覚めるまで休憩がてら飯でも準備するかね」
『マスター、私の手入れをするべきだと進言します』
「いや、お前に手入れの必要ある?・・・」
いつも不思議に思うのだがこの魔剣、あれだけの敵を斬っておいて、埃はともかく魔物の血糊も付いてないし、刃こぼれとか一切起きていない。魔力的な何かでコーティングでもされてんのかな?
それとも代償として俺から何か取ってたり、そういえば最近なんていうか精神力をガリガリ削られてる様な気がするんだよな。はっ、これが魔剣の呪いであると共に魔剣が摩耗しない理由か!状態異常でも掛けられて・・・
『手入れとはスキンシップの事です。もっとスキンシップをとって私との愛を育み、好感度ゲージを上げるべきです』
「お前、そんなゲージがあったのか? とすれば、そのゲージによって剣の表面がコーティングされてるとか?」
それならスキンシップを取るのも仕方がない・・・のか・・・?
『タブンそんな感じです』
「いや絶対違うだろ!」
よく分からんコイツは放っておいて、飯の準備をする。いつもは適当に携帯食齧ってるのだが、怪我人が居るのでそうも行くまい。回復魔法で治療したといっても体力が戻るわけじゃないから、栄養のある物を食べさせないといけないだろう。とは言ってもそんな大層なもんは作れないんだけどな。
道具袋に入れている野菜や肉を適当に斬って(魔剣が嬉々としてやった)、同じく道具袋から出した鍋に水と調味料を入れ・・・まぁあれだ、栄養の付きそうなスープを作っていくぅ〜。
そろそろ出来上がるかなと思ったタイミングで冒険者の少年が動く気配があった。どうやら目を覚ましたようなので顔色を伺うべく覗き込んで見る。
「ん、目が覚めたか?」
「きゃーーーーーっ!ハンマーヘッドゴリラァーーーーッ!?」
「誰がハンマーヘッドゴリラだ、こらっ!」
こんな渋いお兄さんを捕まえてハンマーヘッドゴリラだとか、全くもって失礼な少年だな。
うん?・・・きゃー?・・・少年?・・・
「あぁぁぁぁ、すみませんすみませんすみません!」
一生懸命謝っている声は高いし、よく見れば顔立ちもなんとなく中性的で整っているし、髪が長い事もあって少女に見えない事もない。
ん?髪が長い・・・あっ、忘れてた。回復魔法って、なんていうか新陳代謝の活性化を促して肉体の再生力を高めて云々カンヌンで、それによって髪が伸びてしまう事もあるとかないとか・・・
母音クロウが鳴いていた事から男に間違いはないはずなんだが、まぁ気にする事もないか。少女の見た目であるが性別は男で【男の娘】とか居るってのも聞いた事があるので目の前の存在がそうである可能性もある。まさか魔物が間違えるはずもあるまいし、あとは確か、【漢女】って言ったかな?筋骨隆々で心は乙女だと言うやつが存在するって・・・
前半は兎も角、後半のやつには出来れば出会いたくないな。
「あの・・・あ、あなたが助けてくれたのですか?」
「あ、あぁ・・・ま、そんな所だ」
「ありがとうございます!なんとお礼を言っていいか・・・《グ〜》」
そこまで言ったところで少年のお腹の音が鳴り、少年は恥ずかしそうに下を向いた。
「ははっ、それだけ元気があれば大丈夫そうだな。礼の話は置いておいて。とりあえず飯、食うか?」
「いえっ、そこまで甘える訳にはっ!」
「まーまー落ち着け、これは俺の為でもある。ここまで助けたからには安全な街まで送るつもりだ。しかし少年がまともに動けなければ俺の負担が増えて、その分危険も増えるんだ。それに少年、人からの好意は素直に受け取っとくもんだぞ?」
目の前で両手を振って拒否していた少年は、俺の説得(?)もあって少し考え、頷いた後に笑顔でこう言った。
「分かりました、ありがとうございます。おじさん!」
「おじさんじゃないっ!俺はお兄さんだ!」
ったく失礼な、俺はまだ20代だと言うのにおじさんだなどと・・・
「ありがとうございます、お・・・お兄さん!」
「良しっ!それじゃ食べるか!」
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