第2話

ギィぃぃぃぃ・・・ドサッ


 何十匹目かになろうかという魔物を魔剣で斬り伏せ、周囲に気を配りながら進んで行く。


「うーむ、それにしてもこのダンジョン、敵の数は多いが、そこまで手強くないな。この魔剣のせいか?魔王が作ったとされるだけあって強いのか?」


『あぁ、マスターに使われるこの喜び!マスターの温もりを感じます!』


 こっちの話を全く聞かず、よく分からない言動をする魔剣。そりゃ柄を握ってるんだから体温くらい感じるだろうよ。。。


 結局、他の武器は全て破壊されるので背に腹は変えられず、諦めてこの自称魔剣を使っている。今の所、副作用など無いのが救いか。


「さて、今日はどこら辺まで潜るかな・・・」


『それはもう最深部まで!行けるところまで行って私を思う存分使いましょうそうしましょう!』


 なにか呟いてるようだが、ハッキリ言ってそんなに体力が保つわけがない。パーティー組んだり、仲間が居れば戦闘の負担も減るし、疲れた時は交代で見張りすれば休憩できて体力回復できるし、強い敵とも戦えたりして安全面や稼ぎの効率も上がるんだけどな。いっそのこと臨時のパーティーに入ろうと思ったが、魔剣の事がバレるとマズいからなぁ、一応聖剣って事になってるし・・・

そう思いながら魔剣をジト目で見ると。


『あぁ・・・マスターの熱い眼差しが・・・』


 熱くねーよ、熱量的に言えば冷めてるよ、ついでに懐も寒いよ。それと言うのもこの駄・・・魔剣が、買って来た武器をことごとく破壊してくれたのでお金が無くなってしまったのが原因だ。その事を魔剣に言うと


『そう言う事であればダンジョンに行きましょう!今すぐ行きましょう!!そして私を使いましょう!そうしましょう!!・・・あ、ついでにお金が手に入ります』


「そこは、お前を使うのがついでと言えよ」


 という事で、今日は中級冒険者が通う聖剣の無い普通のダンジョンに資金稼ぎをしに来た次第である。

 ある程度進んでドロップ品を確保したら街に戻って換金して、久しぶりに美味しいご飯を食べて良い宿で寝て身も心もリフレッシュするんだ〜♪ 待ってろよ〜、俺のステーキ肉ちゃんっ!


 おっと、いかんいかん。美味しいものを思い浮かべたら気が緩んでしまった。ここはダンジョンだ気を引き締めていこう!

 ・・・だからあんな幻覚は俺には見えない、見えないんだっ!

 まだ若そうな冒険者がボロボロになって倒れているのが見え・・・見えな・・・見える


「はぁ〜・・・」


 ダンジョンに入るのは自己責任である。

だから人を助ける助けないも自由だ、助けるにしてもリスクが高いからな。助けてる間に魔物に襲われミイラ取りがミイラになるような事はよく有るし、ひどい時にはボロボロで倒れているのが演技で近付いた所をブスリとやって冒険者の所持品を奪いに来る盗賊の類だったりと色々あるから判断が難しいと言うのも有る。そういった事例もあって、こういった状況で助けなくても罪に問われる事はない。

とはいえ、こういうのを放って置くのも寝覚めが悪いんだよなぁ。


「仕方がない、助けるか」


『いけませんマスター。私以外の物に触れるなど』


「いや、物じゃねーよ?人だからな?分かるか?人命救助。いいか?斬るなよ?絶対斬るなよ?絶対だからな!?・・・・・・振りじゃないぞ?」


 周囲の確認をしつつ倒れている男の冒険者に声を掛けて反応が無いので抱き起こすと


「ウホッ!」


おいちょっと待て!今の状況で・・・


「ア“ッー!」


そんなこという奴は誰だっ!?


 ハンマーヘッドゴリラの『ウホッ!』はともかくとして『ア“ッー』の方は母音クロウかっ!

通常のクロウの鳴き声は『ガァッー!』なのに対して、この母音クロウはなぜか母音しか発音出来ず『ア”ッー』と鳴くのだ。それと、研究が進んで最近分かってきた事なのだが、なぜか男が2人だけで近くにいる時に良く鳴く習性があるらしい。。。何で?


「ちぃっ!」


 倒れている冒険者を脇に抱え跳躍する。元いた場所にハンマーヘッドゴリラが上空から両手を組んでハンマーの様にして叩き付けてきた。その衝撃で床が陥没している。


「あっぶねぇ・・・」


『マスターマスター!斬りがいのありそうな魔物が出ました!斬りましょう、今すぐ斬りましょう!今宵の私は血に飢えております!!』


「まだ夜じゃないし、元気いっぱいに妖刀みたいな事を言うんじゃない!・・・って魔剣だから似た様なもんか?」


 妖刀とは・・・ってやばっ!

咄嗟に体を屈めると今まで頭のあった位置にハンマーヘッドゴリラの丸太みたいな腕が通り抜けていった。


「ウンチク言ってる場合じゃないな・・・」


 飛びかかってきた母音クロウの追撃攻撃を躱しながら魔物との距離を離して対峙する。


『妖刀などという低俗な物と一緒にされては困ります』


「ええい、言うとる場合かっ!来るぞっ!」


 抱えていた冒険者を後ろに置き、魔剣を構えながら冒険者を巻き込まない様に地面を蹴って前へ出ると、母音クロウが鋭い嘴で突撃して来たので交わしざまに魔剣で横一閃に斬る。

 続いてハンマーヘッドゴリラが右腕を振り上げてから叩き付けて来たので、受け流してからハンマーヘッドゴリラの頭上までジャンプして魔剣で脳天を突き刺そうとしたのだが。


ズバッ!!


「・・・ゔぇ???」


 受け流そうとした丸太みたいな腕を斬り落としやがったぞこの魔剣!《ズバッ!!》じゃねーよっ!

 驚いて動きが止まってしまった所にハンマーヘッドゴリラの左腕のフックが迫って来たので咄嗟に魔剣で受ける動作に入る。

 腕を斬り落とされたんだから少しは怯めよとか思っていると・・・


ズバッ!!


「・・・はい?」


 アッー!こいつ、反対側の腕も斬り落としやがった!!


「で、なんでこのゴリラは全然怯まないんですかね?」


 よく見ると頭を後ろにのけぞらせハンマーの様な頭を振り下ろそうとしているのが見えたので、そのまま踏み込んで横一閃に斬りつけ、胴体を一刀両断にした。



ー戦闘終了ー


「・・・・・・・・・」


『・・・・・・・・・』


 え?なにこの、褒めて褒めてと言わんばかりの雰囲気は・・・

 よく見れば、柄の先端に付いている飾りが犬の尻尾みたいにブンブンと振れてるし。器用というかなんというか、どういう構造になってんの?やはり魔剣は未知な部分が多いな。


「いや、褒めないからな?主人が斬ろうと思った時に斬れるのが良い剣だからな?」


『あぁ・・・これが俗に言うツンデレというものでしょうか。ハァハァ・・・マスターの愛を感じます!!』


 どう見てもツンの要素しかないだろう、どこにデレ要素があっただろうか・・・


「はぁ・・・時間掛けてたら他の魔物が集まってくるから、さっさとそこの冒険者を運んで治療するぞ」


『魔物が集まって来るのは望む所ですが、仕方がありませんね。しかしマスターは私の斬り心地をもっとしっかりねっとりたっぷり味わう様に堪能するべきだと進言します』


 よく分からない呟きをしている魔剣の事は考えない様にして冒険者を脇に抱えて安全地帯まで移動するのだった。

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