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今日は、焼き肉に連れてきてくれた。
「焼き肉久しぶりです~。
部活のメンバーでたまに行ってたんですけど、最近行けてなくて。」
久しぶりの焼き肉に嬉しくなり、どんどんご機嫌になる。
メニューを見ながら部活のメンバーで行った焼き肉のエピソードを次々と話していた。
そんなわたしの話を創さんは笑いながら聞いてくれ、お肉を食べる前から楽しい時間になっていた。
お肉も勿論沢山食べていたら、
「やっぱりまだ若いな、俺もう昔ほど焼き肉食えなくなったなー。」
と創さんが落ち込みながら言っていて。
「23歳の時と見た目は全然変わらないですけどね?」
「そうか?まぁ、仕事で運動もしてるからな。
お前は・・・元々キレイだけど、すげー大人っぽくなっててビックリしたよ。」
ドキンっと心臓が煩くなる。
「創さん・・・高校の時のわたしとか・・・知ってましたか?」
「なんだよ、それ?
1年も2年も副担任で、3年間部活の顧問だぞ?」
「それはそうですけど・・・。」
話したことがないどころか、目も合ったことがなかった。
そんな創さんに惹かれる日が来るなんて。
“早川とは無理だろ。”
また創さんのあの言葉を思い出して、楽しかった時間が一気に悲しい時間になってしまう。
「どうした?」
いきなり暗くなったわたしに、すかさず創さんは聞いてくれる。
「なんでもないです・・・」
「なんでもないわけないだろ。」
ずっと我慢していた涙が、流れてしまった。
それに驚いた創さんの顔が見えてしまい、急いで涙を拭き下を向く。
「ごめんなさい・・・」
「謝んなよ、どうした?」
優しく聞いてくれる創さんにまた惹かれてしまう。
どんどん惹かれてしまう。
もう、『好き』なんだ。
わたし、創さんのことが『好き』。
自覚した途端、また苦しくて涙が次々に溢れてきた。
『わたしとは無理』と言った相手を好きになってしまった場合、わたしはこの後どうすればいいんだろう。
「わたし・・・」
涙を拭いて、精一杯の笑顔で顔を上げた。
「わたし、もう創さんとは会えなくなっちゃいました。」
ちゃんと笑えてるだろうか。
ちゃんと『何でもないフリ』は出来てるだろうか。
「なんで?」
低い創さんの声がもっと低くなった。
その声にビクリと身体が跳ねる。
何も言えなくなってしまって、また下を向く。
しばらくの沈黙。
数分経ち、創さんが立ち上がった。
帰るの?と思い、わたしはバッグを持ち立ち上がろう顔を上げた。
その瞬間・・・
創さんに、キスをされた。
.
個室の中は、沈黙が続く。
創さんの突然のキスに驚き、固まってしまっている。
創さんはキスをしながらわたしの隣にスルリと座り、熱い視線を向けていた目をソッと閉じた・・・。
「・・・ンッ!?やっ・・・!!」
創さんの舌がわたしの中に入ってきて、激しくも優しくわたしの舌を絡めとる。
逃げようとした身体も頭も創さんにガッシリ捉えられ、身動きが取れない。
「創さ・・・っ!ダメっ!・・・ヤッ!」
初めての感覚なのに、怖いくらい気持ち良くてもっと怖くなる。
抵抗しようとしても逃れられない創さんの舌に、気が付いたらわたしも夢中で応えていた。
どれだけ長いキスをしていただろう。
創さんの唇がゆっくり離れていく。
すっかり息の上がったわたしは必死に酸素を求める。
そんなわたしの唇に、創さんはもう一度優しくキスをした。
「もう会えないとか言うなよ・・・」
小さな声で呟いた創さんに、わたしは何を言えばいいのか分からなくなった。
気まずい雰囲気のまま、お店を出る。
そんな中でも、創さんはわたしの右手をとり指を絡めた。
「創さん・・・」
右手を引こうとするわたしに、創さんはもっと力を入れた。
そのまま早足で歩く創さんに、わたしは必死についていく。
「創さん?なに・・・??」
無言で早足で歩く創さんが怖くて声を掛けるも、創さんは答えてくれない。
「創さん!どこ行くんですか!?」
大きな声で聞くと、やっと創さんがチラリをこっちを見た。
でも、その顔は真顔で。
「ホテルと俺の部屋どっちがいい?」
「え・・・!?」
「これからお前を抱く。」
「え・・・なんで!?」
「もう止められねぇよ・・・。」
そう言った後、創さんは掠れた声で笑った。
「29にもなって・・・これじゃあ高校生のガキみてぇだな。」
創さんは数足歩いた後に急に立ち止まり、わたしを見詰めた。
その顔は苦しそうな顔で、初めて見る表情だった。
「ごめん、怖かっただろ?悪かった。」
創さんは泣きそうな顔で笑い、わたしの唇を親指でなぞる。
わたしは小さく頷いた。
「ごめん。」
それだけ言って、優しく手を引いて歩き始めてくれた。
どこに行くのか不安だったけど、着いたのは駅だった。
「今日は・・・ごめん、本当に。
謝っても許してもらえないのは分かってる。
でも・・・本当に悪かった。」
創さんはそう言って、優しくわたしの頬をなでる。
わたしはまた小さく頷いた。
「何回も誘ってごめんな。
付き合ってくれてありがとな。」
優しく笑う創さんに、わたしも頷く。
「すげー楽しかったよ。
すげー楽しかった。」
「わたしも・・・楽しかったです。」
わたしがそう言うと、創さんの顔が一瞬歪んだ。
数分の沈黙。
「お前さ・・・」
「はい・・・」
「枝豆好きなの?」
「え?」
「枝豆、好きなの?」
よく分からない質問だけど、答えた。
「好きです・・・。」
創さんはすごい笑顔になって、
「俺も好きだよ。すげー好き。
大好きなんだ。ずっと。」
そう言いながらわたしの唇をなぞる。
「もう連絡しねーから安心しろ。
もう二度と会わねーから安心しろよ?
元気でな。
就活がんばれよ!」
早口でそう言って、走って改札口に入ってしまった。
こうして、わたしの初恋は終わってしまった。
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