3

急にそんなことを言われ、わたしは固まってしまった。

創さんの熱い視線から目をそらせなくて、息も出来なくなる。





またわたしの唇を親指でクイッとなぞると、

「マジで頭がおかしくなる。

すげぇ苦しい・・・。」

少し顔を歪めながらそう言うと、また怖いくらい真剣な顔になりわたしを見詰める。





「いい・・・?」





言いながら、ゆっくり顔を近付けてきた。





心臓が激しく鳴って、胸がキュンッと苦しくなって、どうしていいのか分からずわたしは固まったまま。





近付いてくる創さんの唇に吸い寄せられるように、わたしも少しだけ顔が動き・・・





その瞬間、創さんの鼻とわたしの鼻が少しだけ触れた。





ハッとなり、慌てて下を向き創さんの胸をキュッと押す。





「そ、創さん・・・!!

わたしこういうこと全然慣れてないので、あんまり意地悪しないでください!」





なんとか声を振り絞り、創さんの胸を押した自分の手を見ながら言った。

恥ずかしくて、創さんの顔は見れなかった。





重い沈黙が続く。

わたしが押したことで、創さんの右手はわたしの頬から離れていた。

それが何故か少し寂しく感じてしまう。




「悪かった・・・。

帰るか、送るよ。」




何事もなかったように、創さんはスタスタと車に向かう。

その後ろ姿を見て、創さんはからかってきただけなんだろうなと気付いた。




高校の時


創さんと仲の良い部活のメンバーと廊下を歩いていた時に、創さんとすれ違った。

お喋りに夢中になっていて、2人とも創さんに気付かず挨拶が出来なかった。



「おーい、杉野!挨拶はどうした?」



「あ”ーー!創さん!!

おはようございます!!!」



「今さら遅ーい!

お前今日のランニングはプラス10周な!

頑張れよー!!!」



「えーーーー!!!最悪ーーー!!!」



反応したメンバーを見て創さんは意地悪な顔をして笑い、またスタスタと歩いていった。

わたしのことは一度も見ずに・・・。





その後ろ姿に似ている気がする。

何事もなかったように歩く創さんの後ろ姿に、高校の時の出来事を思い出した。

仲の良い部活のメンバーには、よく意地悪なことを言う人だった。





プライベートで会うのは今日で2回目だけど、少し仲良くなれたってことなのかな?

高校の時は一度もわたしに気付かなかったのに、今さらこんな意地悪をされるなんて不思議な感覚になる。





まだ少しドキドキしている胸を抑え、わたしも車に向かった。





無言で車は発進し、わたしの家に着くまで2人とも一言も喋らなかった。

マンションの裏に停めてくれ、少し悩んでからお礼だけ言いシートベルトを外そうとしたわたしに、創さんが話し掛けてきた。




「あのさ・・・」




気まずそうに話し始め、わたしを見てきた。




さっき、創さんは3年間一度もわたしに気付かなかったことを思い出していたので、こんなに近くで見られると緊張してしまう。




「次の土日は何してんの?」




「え・・・?次の土日ですか??」





予想外の言葉に驚いてしまう。





「予定合ったらまた遊びに行こうよ。」





ビックリして創さんを見返すと、創さんは笑った。





「なんだよ、その顔。

今日楽しかったしさ、また遊ぼうよ。

土日なにしてんの?」




「土曜日は就活で・・・会社説明会が午前中にあって・・・。

日曜日はお昼からバイトです。」




「じゃあ、土曜日の17時くらいから飯食いに行こう。

また連絡するから。」





驚いて小さく頷くしか出来なかったわたしに、創さんは嬉しそうに笑った。

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