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断れない雰囲気で、そのまま吉岡先生の左側にくっつきながら歩き、お店に入った。



通された個室で飲み物とおつまみを注文すると、吉岡先生がまたわたしの顔を見てきた。



今日で顔を見られたのは4回目。



「愛実から、吉岡先生と学さんは飲みなおすって聞いてたんですけど、大丈夫ですか?」



「・・・大丈夫。

それよりさ、もう先生はやめろよ。

こんな場面で言われてるの聞かれると、変に疑ってくるヤツいるからさ。」



「えっと・・・吉岡・・・さん??」



「ハハッ!なんだよそれ!

綾瀬と同じく、“創さん”でもなんでもいいよ。」



吉岡先生は“創さん”だなんて軽く言っているけど、部活のメンバーの中で“創さん”と呼べるのは限られたメンバーだけだった。



吉岡先生からもよく話し掛けられていて、それに楽しく会話出来るようなメンバー。

わたしは、そもそも吉岡先生に話し掛けられたこともなかったから、“創さん”だなんて呼べるはずもなくて。




「“創さん”って・・・、本当にわたしが“創さん”って呼んでいいんですか??」



「吉岡さんって呼ばれるなら、創さんの方が何倍もいい!

創一でもいいけど。」



「あ、いや、それは・・・、“創さん”でお願いします。」




わたしがそう言うと、“創さん”は嬉しそうに笑っていた。

こんな笑顔をわたしに向けたのは、初めて。




愛実や学さんがいた時はこの2人がよく喋っていたけど、創さんと2人になってからは沢山話をしてくれた。




最近の学校のこと、わたしの元担任の先生のこと、部活のこと。

それに、わたしにも大学のことやバイトのことなど沢山話を聞いてくれた。




「まさか、創さんとこんなにお喋り出来る日が来るなんてビックリです。」




「俺も・・・。

もう二度と会うこともないんだと思ってた。」




「二度とですか・・・?

またOG会があれば会えるじゃないですか。」




「お前、この前のOG会で、俺がどこに座ってたか知ってたか?」




「えっと・・・知らないです・・・。」




「挨拶くらいしに来いよな。

こっちからはなかなか行けねーんだから。」




「ごめんなさい。わたしのことなんて覚えてないと思ってて。

誰か分からないのに挨拶に行ったら逆に申し訳ないかなって。

でも、愛実からわたしの話たまに聞いてたみたいですね?」




「あぁ・・・まぁ・・・たまにな。

でも、29にもなってまたお前に会うなんてなぁ・・・。」




創さんはそう言うと難しそうな顔をして、また目の前にある枝豆をジッと見詰めていた。








腕時計を見たら、12時を回っていた。



「創さん、わたしそろそろ帰らないと・・・」



「あ!!!そうだよな、悪かったな。」




お店を出ると、金曜日の夜はまだまだ人混みだった。

創さんとタクシー乗り場まで歩いていると、ソッと右手を触られ・・・




指を絡ませてきた。




ビックリしたけど何か言える雰囲気ではなくて、振りほどけるような雰囲気でもなくて。





「お前今さ、彼氏いないって本当なの?」




愛実から聞いたのか・・・。

わたしは前を向いている創さんを見上げた。




「今もなにも・・・彼氏いたこと1度もないですね。

もうすぐ22歳になるのでそろそろ自分が心配になってきてますけど、いません。」




「それさ、本当なの?

お前が彼氏いたことないとか嘘だろ?

なんで?」




「高校の時から男友達自体も少いですし、大学ではゼミの男子としか絡みもないですし。

バイトにはキッチンの男子もいて、実はわたしのことが好きだって先輩もいたんですけど、特に告白されることなく就職で3月で辞めちゃいました。」




「・・・そいつに告白されてたら付き合ってた?」




「うーん・・・多分付き合わなかったかも・・・」




「なんで?」




「2人きりで話したことも、出掛けたことも、連絡しあったこともなかったですし。

なんでわたしのことが好きだったのかよく分からないですし。」




わたしがそう言うと、絡まっていた創さんの指に力が入った。




「2人きりで話してなくても、出掛けてなくても、連絡とりあってなくても、人を好きになることはあるだろ・・・。」





小さな声でそう言われ、なんだか何も言えなくなってしまった。





その後はタクシー乗り場まで2人で無言で歩き、タクシーに近付いたのでわたしは絡まっていた指をほどこうとした・・・





そしたら、創さんはまたギュッとわたしの指に力を入れてきた・・・。




「今週末なんか予定ある?

土曜日の夜か日曜日の午後以降。」




「えっと・・・土曜日は夜にバイトがあって。」




「日曜日は?」




「特に予定はないですけど・・・。」




そう答えたら、創さんは怖いくらい真剣な顔でわたしを見下ろした。




「どっか遊びに行こう。

また連絡するから他に何も予定入れんなよ。」




「え・・・?」




わたしが何か言う前に、創さんがわたしに一万円札を握らせ、開いたドアからタクシーの運転手さんに声を掛けていた。





「じゃあ、また日曜日に。

連絡するからな?」





そう言いながらわたしをタクシーに乗せた。






えっと・・・、日曜日、わたし創さんと遊ぶの・・・??

なんで・・・??




疑問だらけだった。

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