第三章スタート
江戸の風習と文明開化がいりまじるごく始めのころ、十三歳の
折あしく、雨がふりだした。傘をもたず呉服店を
「ハァ、ハァッ、お待たせしました」
「結之丞くん、わざわざ来てくれたのかい」
「はい。番頭さんから、若旦那さまに傘を届けるようにと……」
「それは、どうもありがとう」
世界における傘の歴史は古く、当初は高貴な身分の人が従者にもたせ、
薬種問屋の鹿島屋では、
晩になって、雨は激しさを増した。屋根を打ちつける雨音は、うるさいくらいだった。奉公人が肩を寄せて寝泊まりする離れで、ちょっとした事件が起きた。雨もりである。天井の板が湿っているため、
次の日の朝、
修理人の男は、意外と若い。いくつかの場所を点検すると、道具入れをひろげ、黙々と作業を進めた。いつものように掃除を担当する結之丞は、窓や床の雑巾がけをしながら、壁の染みは、どうやって消すのだろうと思った。雨もりの始末がすんだのは、夕刻である。折あしく、いつしか外は雨で、しかも大粒の雨水がふってくる。修理人は「通り雨でしょう」といって笑う。
夕飯を食べて離れに戻った結之丞は、塗装された壁に目を
〘つづく〙
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