三鏡という男
「されども
和装のうえに二重まわしの
「人に寄る神は、
捨てる神アレば拾う神あり。地方には
一階の資料室へ向かう桜木は、誰がいつどこで最初に使い始めたのかわからない
「きみ」と声をかけられた桜木は、「おれのことですか」といって立ちどまる。目の高さは数センチほど三鏡のほうが上だが、相手は細身につき、桜木のほうが力持ちに見えた。
「あの、おれになにか……」
この春、帝都あやし編集室へ移動になった桜木は、ふらっとやってくる三鏡とは初対面につき、禁止令がだされた蝙蝠傘を持ち歩く男を警戒し、眉をひそめた。ところが、踊り場で向かいあうふたりを気にする従業員がいないため、目の前の人物は関係者だろうかと思いつつ、念のため「おはようございます」と、挨拶した。
「自分は雑誌担当の桜木と申します。そちらさまは、どの部署の
礼儀正しく自己紹介をする桜木は、年齢のわりに筋力の備わった体格をしており、実際の
「きみ、心中者の穢れをもらっているね」
「……え」
「最近、出張でもしたかい」
「は、はい。
「蔵持……、数年前、
「おれが、
「見た目ではなく、気持ちの問題さ。……桜木くん、きみはまだ、恋をしたことがないね」
「な、なんですか、突然」
「失礼」
三鏡は青年の首筋へ顔を近づけると、ふぅっと、息を吐いた。その瞬間、すぅっと肩まわりが軽くなった気がする桜木は、「あなたは、いったい」と、たじろいだ。
「さあ、これでだいじょうぶ」
くすッと笑い、三鏡は名乗らずに去っていく。階段の踊り場に残された桜木は、しばらくぼんやりとしたが、受付の柱時計がボーンと鳴ると、資料室へ向かうため、階段を駆けおりた。いっぽう、帝都あやし編集室に顔をだした三鏡は、
「そうか、
「ええ。タレ目の
「ほう、桜木くんに逢ったのだね」
〘つづく〙
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