田宮家、ふたたび
産後の肥立ちは、心身の状態が不安定になりやすい。菊世のお産に立ち合った
出産を終えた女の身体が、健康に回復するまで、注意が必要である。玄関の間で
「
「おかげさまでだいぶ安定しておりますが、ときどき、頭の芯がくらくらするようです」
「では、授乳を終えましたら、診察をさせてください。軽い貧血の症状がおありかもしれません」
「はい、よろしくお願いいたします」
千幸は布団のうえで上体を起こしていた菊世に声をかけ、枕もとへ正坐した。若旦那の斜めうしろに結之丞も腰をおろす。ちょうど千幸の細い背中が菊世の姿を遮り、結之丞としても視線が泳がずにすむ。あとからはいってきた正字郎は、元気な赤ん坊を見おろしてうなずくと、菊世にひと声かけて仕事にでかけた。千幸は、いくつか問診して母子の健康状態を横長の白い帳面に書きつけると、赤子の世話を引き継ぐ若い女中と目が合った。実際は、ちがった。女中は、なにかを云いたげな面持ちで、千幸の顔ばかり見ているのだ。
──菊世さんが
真相を知る女中は、黙々と目で語る。千幸は怪訝そうな顔をしたが、手持ちの漢方薬から菊世の体調に必要と思われる種類の包みを用意した。妙な空気が流れるなか、結之丞は、以前足を運んださいに見た、
帰りぎわ、近くの神社で
〘つづく〙
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