入梅の候
活版印刷の
糸のような雨が降りつづけ、水滴に
さて、若旦那のお供や掃除などの雑用係の結之丞は、店の間に立つことはなく、きょうも朝から動きまわっていた。
仕入れた薬草を保存するさい、カビや虫を寄せつける湿気を防ぐため、紙袋にいれて
薬種問屋は、主に漢方薬の原料や、
「結之丞くん、連日の雨で気温が低いから、風邪など引かないよう、気をつけなさいね」
「はい、わかりました。……あの、番頭さんに云われて、新聞紙をいただきにまいりました」
「そう、ご苦労さま。そこの収納簞笥の下段に、雑紙と一緒にはいっています。必要なぶんだけ持っておいき」
「はい、ありがとうございます」
店の間に足を運ぶたび、仕入れたばかりの包みがずらりとならび、漢方薬ならではの
小新聞は総ふりがなの文体で、一般大衆を対象として発行されており、漢字を書けない結之丞でも、紙面を読むことはできた。奉公人死ス、という見出しに、ぎょっとなる。体罰による臓物損傷という残酷な死因だが、若い男の奉公人は、主人の女房に手をだしており、同情する者は少なかった。調べによると、若い男を誘ったのは女房のほうで、性行為は合意のうえだとも記してある。
「……主人から、……暴力を」
日ごろ、番頭にきびしく叱られることはあっても、外的な接触は、いちどもない。胸の悪くなるような記事を見てしまった結之丞は、紙片を手にして膝をのばしたとき、背後から視線を感じた。一瞬ふり返ろうとしたが、番頭を待たせてはいけないと思い、早足で戻った。
〘つづく〙
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