花嫁の角隠し
夕闇に包まれて
「
「お邪魔します」
玄関の間で
苦しげな息づかいや衣擦れの音が、障子の奥から聞こえる。断続的に悲しげな叫び声もあがり、結之丞は、成りゆきが危ないのではと気を揉んだ。いっぽう千幸は、背筋をのばして坐り、まぶたを閉じている。不必要に動じない凛とした姿勢を見た少年は、冷静を取り戻した。足が
武家屋敷の便所は、居室と仕切られているが、家屋に一体化された配置につき、廊下の突き当たりにある。長い広縁を素足で歩いて向かうと、桝格子の付いた小窓のある厠に到着した。木綿の着物を身につける結之丞は、細長い帯を腰に巻き、余りを片なわ結びにしている。尿意をもよおしたわけではないが、汲み取り式の穴をまたいでかがみ、念のため小便をすませた。手洗い場の水を使っているとき、
暗がりに消えた花嫁を追って障子の
「おかしいな。さっき通ったときは、火なんか
用を足しているあいだに、誰かが床の間へやってきて、
──菊世さんが
なにやら、あやしい気配が濃厚だ。息をひそめていた結之丞は、困惑ぎみにその場を離れた。
〘つづく〙
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