初めての銭湯
斧を振りあげて薪を割る結之丞は、ひと息吐いて
時代の流れで、武士や武家に使えていた者は、庶民生活へと様式が移り変わっていく
家に入浴設備がある上層の者はかぎられていたが、湯屋の拡大と浴場形態の変化は目ざましく、評判を博している。
「小僧」
割って間もない薪は乾燥させる必要があるため、屋外の薪棚へ積んでいると、抄子との無駄話を切りあげてきた番頭から「今夜、銭湯に行くぞ」と、声がかかった。
鹿島屋の奉公人たちは、番頭に連れだされないかぎり、銭湯で入浴することはできない。ふだんは三日にいちど、裏庭の井戸水で身体の汚れを手ぬぐいで
夕餉のあと、浴用の手ぬぐいと寝巻を持って表にでた結之丞は、慈浪の幅広い背中のあとをついて歩き、しばらくすると、木造二階建ての湯屋に到着した。妻入りの町家を思わせる外観が特徴で、軒下に吊りさげた
「なにしてるんだ。早くしろ」
番頭に着脱を急かされて、ためらいながら
熱い湯を浴びて
「新右衛門さんじゃないの」
淡い黄色の小袖に
「相変わらず、いい顔してるねえ。
軽口をたたく女は、蕎麦処の
「……そいつは
「へえ、あの若旦那さまのお気に入りかい。なるほど。よく見ると、かわいい顔してるじゃないの」
なにやら紹介の仕方に語弊があるような気もしたが、結之丞と彼女の交流は、この先もつづくことになる。
「あたしはね、
結之丞だけでなく、番頭をも茶化して笑う
〘つづく〙
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