第11話 出発

 1年後・・・


 羽田発徳島行きの飛行機の出発時間が迫っていた。搭乗ゲートの前だ。


 私は結城に声を掛けた。


 「本当に行くのか?」


 結城が私を見た。少年のような眼だった。


 「ああ、あれから、『契約の箱』の発掘がボクたちの夢になったんだ。ようやく、徳島県美馬郡つるぎ町に家を借りることができたし・・・」


 「でも、S大の教授をやめることはなかっただろう」


 結城が笑った。


 「教授をやりながら、発掘なんてできないだろう。必ず、夢を実現させるよ」


 私も笑いながら結城を見た。


 「そうだな。向こうで『契約の箱』が見つかったら、僕が本に書いてやるよ」


 「ああ、頼むよ」


 私は結城の顔を見つめた。何かが胸に迫ってきて・・・私はそれを振り払うように言った。


 「何かあったら、すぐに連絡してくれよ。何があっても、必ず、連絡してくれよ」


 すると、結城の隣に並んで立っている美咲が笑った。今は結城夫人だ。美咲はA出版を退社して、専業主婦に納まっていた。美咲が私に声を掛けてきた。


 「まあ、藤堂さんって心配性ね。海外に行くわけじゃあるまいし。私たちが行くのは、四国の徳島県よ。藤堂さんもお休みが取れたら、徳島にぜひ遊びに来てくださいね」


 私は美咲に笑顔を見せた。


 「はい。ぜひ、お伺いします。奥さんも向こうでは、健康に気を付けてください」


 結城が私に手を差し出した。


 「じゃあ、藤堂。行ってくるよ」


 「ああ、お前も健康に気をつけてな」


 私は、美咲に軽く手を上げると、結城の手をしっかりと握り返した。


               了

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契約の箱 永嶋良一 @azuki-takuan

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