第10話 カシオカ
美咲が印刷した紙を私と結城に手渡してくれた。私たちは、それぞれ、その印刷された紙を覗き込んだ。
その紙には、次のように書かれていた。
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け・・く・・九里きて、九里行って、九里戻る。
い・・あ・・朝日輝き、夕日が照らす。ない椿の根に照らす。
か・・お・・祖谷の谷から何がきた。
お・・え・・恵比寿大黒、積みや降ろした。
う・・い・・伊勢の御宝、積みや降ろした。
む・・み・・三つの宝は、庭にある。
か・・お・・祖谷の空から、
し・・さ・・先なる車に、何積んだ。
お・・え・・恵比寿大黒、積みや降ろした、積みや降ろした。
か・・お・・祖谷の空から、
に・・な・・中なる車に、何積んだ。
う・・い・・伊勢の宝も、積みや降ろした、積みや降ろした。
か・・お・・祖谷の空から、
い・・あ・・後なる車に、何積んだ。
す・・し・・諸国の宝を、積みや降ろした、積みや降ろした。
む・・み・・三つの宝をおし合わせ、こなたの庭へ積みや降ろした、積みや降ろし
た。
けいかおうむかしおかにうかいすむ
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美咲が印刷した紙を見ながら言った。
「先ほどのひらがなの左に、あいうえお順に1文字下げたひらがなを書いています。それを上から順に集めたのが、一番下の『けいかおうむかしおかにうかいすむ』です」
私は一番下の文字列を見つめた。
けいかおうむかしおかにうかいすむ・・
けいかおうむ かしおかにうかい すむ・・
経過を生む カシオカに迂回 住む・・
誰もがそれに気づいた。三人の口から同時に「あっ」と言う声が聞こえた。
結城があわてて言った。
「美咲さん。ヘブライ語で『カシオカ』に近い言葉を調べてくれないか?」
美咲がパソコンを操作する。
「はい。ヘブライ語には『カシオカ』や『カシ』、『オカ』という言葉はありません。ただ、『カシ』によく似た言葉に『カシェル』という単語があります。これは、『適正』とか『相応しい状態』という意味の形容詞です。もう一つ、『オカ』によく似た言葉に、『オカー』という言葉があります。これは、『取り除く、根絶する』という意味です」
結城の眼が輝いた。
「それだ。『カシオカ』は、その『カシェル』と『オカー』だ。『カシェルオカー』と続けると、『相応しい状態が根絶する』という意味になるじゃないか。『相応しい状態』であった『イスラエルの生活』が『根絶した』人々という意味になる。まさに、イスラエルを追われて、日本にやってきた人たちのことじゃないか。で、その『カシェルオカー』が『カシオカ』に転訛していったんだ。
で、この『カシオカ』というのは、おそらく、現代では『樫岡』か『柏岡』という地名だろう。美咲さん、『樫岡』と『柏岡』という現代日本の地名を調べてくれないか?」
結城の口調が早口になっている。美咲が結城を見て「はい」と勢いよく言うと、パソコンをすばやく操作した。
「これを見てください」
美咲がパソコンに画面を私と結城に示した。
私たちがのぞき込むと、パソコンの画面に次のような表示が浮かび上がっていた。
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樫岡
「樫岡」という地名自体の情報は見つかりませんでした。一方、「樫岡」という名字は、日本において約120人が持っている比較的珍しい名字で、特に奈良県に多く見られます。由来としては、地形から来ている可能性があり、樫の木が多い岡という意味合いが考えられます。特に奈良県宇陀市大宇陀芝生、兵庫県淡路市生穂、徳島県那賀郡那賀町沢谷樫岡にその名字を持つ方が多いようです。樫岡という地名自体の情報は見つかりませんでしたので、地名ではなく、名字の由来に関する情報となります。
柏岡
地名としての「柏岡」については、検索結果からは特定の情報は見つかりませんでした。一方、「柏岡」という名字は、日本全国で約380人が持っており、特に大阪府に約140人、徳島県に約60人が住んでいるとされています。由来については明確な情報はありませんが、地形から来ている可能性があり、「柏」と「岡」から成る名字であることが示唆されています。特に徳島県美馬郡つるぎ町半田上蓮に多く見られるようです。
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結城が叫んだ。
「徳島県だって! 剣山があるのも徳島県じゃないか! 美咲さん。この『樫岡』という名字が多い『徳島県那賀郡那賀町沢谷樫岡』と、『柏岡』という名字が多い『徳島県美馬郡つるぎ町半田上蓮』というのを地図で調べてみてくれ。特に剣山との位置関係を・・・」
美咲が急いでパソコンを操作する。やがて、美咲が顔を上げて言った。
「結城先生。分かりました。まず、剣山は『徳島県の美馬市・三好市・那賀郡那賀町・美馬郡つるぎ町』にまたがる山です。
で、『樫岡』という名字が多い『徳島県那賀郡那賀町沢谷樫岡』は剣山の近くで、剣山のすぐ東側に位置する集落です。また、『柏岡』という名字が多い『徳島県美馬郡つるぎ町半田上蓮』も剣山の近くで、こちらは剣山のすぐ北側に位置する集落です。この二つの土地は、剣山のすぐ北とすぐ東にあって、剣山を囲むように存在しています」
誰もが大きく息を吐いた。誰も口を開かなかった。しばらくして、結城がようやく口を開いた。
「この『経過を生む カシオカに迂回 住む』の『経過を生む』と言うのは、いかにも外国語を日本語に翻訳したような言い方だね。『経過』とは『結果』と考えられるから、これは『結果を生む』となる。つまり、『結果をもたらす』ということだ。これは、『最終結果として、こうなった』という意味だ。
そして、コンピューターが言う『樫岡』と『柏岡』は共に名字だが、これらはこの名字が多い剣山の近くの土地、すなわち『徳島県那賀郡那賀町沢谷樫岡』と『徳島県美馬郡つるぎ町半田上蓮』を表していることは間違いない。『カシオカに迂回 住む』は『迂回して、この両カシオカに住んだ』と読めるね。
ここで、『迂回して』という表現だが、『迂回』というのは『回り道をすること』や『遠回りすること』だから、これは言うまでもなく、『イスラエルから伊勢神宮を迂回して』という意味だよね。
つまり、『経過を生む カシオカに迂回 住む』は、『最終結果として、イスラエルから伊勢神宮を迂回して、この両カシオカに住んだ』という暗号なんだよ」
私は勢い込んで聞いた。
「す、すると、『契約の箱』などがある場所は?」
結城が結論を出すように、ゆっくりと言った。
「うん。・・・『モーセの十戒が刻まれた石板』が入っている『契約の箱』、『マナが入った金の壺』、『アロンの杖』・・・これらは、『徳島県那賀郡那賀町沢谷樫岡』と『徳島県美馬郡つるぎ町半田上蓮』に分散して隠されているんだ」
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