第16話 不穏な勘
退職してから2週間半が経過した。
朝、5時に突如目を覚ました。何だろ?嫌な予感がする。布団から起き上がり電気を僅かに明るく灯して机に腰掛けた。机上のスマホに目をやる。途端、音が鳴る。
電話だ。
持ち上げて確認すると知らない番号だった。何だ。健太じゃないか。健太ならライン交換したからライン電話で掛けてくるはずだし。でも、今、この電話に出た方が良い気がする。心の隅に直感が囁いていた。
「はい、もしもし。」
「あっ、もしもし?」
知らない人の声。やっぱり詐欺か広告の電話か。
「陽介、さん、で間違いないですかね?私、笹沢メンタルクリニックの院長、笹沢真帆と申します。」
ん?メンタルクリニック?
「はぁ。」
「天無健太をご存知ですか?彼に当クリニックのお手伝いをさせているんですが。」
!!!なぜ健太を?
「はい!ご存知です。」
「あっ、良かったあ〜。」
彼女は電話先でもわかるくらい安堵していた。
「健太に何かあったんですか?」
「実は、丁度2週間半前から健太が行方不明なんです。」
「行方不明!?」
驚きのあまり机から飛び出してしまった。椅子が背後に倒れたような音が響いた。
「一体。どうして2週間半前から。」
ハッ!2週間半前は確か健太と図書館で別れて以来なはず。
「実は、それから後日連絡しても全く反応がないんです。合鍵を持っているので自宅へ寄ってみたんですが、居ないんです。あっ、恥ずかしながら私、健太と恋人でして。」
「あっ、そうなんですね。」
知らなかった。健太に恋人がいたとは。しかも、クリニックの院長とは。まぁ、そりゃあ、あんなに優秀なら。いや、変人だからか?年齢的に健太とは年が近い?俺とほとんど変わらないような、声の雰囲気だけだが何となく理解した。
「その、警察に捜索願いを届けることも可能だったはずでは?」
「ええ。捜索願いを警察に届けて、現在も探してくれてます。ただ、今範囲と人員は日に日に縮小されてます。」
マジかよ!それって見つかる可能性が遠のいている証拠じゃん。それに、捜索して見つからないなら健太は一体どこまで消えたんだ?日本の端から端レベルな気もするような。
「まずいですね。もしかして警察の調べで僕と電話ができたんですか?失踪する直前に会っていましたし…。」
待てよ?この展開は紛れもなく俺は疑われるはずだ。だとすると、今同時に警察と電話の回線を繋げて現時点での会話を聴取されてるに違いない。確か、ドラマで見た気がする。今後警察が自宅に押し掛けて来るのは明白だ。そこで失踪の疑いが本来無罪なのに有罪ときめつけらたら、大変どころじゃ済まない。考えすぎか?でも、まだ警察が俺を聴取しに訪問してきてないのも妙だ。やはり、回線経由か?背中の内から熱気が放出された。
「そうです。今、刑事さんと共にこの電話をしています。」
っ!わざわざ正直に答えた。なら、疑いは少ないはず。
「あっ。そうでしたか。確かに、疑われてもおかしくない立場です。…わかりました。僕も笹沢さんと刑事さんの居る場所に寄って構いませんか?」
……。間がある。恐らく今刑事さんと確認中だな?
「はい、大丈夫です。場所は○×警察署。入り口前には私と担当刑事がいますので。」
「○×警察署ですね?わかりました。至急、タクシーで向かいます。では、後ほど。失礼します。」
電話の着信を切り、すぐ様茶色のMA-1と黒のスラックスを着用し、外出した。時間は朝5時半。薄っすら水色の空に成り果てていた。冷えるなか、小走りで5分して駅に着く。駅の出入り口付近の並び待ち構えてるタクシーに寄り、一台の後部ドアが開く。後部座席に乗って場所を伝え、発進した。
多分、事情聴取されるはず。今日はバイトはないから問題ない。
謎に身構えたまま車窓から規則並んだマンションを眺める。
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