第14話 見直し+覚悟

何分経ったか。ハッと文字列から視界を避けて辺りを見渡す。

天井の蛍光灯が既に灯され、外は暗く変化していた。

久々に没頭していたようだ。近くの置き時計に目をやると、18時40分。嘘だろ。

2冊とも半分弱程読み、絵の描き解説も途中から読んだ。ここまで時間を忘れていたとは。次第に全身の疲労と喉の渇きが訪れた。全身を縦に伸ばし、荷物をまとめてゆっくり立ち上がり、階段を降りて、受付を出る。廊下に自販機があり、水を買う。向かいのベンチに座り休憩した。

「フゥーーー。」

息を吐いて目を閉じる。

こんなに充実した気分になったのは大学の授業以来か。不動産で働いて不動産系資格の勉強では最初のみしか味わえなかった。いや、元々『なんか楽しくない』と不服ながらに続けていた。漫画家という、"夢"を諦めて…。

とはいえ、まずは転職すべきか?さっきは健太に、「転職して働きながら漫画家になる」、と表明したのだが。今更ながらハードな決意をしたように思い、少し後悔した。

うーむ。正直、働きながら漫画を描くのは身体が持たない気がする。

途端に足音が近づいてきて健太の声がした。

「陽介さん。お休み中申し訳ないですが、そろそろ時間です。」

目を開けて右斜め上を見上げると、無表情に俺を見つめていた。

「んぁ。ああ、もうそんな時間か。」


!!。そうだっ!!!!!


突如、脳から心臓まで電流が走ったように閃いた。

「…………。」

「どうしましたか?何か具合でも?」

「健太…。俺、2週間後に退職する。」

健太は驚いたように目を見開いた。「…もしかして、もう転職活動するつもりですか?」


「いや、"フリーター"になる。そして、本気で"勉強"しながら、本気で"漫画家"を目指す。」


健太はやはり驚いてたのか無言のまま、4秒経過して。

「つまり、フリーターのまま、やりたかった勉強をして、なりたかった漫画家になりますと?」

「ああ、そうだ!俺、やっぱり充実した日々を送りたいんだ。」

「なるほど…。」

「それで、さっきの決意を見直したんだ。仕事と勉強と漫画だと、忙しくてどうしても身体が持たないし、頭も働かない。だからこそ、自分の夢や好奇心を裏切りたくない。もうこんな鬱々とした日常はごめんだ!だから、まずは退職する!そして、ちょっとずつ、やりたかった、なりたかった自分を目指すんだ!」

話していたら活き活きしていた。

健太は無表情になる。

「わかりました。ですが、理想の自分と夢を追い続けるのは、キツイですよ。まさに、常に"自分との戦いです"。」

「それでも!やってやる!」

「フッ。ここまできたら、もう僕との講義実習は必要ないですね。陽介さん。」

健太は右手の人差し指を上へ、左手の人差し指を下へ。お決まりのポーズで答えた。

『改めて、貴方の決意と覚悟に敬意を表し、尊敬します。他人の期待は要らない。自分を失望しないことが人生の秘訣だ。』

閉鎖直前のチャイムが閑静な館内に鳴り響いた。

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