第6話 エリートフリーター

「いいですね。その域です。」

俺達はコンビニを後にして最寄りの美術館へ足を運ぶ。運動服で汗をかいた後で寄るのは些か不快極まりないような。そんなことを気にせず健太は美術館へ入る。

自動ドアが開いて中へ。

あれ?意外と静かだ。広場であり、中央には赤い大きな三角形のオブジェが佇む。照明も明る過ぎず少し暗め?な。外観同様銀色の壁と床だ。大きな美術館の割には人が居ない気が。

「ここは確かに人気はないです。」あっ、読まれた。横に並んだまま答える。「ですが、じっくり作品を鑑賞するには打ってつけです。たまに有名な作家・作品も載せられますし。」はー、なるほど。「確かに。周りの目を気にして変に気疲れして寄るのは嫌だしなぁ。というか穴場スポットじゃん。いや、美術館としては大きいし…。」健太は少しフッと笑い、目の前の赤いオブジェを眺める。「そうですね。要は、それ程美術館に行く者が途絶えてきているのだと僕的には思います。」ほうほう。健太は話を続ける。

「特に現代人なら尚更行く意味を見出せない。そうゆう、日常に溢れるチャンスを避けるか、思考が追いついてないか。はたまた、考え過ぎて変化を受け容れず失敗を恐れてしまうか。まあ、歴史を学べばわかりますが、人間の本質は時代が新しくなるにつれ退化します。古代エジプトや古代ローマの時代、彼ら先人達の方がよっぽど賢かったはずです。」ええっ!?意外だなぁ。「そう捉えるのは今までになかった。でも健太の言っていること、わかるかも。便利で快適になると人間考える必要無くなるしね。」「そういうことです。陽介さんは結構熟考出来るタイプですね。これから変わろうと思えば変われますよ。」「お、おう。ありがとう。」また褒められた。にしても健太は歴史も好きなのか。高校以来だけど、歴史の教科書今度読み返してみようか。

俺達は受付に足を歩める。この時確信した。健太は単なる出来損ないフリーターじゃない。

健太は日々好奇心旺盛な努力家、エリートフリーターだ。挑戦し、変化を楽しんでいるのだ。時間に余裕のあるフリーターと異なり、むしろ健太は足りない位なのかもしれない。

彼の歩む背中は常にエネルギーという炎に満ち溢れていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る