第4話 走者伴奏

約束通り、地下出入り口で待つ。はずが。

健太はとっくに到着していた。白のジャンパーに黒のジャージだ。むしろ待たされたようだ。えー、まだ予定集合時刻より20分前なのに。

階段を登り終え出入り口にいる健太へ寄る。健太は後ろを振り向き俺を見る。

「こんにちは。来てくれたんですね。」「こんにちは。早速だけど一体どこに通うの?」

健太は右手を上に、左手を下に、人差し指を突き立て答える。「走って自らの苦難を乗り越えた先に、目的地は到着する。」

「えーー!?走るの!?どれ位?」「3㎞です。」即答。マジか。昨日見た健太のペースは熟練している証拠だ。「大丈夫ですよ。ゆっくり、陽介さんのペースに合わせます。」

「何だ。良かった。」「では、怪我しないように、まずは軽く駆け足で行きましょう。」

出入り口から駆け足で離れて側の広い公園に入る。俺がたまに昼休みでベンチに座っておにぎりを食べるスポットだ。

数分走って徐々に身体が暖かくなる。足の筋肉も固い岩から柔軟なゴムに変化してきた。

木々が風に揺れ、風物な音と涼しさが感じられる。

健太と並んで前を見ながら走る。少しずつキツくなってきたぞ?

「この公園一周回ったら、歩道に出ます。出たらそのまま目的地に向かいます。」

「わかった。はぁ。はぁ。ハァ。あと…キツくなってきた。」健太は俺を見て判断したのかペースを緩めて歩き始めた。「では、歩きましょうか。思ったより陽介さんの体力が衰えてますね。」図星だ。「まあ、ね。はぁ。はぁ。ハァ。ハァ。大学4年の就職活動入ってから、はぁ、3年は、はぁ、まともに運動しなかったら。はあ。勉強漬け、だったし。」視線が地面を見たまま歩く。全く、キツイ状態だ。健太は考えるように顔を右斜め上にずらす。「なるほど。具体的には何の勉強をしていたんですか?」「はぁ、具体的には、はぁ、ゲホッゲホッ、ハァ、はぁ、フゥー。働いてる時は宅健士やマンション管理士。大学生4年時はSPIやCABといった就活での適性検査もやっていた。あとは、日商簿記3級かな。単位はほとんど撮り終わっていたから前期の授業1つだけだった。」「おー。凄い熱心ですね。ましてや、働きながら国家資格である宅健士を勉強していたとは。」ゆっくりペースを更に落として歩く。

「まあ、宅健士だけは1回不合格でまだ取れてないんだけど。それに、大学時代の授業内容は高度で必死に勉強しかやって来なかったから、バイトも日給制のイベントスタッフを月一回だけだった。友達も少ないし高校は進学校じゃないから他とは習得ベースも遅れていたし…。とにかく、ただ成長したかった。」てか、めちゃくちゃ自分の話しちゃってる。健太なら、何か大丈夫だしいっか。「ふむ。結構苦労してましたね。本来楽しむ遊び溢れる大学生活をちゃんと勉強に費やすなんて、最高の親孝行ですよ。」意外にも褒められた。厳しいこと言われるかと身構えてたのだが。案外優しい?

「さて、公園抜けますよ。」「お、おう。」

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