第2話 情報の恐ろしさ
足早に健太の下を去り、俺は会社に到着する。
「ふー。変な奴のせいでギリギリ間に合った。」さて、やりますか。事務所のドアを抜けて今日も営業マンとして働く。業種は不動産だ。
昼休み。「おーい。陽介。」これは。課長からまた何か押し付けられるな。残業1時間確定だ。
「はい!」
席を立ち課長の机へ歩み寄る。課長も忙しいのか目にクマが入り机は書類やファイルだけギッシリ並べられている。
「悪い!今日も1つ追加で物件頼む!詳細はこれに書いてあるからよく目を通して現場に携わるんだぞ。」
ああ。やっぱり……。「わかりました。それにしても今月は一段と忙しいですね。」
「まあな…。昨年までのように、今までならごく普通の物件数を請け負っていたしなぁ。それが、今年に入ってウチ以外の他の不動産会社がメディアと一般市民によって潰されるとは。」
「ええ。」
背中を縦に伸ばしてゆっくり戻した後神妙な表情になる。「ほんと、酷だな。」
そう、昨年。日本中を一斉に風靡するニュースが突如浮かび上がったのだ。それは超大手の不動産会社が客に対する愚痴や社内のパワハラやセクハラ等の問題が多発しており、それを一部の社員があろうことか労働組合ではなくメディアに公表したのだ。驚きはした。俺も志望して2次面接まで突破した会社だったから。しかしこれは序章に過ぎない。その後大幅な労働組合による調査が入り対策が講じられた。これは良いことだ。だが、メディアはさらに魚を釣り上げてきた。そもそも不動産業界はブラックな印象だと目を付け、他の小さな不動産会社まで陰湿な週刊誌たちが洗いざらい調べ尽くした。よって、本来無問題な会社をいかにも悪徳足らしめんとする記事を次々に公表してきた。当然、ほとんどの不動産会社が裁判を起こした。裁判の結果は無事勝訴。当たり前だ。しかし、尚も一部の報道機関はめげずに偽誤情報を取り上げ続けた。
一粒に満たない極小の菌は徐々に増幅し始める。
次第に僅かな市民も誤情報に流されて信じ込むようになった。例え短い期間で連日同じ情報を流されると嫌でも疑いたくもなる。結果、清純な不動産会社が客から依頼されて上手く交渉し物件を確保できても、彼らは僅かな濁りに目を着けSNSに口酸っぱく述べる。気付くと、清純な会社から誰も依頼が来ないだとか。ネットの評価も低評価に汚染され再び功は取り戻せなくなる。つまり、ネットによって完璧の基準は高められてしまったのだ。特に不動産業界では。いや、他にもあると思うが。何とも理不尽な。もう少し柔和になればまた違う社会になるのだが…。
幸いにもウチの会社はまだ8年目と新しく、評価は変わらず。ただ、集中的に依頼が来るようになったのは面倒だけどありがたいような。働き者には複雑ではある。
健太はフリーターか。ちょっと羨ましいかな。
「よーし、午後もやるぞー!」
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