エリートフリーター 天と無に司る

辻田鷹斗

第1話 変人で心読み

朝、地下鉄の廊下を歩く。革靴で足を運ぶ。「ハァーー。今日も会社で働くのかぁーー。さっさと辞めて自由に寝てたいなー。」そう思いながら今日も歩く。俺の名は陽介。大学卒業して2年が経過したごく普通のサラリーマン。ある会社の営業マンとして日々働いている。正直言って面倒臭い。それも働くこと自体。俺は大学を卒業するまで何も夢がなかった。いや、夢を持てど挫折した。夢はユーチューブか漫画で大金を稼ぐこと。でも、叶うには余程の努力と運がいる。どっちも挑戦してみた。しかし、いざやってみるとつまらなくてすぐ断念した。やってみて理解した。こんなに面倒臭い作業を長時間こなさなきゃいけないのかと。ならばと、別の活動を試した。料理、小説、音楽製作、筋トレ、デザイン描き。しかしどれも継続できず、たったの1ヶ月で終了した。これなら働く方が楽なんじゃないかとすら感じた。趣味も特技もない。ただ金さえ稼げれば今はどうでも良い。しかし、その金を稼ぐ行為すら地道で面倒だ。無駄にストレスも掛かる。他人を助けることを目標にしてきたが、実際気遣うことも恥ずかしくて嫌いだ。勉強なんてまあまあ。資格は取得してない。ここまで来ると、「俺は何で生まれてきたんだろう?」と疑問になる。まぁ、いいや…。地下鉄の階段を一段ずつ登って地上へと出る。空は晴れていて周りはマンションだらけ。車はうるさい、人は多い。歩く人のほとんどが目にクマがあり眠たそうな顔をしている。表情は笑顔で、頑張る意思を持った人なんて滅多に見当たらない。ほんと、よく朝から仕事に向かえるなー。俺もだけど。こっから歩いて5分で会社に着く。さて、行くか。会社に向かおうと歩き出した時、丁度向かいの歩道に2人のスーツを着た30代ほどの男性が大きな声でなにらや揉めていた。ありゃりゃ。周りの歩行者は距離をとって見ながらすれ違う。すると、2人の揉め事に意に介さないかのように、白いシャツに黒のパンツをした1人の若い男が2人の間を割るかのごとく歩いていく。2人は驚き怒号が止む。間に入った若い男は突如何か言いながら、右手を天に指し、左手を地面に指す。言われた2人は何かに気づいたのか落ち着いてわだかまりを解きながら去っていく。なんだなんだ?気になった俺は信号が青で走り向かいの歩道にいる若い男へと向かう。男に近づき問いかける。「あの、大丈夫ですか?」クルッと振り向いて俺を見る。背は同じくらい、髪は黒のパーマ、顔も一目でイケメンだ。ただ、何か異質な雰囲気が漂う。男は俺に話しかけてきた。「大丈夫ですよ。」声低っ!男は続ける。「わざわざお気遣いありがとうございます。僕に興味を示してくれたのは貴方が初めてです。」うわっ。宗教?「そんな変な顔をしないで下さい。僕は宗教なんてやっていません。」えっ!「えっ!何でわかったんですか?」男は平然としたまま「顔にそう書いてますから。」と。もしかして?「もしや、心理学者か何かですか?」「いえ、フリーターです。」フリーター…。すると、男は突如右手を上に挙げ、左手は地面に下げる。どちらも人差し指だけ立てていた。男は言う。「お天道様が述べる。人は思い込みに左右される単純な生き物だと。」男は平然とした表情のまま。やばい。何かこの人変だ。宗教やってないなんて嘘だ。けど、何か引き込まれる。「ハァ。」「まあ、宗教なんてやってないなんて嘘だと思わなくても、大丈夫ですよ。無宗教です。」また読まれた。「また読まれた、と思いましたね。」えええっ!?「僕は相手の考えをどうゆう訳か読めるんです。おっと、自己紹介を忘れてました。天無健太。健太と読んで下さい。」相手の考えを読める。本当に?とにかく、俺も名前を言う。「陽介です。よろしくお願いします。」……。ん?無言?「陽介さん、僕より4つ年上。24歳ですね?敬語の必要はないです。」合ってる。たった数分話してるだけなのに。「じゃあ、健太さんは今20歳なんですね。その割には落ち着いているね。」「ええ。僕は…。」健太はまた右手を上に、左手を下にそれぞれ人指差しを立てて言う。「僕は天と無に司る者ですから。」……………………。やっぱ変人。「今、変人だと思いましたね。どうぞご自由に。」また読まれたよ。「と、とにかく会社に向かいますので、では。」「そうですか。お気をつけて。」俺はペコリと軽くお辞儀をして足早と健太のもとから去っていく。けど、また会うような、不思議な気持ちになる。

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エリートフリーター 天と無に司る 辻田鷹斗 @ryuto7ryu

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