第4話 頼まれ事を解決

 綺麗に整頓された広めの部屋に通された、部屋の中には性能が非常に良さそうなパソコンと充実した周辺機器が目に入る。

 

 ウェブカメラやヘッドセット、高性能そうなマイクもある。その机の周りにはハッピー・リレーの配信者のグッズや各種の流行のゲーム機も使いやすそうな位置に置いてあった。


 中でも目に入るのはバーチャル配信者の北川ミナミのグッズの多さだ、ハッピー・リレーという会社はキャラグッズ展開も多くやってるから、色んな種類のグッズがあるのだ。


「取りあえずこんにちは、北川さんって呼んで良い? 俺は灰川です」


「こんにちは…ど、どうも…」


 かなり怯えられてるが、年頃の女の子が初めて会う年上の男性に対する接し方としては普通の部類だ。


「北川さん今、大変なんだって? なんでも勝手に物が動くとか」


「……! そ、そうなんですっ…! 今日はどうにかして頂けるとのことで…っ」


 北川ミナミは今にも泣きそうな顔だ、相当参ってる。その後も灰川は幾つかの質問をして現状を聞き出した。


 昼夜を問わず壁を叩く音がしたりする、机に置いてた物が触って無いのに落ちたり、ドアが勝手に開いたりする、部屋が怖くてホテルに宿泊したが同じ現象が発生した。


 一人で生活してる身には結構な怖さがある現象だが、勘違いや気のせいという可能性もある。しかし灰川は北川から良くないモノの気配を確かに感じ取っていた。


「灰川さんなら楽勝で解決できるよねっ? だって霊能者だもんね」


 そう言ってきたのはエリスだ、自分を助けてくれた一件で灰川に対して信頼感を抱いてる。


「まあ、聞いた感じだといわゆるポルターガイストって感じだな、ちょっと原因が分からないけど」 


「原因ですか…分からないです」


 北川ミナミにも心当たりは無いらしく、ただ怖いという情報しか得られなかった。


 その後も会話を続けたり部屋を見て回ったりしたが何も見つからず、北川ミナミは初対面の灰川に心を開けてない事もあって、ただ無駄な時間が過ぎていった。




 時刻は夕方の6時になったが、特に進展もないまま何も起こらず中身の無い会話が続いただけ。


「あの…灰川さん、このお部屋に何か感じますか…? 幽霊なんでしょうか…?」


「何も感じないかなー、やっぱり気のせいなんじゃない?」


「っ…! そんな筈ないです! 何日も怖いことに悩まされてるんですっ…!」


 ミナミは出来る限りの強い口調で喋った。


「もう少し待ってみようか、女の子の家だから遅くまでは居られないけど、まだこの時間なら牛丼ちゃん、いやエリスちゃんも大丈夫でしょ?」


「もちろん良いよ、早く解決してまた一緒に配信したいしさー」


「ありがとう…エリスちゃん…。牛丼ちゃんって何ですか?」


「あー、外で三ツ橋エリスってバレたら騒ぎになる可能性もあったろうから、サブアカウントのハンドルネームで呼ぶことにしたんだよ」


「サブアカウントですか? なんで灰川さんがエリスちゃんのサブアカウントの名前を知ってるんですか? 秘密だって言ってたのに」


 ここに来て今までの経緯を詳しく話した、するとミナミは面白そうな話だと感じて食いついて来た。




「灰川さんも配信者なんですか!? 驚きました、霊能者さんの配信ってどういう感じなんでしょうか」


「配信では霊能者って表に出して無いよ、普段はゲーム実況とか雑談配信してる」


「じゃあ私やエリスちゃんと同じなんですねっ、こんな時だけどハッピー・リレー以外の配信者さんとお会いするの初めてなので、嬉しいです」


「ミナミやっと笑ったねっ! 少しは元気になったようだね~」


 ミナミにほがらかな笑顔が浮かぶ、やっと少し心を開いてくれたと灰川は感じた。


「灰川さんは……、あっ……」 


「えっ、なにこれ…っ」


「…………」


 3人が同時に何か・・を感じ取る…電気が付いてるのに部屋が暗くなったような、エアコンが作動してるのに寒くなったような、気味が悪くて不吉な感覚が部屋に突然に満ちた。


「2人とも静かに、そのまま座って動かないで」


「は…はい……っ」


「灰川さん、マジでよろしく……っ!」


 感覚を集中させる、部屋のそこかしこから不吉で嫌な気配がしてくる、その感覚には覚えがあった。


「これ何かの呪いだな、北川さん何かに呪われてるよ」


「えっ…?」


「うっそでしょ!? ミナミは誰かに恨まれるような子じゃないよ!?」


「それは俺も分かるんだけど、すげー悪意だよ。過去に誰かの恨みを買ったとか嫌われたとか心当たりは」


 話を続けようとした瞬間に寝室と思われる部屋のドアが勢いよく、バタンッ!と開く。それに続くようにキッチンの棚の食器がガチャガチャと動いたりしていた。極めつけは誰も入ってないトイレから水が流れる音までしてる。


「もう毎日こんな事になってるんです! お願いです灰川さんっ!助けて下さいっ!」


 エリスとミナミは半ばパニック状態だ、灰川にとってもここまで明確な心霊現象は久々だったが、灰川には幾つかの現象を見て何が北川ミナミを呪っている原因か見当がついた。


「ちょっと待ってて、今からやるお祓いはかなり個性的だから、あんまりドン引かないでくれるとありがたいかな」


「お祓いをしてくれるのっ!? 灰川さん早くしてー!」


 灰川はポケットの中からスマホを取り出し、動画サイトにアクセスして『お経』の動画を再生して音量をMAXに上げて流し始める。


「え…? 止まった?」


「ホントだっ」


 たったそれだけで数々の現象が収まった、動いていた物は止まり、トイレの水も止まっていた。


「はい、これで大丈夫」


「え、灰川さん? ホントにこれで良いのっ!? 呪いなんでしょっ?こんなんで本当に解決したの!?」


 エリスが騒ぎ立てるが灰川は至って冷静に説明し始める。


「Your-tubeに徳の高くて良いお坊さんが上手に読んでるお経があったから、遠慮なく使わせて貰ったよ」


「そうじゃなくて! そんなんで本当に解決したの!? 本当に!?」


「解決したよ、あの呪いは凄く程度が低かった、ネットを使えなかったエリスちゃんの時より簡単な要件だったよ」


 灰川から見れば今のスマホから流れたお経で、ミナミに掛けられた呪いは完全に散ってしまった。


 ポルターガイストなどは確かに怖いが本人に害が及ぶことは少ない、本気で呪ったけどこれが限度だったという事なのだろう。


「あれはミナミちゃんのアンチか妬んだ誰かが、間違った方法か無意識で掛けた下手な呪いだと思う、もし本格的な呪いだったらヤバイ事になってたかもしれないけど」


「アンチの人…ですか… 私が嫌われるような事を言ったのでしょうか…」


「それは分からないけど、あんまり気にするような事じゃないって、無意識に誰かが飛ばしたモノかもしれないし」


 気にしたってしょうがない事だと説得する、ミナミの配信は優しい感じの柔らかな雰囲気が好評な配信だが、そういった物を好まない人間だって居るし、一方的にライバル視してる者の仕業とも考えられる。


「灰川さん…あの…、これで本当に終わったんでしょうか…? 私のイメージとしてはお祓いとか除霊って、祭壇とか呪文とか色々と」


「それについても少し説明するよ、簡単に言うと世の中が変わって行くように、霊能力の界隈も変わっていってるんだ」


 昔と今では世の中は全く違う、今ではスマートフォンやパソコンが広く普及して誰しもが使ってる。30年くらい前までは誰も考えもしない世の中だったらしい。


 今では火を使わずIHヒーターで料理をして、車はEV車で電気で走るのも多い、昔から縁起が良いとされ誰しも嗜んでいた煙草たばこは今は世の中の害悪みたく言われてる。

 

「お祓いと言えば古めかしい格好した神職とかお坊さんが、色々と用意して大声はり上げながらやるってイメージがあるけど、それは昔の心霊番組とか映画の影響が大きいんだよ」 


「そうなんですか…なんか意外です…」 


「そもそも今のお坊さんとかは神仏を本当に信じてる人が少ないように思えるよ、普通に結婚して子供を作り、肉も魚も食べて、檀家から戒名代とかで金をむしり取って高級車でキャバクラに行ったりする奴まで居る、そんな奴のお経とか何の意味もないって」


「灰川さんの個人的な恨みが入ってない!?」


 これらの事は宗派や教義によって違いはある、他力の仏教とか自力の仏教とか色々あるが、徳の無い神仏職が多いのは本当だ。


 宗教も時代とともに変わる、霊やオカルトに関わる事も例外ではない。


「今はインターネットが仏門神道にも活用される時代だよ。ネット葬式にリモートお祓い、除霊できる水なんてのも売ってる。効果は知らないけど」


 時代は変わった、一昔前はVtuberなんてものは無かったが、たった数年で普通のものになってしまった。


 オカルトの世界だって変わる、昔は考えられなかったインターネットや電子機器を使った宗教的なことも増えてる。


「言われてみれば、そうかも…でも何か納得いかないかも」


「現にネットのお経で怪現象は止まっただろ? 前にも言ったけど難しく考え過ぎなんだよ、どうせ解明されて無いんだから色々と試すしか無いんだって」


 説明しても理解が得られない事は灰川自身が分かってる、植え付けられた観念は簡単には変わらない。


「普通のお祓いが出来ない訳じゃないけど、今回は必要なかったってだけ」


「そうなんだ、まあ…そうしとこう!」


 かなりいい加減な説明だが、何故か今の説明で大変に感銘を受けた人物が居るようだった。


「す、すごいですっ! 灰川さんっ、本当に凄い方だったんですねっ!」


 「「え?」」


 静かに聞いてると思ってた北川ミナミが吠えた、灰川を絶賛しながら感動の涙を流しそうになってる。

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