第14話『トラウマ再臨ゲーム』
耳障りな学校のチャイムの音で僕は目を覚ました。
「ん……?ここ……学校……?」
僕は目を覚ました場所は、僕が通っている高校の体育館だ。
「あれ……僕……何してたんだっけ……?」
僕の記憶が確かなものなのであれば、椛木乃の家のソファーの上で、いつもより快適に眠りについていたハズだ。
学校……しかも、体育館で眠った記憶はないが……。
「どっちが夢だったんだ……?」
最近、現実と現実の”ような”夢の世界の行ったり来たりを繰り返しているせいで、何が現実の出来事で、何が非現実の出来事なのか分からなくなりつつある。
実際、体育館で寝ていることも、椛木乃の家に泊まったことも、夢と言われれば夢だし、現実と言われれば現実でもありえそうなことだ。
「こっちが夢ですよ」
後ろの方から僕のぼやきに対する答えが聞こえてきて、僕は振り返る。
だが、誰もいない。
「えーっと……リンさん……?どこにいるんですか?」
「体育倉庫の中にいまーす」
リンさんが元気よく返事をするのと同時に、体育倉庫の扉がドンドンと音を立てて揺れる。
おそらく、リンさんが扉を叩いてアピールしているのだろう。
「また何でそんなところに……」
やっぱり、リンさんのことはよく分からない。
とりあえず僕は立ち上がると、体育倉庫の入り口前まで移動する。
「おはようございます、○○くん」
僕の気配を感じ取ったのか、リンさんが扉越しから話しかけてくる。
「おはようございます、リンさん。今日は体育館なんですね」
「そうですね。私が連れてきちゃいました。嫌なところからのお目覚めになってしまい、すみません」
「本当ですよ……」
夢の中でまで学校なんかに来たくない。
ましてや体育館だなんて、僕の苦手な球技か無駄に長い集会のイメージしかなくて最悪だ。
「まあまあ……私と一緒ということに免じて許してください」
「別にリンさんと一緒なことは、僕の心内加点の対象にはなりませんよ」
「またまた~、照れちゃって~。もっと素直になっていいんですよ?」
「全く照れてないんですけど……まあ、いいや」
これ以上の問答を繰り返したところで、リンさんにウザい絡み方をされるだけだ。
「で……いろいろと聞きたいことがあるんですけど……」
「特別に三個までだったら許してあげましょう」
「僕が聞きたいことは二つなので、別に大丈夫です」
変な制約をされたところで、特に困るようなことはない。
「えっと……まずは、何で僕のことを体育館なんかに呼んだんですか?」
「……もう一つの聞きたいことは何ですか?」
「もう一つは……何で体育倉庫にいるのか聞きたかったんです」
体育倉庫の扉の外付けの鍵は開いているので、別に閉じ込められているとかそういうことではなさそうだが……。
「○○くん……私も、一つだけ聞いてもいいですか?」
「何ですか……?」
「○○くんは、ゲームは好きですか?」
「ゲームは……そんなにやらないですけど、別に嫌いではないです」
「それならよかったです。私的に」
「はあ……」
それが僕の質問とどう関係があるのだろうか……。
「では、○○くん。私とゲームしませんか?」
「どんなゲームかによりますけど……」
「○○くんと千景ちゃんのこの先の人生を左右するようなゲームです」
「僕と……椛木乃の人生を……左右……?」
「はい!名付けて……『トラウマ再臨ゲーム』です!」
リンさんは元気よく地獄のようなゲーム名を付ける。
「トラウマ再臨ゲーム……?」
「はい!○○くんには確か……心に深い深い傷がありましたよね?”初恋”という名の」
僕の心臓が一瞬だけ、きゅっとなってしまう。
それと同時に……心の奥底に謎のモヤモヤとした違和感が生まれ始める。
リンさんと会った回数こそ少ないものの、僕は知っている。
リンさんはこんなようなことを言うような人ではない。
「あの……リンさん。ここ、開けてもいいですか?」
「何でですか?」
「ちょっと……リンさんの顔が見たくなっちゃって」
「なるほど……試すだけ試してみてもいいですよ」
僕は体育倉庫の扉に手をかけ、開けようとする。
……だが、びくともしない。
しかも、手に伝わってくる感覚的に、扉の不具合的なものではなく、内側からの人為的な圧力によって動かなくなっているのだ。
おそらく、リンさんが中から扉を押さえているのだろう。
「どうです~?開きそうですか~?」
「無理そうですね」
とりあえず諦めよう。
不毛だ。
「で……○○くんには”初恋”にトラウマがありますよね?」
「まあ……はい」
「そのトラウマを繰り返したくないという一心で、○○くんは千景ちゃんの”お願い”を聞いたんですよね?」
「そうなりますね」
「だからこそ、○○くんが本当に千景ちゃんを守ることが出来るのか試したくなっちゃいまして!ちょうど、千景ちゃんにもトラウマがあるみたいですし!」
扉の向こうの人物の楽しそうな声に反して、僕の心の中はどんどんと不愉快に染まっていく。
やっぱり、扉の向こうにいるのはリンさんなんかじゃない。
「ということで、このゲーム……やりますか?やりませんか?」
「『やらない』って選択肢を取ったら……椛木乃に何かをするってことですか?」
「私から何か直接手を下す……ということはありませんけど……とりあえず、千景ちゃんの人生は終わっちゃいますね」
そんなことを言われたら、こんなクソみたいなゲームでさえも断ることなんて出来るワケがない。
「やっぱり、○○くんは流石ですね!」
扉の向こうで、パチパチと手を叩く音が聞こえてくる。
「じゃあ……ルールの説明でーす!」
「チッ」
扉の向こうの人物の心底楽しそうな声に、思わず舌打ちをしてしまう。
「まずルールなんですが……○○くんが千景ちゃんを守れたら、○○くんの勝ち!守れなかったら私の勝ち!というシンプルなものです!」
「何から守ればいいんですか?」
「それを伝えてしまっては、ゲームとして成り立たなくなってしまうでしょう」
だんだんと腹が立ってきた。
「あ、でも……○○くんのさっきの質問に答えるのも兼ねて、ヒントを上げようかなぁ~って思ってるんですけど……欲しいですか?」
「出来ることなら欲しいですね」
「おお!やっぱり千景ちゃんのことになると、本気になるんですね~!」
「そういうのいいんで、早く教えてください」
出来るだけ平静を保ったまま受け応える。
とっくに限界には到達していたが、ここでキレたら相手をさらに愉快にさせるだけだ。
「私がいる場所はどこでしょ~か?」
「体育倉庫じゃないんですか?」
「ぶっぶ~!ちょっと違いま~す!正解は、○○くんが通っている高校の体育倉庫でした!」
「それが何だっていうんですか?」
「そんなに怒らないでください。これがヒントなんですから」
「これが……ヒント……?」
意味が分からない。
「はい!『○○くんの通っている高校の体育倉庫』これがヒントです!なので、しっかりと覚えておいてくださいね」
突然、体育倉庫の扉が勢いよく音を立てて開く。
体育倉庫にいたのは――……。
僕の頭が出来事を理解するよりも早く、僕の視界が真っ暗になる。
「まあ……覚えてられるならだけどね……」
その言葉を最後に、僕の夢は終わりを告げた。
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