箱推しアイドル

さくらみお

第1話


 ジョンには推しているアイドルグループがある。

 勇者アイドルの『キル☆ドル』だ。


 彼女らは剣士・僧侶・魔法使いの三人娘で、現役勇者でありながら、アイドルもこなすというマルチな存在だった。


 最初は剣士の活発ドジなアイちゃんに一目惚れして『キル☆ドル』推しになったのだが、甘えん坊の僧侶のライちゃんとのいじり合いを見るのも好きになり、セットでライちゃんも大好きに。


 更に二人のお姉ちゃん的存在でクールだけど二人を愛する気持ちは誰よりも強いというギャップ萌えのレイちゃんも目で追い始め、ジョンは気が付いたのだ。


 彼女らは全員神だと。


 そう、ジョンは『キル☆ドル』の箱推しになっていた。

(箱推しとは、そのグループ全体を推すことである)


 ジョンの部屋は『キル☆ドル』で溢れ、ライブがあればどこへでも追っかけるし、握手会も欠かさない。


 あまりに常連過ぎて、前回の握手会にアイちゃんに「あ、いつも来てくれるお兄ちゃん! いつもありがとー!!」と握手してもらい、ジョンは数分固まった。


 アイドルに己の存在を覚えて貰った!


 これ以上に素晴らしい事があるだろうか。


 ジョンの努力がついに実った至福の瞬間だった。








 さて。

 そんなジョンだが。

 現在、とても困ったことがあった。



 実は先日。

『キル☆ドル』が当面の活動休止を報告した。


「しばらく、アイドルをお休みして勇者活動をがんばります!」とアイちゃん。


「次に会えるのは、魔王を倒した後だね!」とライちゃん。


「絶対に魔王を倒して、みんなの元に帰って来るからねー!」とレイちゃん。




 神が突然活動を休止した。


 ジョンの世界が終わった瞬間だった。



 ジョンは落ち込んだ。

 魔王を倒すために活動休止。


 事実上、ジョンがと宣言されたのと同様だった。




 何故ならば。


「魔王! 今日こそは息の根を止めてやる!」

「隠れてないで出てこーい!!」



『キル☆ドル』グッズに溢れたジョンの隠し部屋で、魔王のジョンは泣いた。


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箱推しアイドル さくらみお @Yukimidaihuku

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