あれ、これってシリアスな話だった!?

 友達の家で迎える朝、友達の家で食べる朝ごはん、そして全く同じタイミングで家を出る友達……初めての事尽くしで私はずっとわくわくしていた。


 そして駆け足で学校に向かう。


「待ってよ詩音ー!」


 後ろから追いかける友達を笑い、私は前も見ないで走っていた。


 そのせいで、なにかにぶつかってしまった。


「あ、ごめんなさい!」


 咄嗟に謝って顔を上げた途端——


 私は、現実に引き戻された。


「詩音、その人は?」

「あ、え、えと」

「昨日は妹がごめんねー?」

「ああお姉さんか!」


 その人は私の頭に掌を置きながら満面の笑顔で喋る。


「うるさい妹だったでしょう?」

「そんなことないよ? 私たち仲良しだもんに!」


 私は、「う、うん」と引き攣るように答えた。


「実は忘れ物届けに来たの。もうすぐ時間でしょ? 先に行っていいわよ。ちょっと時間かかるから」

「えーでも一緒に行きたーい」


 嬉しい返答。でもそれはできない。

 お姉ちゃんを前にしたらもう、ダメだ。


「ごめんね」


 姉の優し気な声。友達は残念そうに、私の横を通っていった。


「詩音」

「な、なに」

「私ね、魔法少女が嫌いなの」

「知ってるよ……それが、なに?」

「魔法少女が好きな人も嫌い。それが身近にいるとなると、私も気が狂いそうになる」


 私は、姉の手を放した。


「なんでそんな酷い事言うの!? あの子たちがお姉ちゃんに、悪いことした?」


 お姉ちゃんは無表情のまま返す。


「そうね、彼女たちはいつも正しい。とても綺麗で、眩しくて……」

「ど……どうせ、嫉妬なんでしょ!? 自分は目立ったことできないから、そうやって悪口言うことしかできないんだ!」


 初めて、姉に反抗した。

 けどその人は、怒りもせずに笑ったのだ。


「嫉妬じゃないわ? 敵意よ」

「……どういうこと?」

「私は彼女たちを、倒すべき対象として見ているのよ。あれらは私たち、『害ある者』にとっての害。敵を排除するのは当然でしょう?」


 言っていることがよくわからない。でも、本物の悪役のような話し方で、私は悪寒がした。


「——私の配下を、あいつらも散々殺したようにね」


—————————————————————————————————————


「身体いてぇー」


 連日の戦闘でか身体の節々が痛い。用務員室で朝のニュースを眺めていると幽霊がつついてくる。


「魔法少女、そこまで悪くないでしょー」

「あ? なんだよいきなり」

「きゅふふ。パープルはやっぱり、魔法少女になってるときが一番輝いてると思うんだー」

「何を根拠に」

「アラサー手前できゃぴってる辺りが」

「お前、俺が朝だと機嫌悪いの知ってて言ってるだろ」

「きゅふふー!」


 笑ってぷかぷかと舞うピンク。

 すると同時に、


「きゃあああーーーーーー!」

と、生徒たちの叫び声が聞こえた。


「なんだ!?」


 俺は立ち上がり、窓の外を見る。

 するとそこには、


 呆気に取られているとピンクも真横で、同じく舞い上がる砂埃のグラウンドを眺める。


「まさか、もう?」


 奴は、そう呟いた。


「今なんて言った? お前何か知ってるのか!?」


 ピンクは窓を透り抜けて真っすぐに蜂怪人の元へと進んでいった。

 俺の予想が正しければ、あれが女王蜂……!


 窓から飛び降りてその場に着いた頃には、ピンクはソレと何か言葉を交わしていたようだった。しかしどう見ても失敗したようで、蜂の腕振りに吹き飛ばされた。


「ピンク!」


 幽霊だがガッツリ物理攻撃を受けている。校舎の壁にめりこんだピンクの元に駆け寄るとすぐさま

「転身してパープル!」

と叫ばれた。


 辺りを見渡す。まだ逃げ遅れた生徒が見える。ここで転身するのはまずい。


「早く!」


 ピンクの顔はいつにも無く必死だ。どう見ても俺の転身バレを期待した顔ではない。そうして俺はピンクを抱えて近くの柱の裏側まで走ったのだった。


『魔法転身、ミーラミラマジクール!』


 名乗りをあげている暇はない。紫の魔法少女と為った俺は全速で蜂の元へ向かった。


「お前が女王だな!」

「アラ、ヤッパリコンカイのはキガツヨイのね?」


 人の言葉を真似るような声。

 俺はすかさず光弾を放つも奴はすぐに姿を消した。

 いや、既に俺の後ろへと移動していたのだった。


「コロシガイがアル」


「やばっ————」


 頭の上から凄まじい衝撃……相手は針状の剣を殴りつけていた。

 転がり、光弾の出力と数を増やして放つもびくともしないようだった。

 女王は光弾の一つ一つを瞬間的にかわしてみせ、懐まで潜り込む。


「バリアッ、「デハ蹴り下ス!」」


 咄嗟の防御壁は力に押されて吹きとばされる。全身に土の汚れを浴びるように長い距離を転がされた。


「つっよい。ピンク、生きてるか!?」

「生きてるよー! あれ、中ボスくらいだから気を付けて!」

「だと思った! 何か大技は!?」


 するとピンクは俺の頭を鷲掴みにした。途端に多くの呪文が脳に流れ込んでくる。


「これをそのまま使って! 反動きっついけど我慢! ここで倒しきるよ!」

「任せろ!」


 俺はステッキを突き出す。持ち手を、ピンクも掴む。

 俺とピンク、二人分の魔力が流れ込んでくる。


『愛と!』『勇気を!』

『マジで合体☆』


 恥とかそんなものは気にしてられない!

 膨れ上がる魔力の塊に全てを込める!


『パープル奥義! アサガオニオンふるぱわー!』


 息を合わせて放射する!

 蜂は顔を上げ、口を開く。何かしてくる?

 いや、あれは……。


 向かい来る自分自身の結末に、逃げきれていないだけだ。


「は……? おい、どういうことだよ」


 かくして蜂は倒れた。だが、その正体は。


 俺は走った。グラウンドの中心で息も無いように倒れたを、嘘だと信じて向かった。


「おい!……そんな、まさか」


 起き上がらせる。少女の、その顔は、どう見ても……


「詩音ちゃん——」


—————————————————————————————————————


「……蜂め。生き急いじゃって」


 少女は、少女の背後から空中へと飛んでいく蜂の影を見逃さなかった。







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毎日投稿すると思うなよ(深夜2時)

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