第3話 調査開始

 フェアリー団団長、最年長メンバーの一人である、清原きよはらあきらに一言断ったアーベルは、自分の弟子たちを連れ、行方不明者が出た知り合いの家へと出かけた。

 警戒されないようにヴィリアミはアーベルの弟と偽り、「支援」という形で家族の話を聞いた。一つ目の家庭は父親が消えたものだった。子供たちは母親の疲れた顔も気にせずに、家の中を走り回っていた。


「その日彼は何をしていたのですか?」


 ワンオペをしていた影響で、溜まってしまった皿を洗いながら、アーベルは尋ねる。


「彼は普通に仕事に出かけたわ……。夜の八時くらいにその後帰ってきて、それから店に行って足りない食料を買いに行ったの。途中で知り合いに会ったのでそのまま飲みに行くって言ったのだけど……。結局帰ってこなかった……」


 アーベルは彼女の言葉を聞き、眉を上げた。あまりいい旦那ではなかったのではないかとでも言いたげな表情だったが、それを察した妻は慌てて弁解した。


「パスカルはちゃんと責任のあるいい夫よ! 私たちってペストだから普段遊びにいくとかできないの。うちの夫にとって友達と飲みに行くことが唯一の楽しみだったのよ……」


「なるほどねぇ……。で、一緒にいた友達は? どうしたんだ?」


「それが……なんか変なのよ」


 彼女は手を頬に当てた。


「彼の友達とはだいたい私も認識があるのだけれど、全員があの日は飲みに行っていないって言うのよ。でも夫が『知り合い』っていうんだから、結構長い間知っている人じゃないとあり得ないわ。本当は……警察に相談したくて仕方がないのだけど、もし私たちがペストだってわかってしまったらおしまいだから……何もできないわ……」


「へえ」


 確かにそれは不審な点だ。どういうことなのだろうと頭を動かして考えていたアーベルの横で、ヴィリアミは子供たちと取っ組み合いをしていた。

 そのとき、突然家のベルがなる。


「はぁい」


 パタパタと奥さんは駆け出し、ドアを開ける。すると、そこには荷物を持った初老の配達員がいた。表情は柔らかく、にこにこしている。


「こんにちは、奥さん。お元気ですか? こちら荷物です」


「ええ、こっちは大丈夫よ。ありがとう」


 妻はふわりと笑う。


「旦那さんはまだ……見つかっていませんか……?」


「……ええ、そうなの」


 心配そうに尋ねた彼に、妻は俯いて悲しそうに答えた。


「そうですか……、早く見つかるといいですね……」


 配達員も目を伏せて、彼女を労う。


 その様子をヴィルはじっと、奥から見ていた。


「あいつ誰?」


「オヴァートンさん。この地域を担当する配達員だよ」


 ヴィルの問いに、子供の一人が答えた。


「半年くらい前からここに配達してる。たまにお菓子くれるんだ」


「ふーん、じゃあいい人なのか」


 ヴィルが言うが、別の子供が首を振る。


「俺、あいつ嫌い。なんか気味悪いんだもん」


「ふーん、なんでそう思うの?」


「やけに家のこと聞いてくるもん。キモい……」


「ほう……」


 興味深い、と思ったヴィリアミは、家の奥に引っ込む。緑色の目が鮮やかなものに変わり、彼はぶつぶつと呟く。


「大地・生の繋がりyhteys organismien välillä


 ヴィリアミが呼び出したのはゴキブリだった。大地能力者は虫、鳥類、哺乳類と意思をかわすことができる。鳥類、哺乳類を呼び出すときは「血の繋がり」という技を使うが、虫のときは「生の繋がり」というものを使用する。


「あの宅配業者を追跡できるか。どの家に行くか見て教えてくれ。……あ? 視力はあまりよくない? 嗅覚があるだろう。それを使え。褒美には角砂糖をやる」


 虫は喜び、ドアの隙間を通って、去っていく男のあとを追った。




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