第2話 ペスト失踪事件

 フェアリー団は存在してはいけない能力者たちが、民間ペストハンターを雇えないほどケチ……ではなく寛容な不動産会社の社長に雇われてできた警備組織だ。団の拠点はニューヨークに位置し、その不動産会社のマンションを守っている。

 

 この大都市には安全保障隊というペストを殺す専門的な軍の本部があるのにも関わらず、いろいろな能力者が点々とと暮らしている。フェアリー団はそのような人たちとも仲間同士だからか、関わることが多かった。

 だが、アーベルはここ最近、彼らの中で行方不明者が多いことに気がついていた。


「なあ、最近あいつを見なかったか」

「前までは店で元気に働いていたんだけどなぁ……」

「旦那が戻ってこないの……、子供たちはお腹空かせているし……」

「いやあ、それが一か月くらい前から見なくなって」

「娘を知りませんか? 全然帰ってこなくて……」


 能力者に会うたびにぽつぽつと不安が漏れてくる。その内容のどれもが「誰かが消えた」というものばかりだ。


「別に驚くことじゃないだろ。この大国アメリカで、一体年何人の人が消えているというんだよ」


「そうだけどね、ヴィル。でもやっぱり、火、水、風、闇と大地のうちいずれという強い能力を持っているペストが、次々と消えるなんてやっぱりおかしいと思うんだよ。相当手馴れている奴だとしか思えない」


「安全保障隊じゃないの?」


 真莉は眉を上げて尋ねる。母親を彼らに殺された彼女からすれば、彼らは決してあなどれない存在であった。


「いいや、奴らだとしたら必ず集団で攻撃するから、もっとどんちゃん騒ぎになっているはずだ。こんなひっそりと姿を消すなんて、なんだか気味が悪い」


「じゃあなに? ペストがペストを襲っているっていうの?」


 少女は疑わし気に言う。確かにペストの中に自分の力に溺れ、力を自由気ままに使う者もいて、そういう奴らが他のペストを襲うこともあるが……。


「さあ……、だけど何も決定的なことが言えないのは確かだね」


「アーベルはそれを調査しようとしているの?」


「実はもう昨日から始めているんだ。でも手がかりが全然見つからなくてさ」


 そう言って、青年はため息をつく。


「そりゃあ昨日からならまだ見つからないだろ」


 ヴィリアミは皮肉った。


「それに師匠みたいな人があちこち動きまわっていたら、絶対皆警戒するよ」


 真莉が続けて言う。


「そうかなぁ……」


「身長高いじゃん」


 アメリカの男性の平均身長は171cm。アーベルは178cmとそれをはるかに上回っている。それに底知れない彼の笑みと、すらっとした体系は信頼よりも不信感をあおるだろう。


「ヨーロッパではそれが平均なんだけどね」


「はいはい、高身長アピールはもういいですー」


 未だ身長が170を超えていないヴィリアミは、コンプレックスに思っている話題にうんざりしたようだった。


「ま、とにかく、今のところ調査は進んでないってことでしょ? それ、私たちが協力してあげようか?」


 そこで少女がにたにたしながら提案した。アーベルは言わんこっちゃないといった調子で彼女に告げる。


「ダ・メ・だ」


「なんで」


「危ないだろう。君たちはまだ14だぞ。万が一君たちが巻き込まれてしまったらどうすればいいいんだ」


「大丈夫だよ、師匠。俺たちには大地能力がある。なんかあっても動物で知らせてやるよ」


「あんまり調子に乗っちゃダメだよ、ヴィル」


 アーベルは眉を下げてたしなめるものの、本人も一人ではどうにもならないことはわかっていた。それに早く犯人を仕留めなければ、魔の手はフェアリー団にも伸びてくるかもしれない。


「……やるか。僕たちで調査」


「うぉしっ! さすが師匠! 判断が早いっすね!」


「それは果たして褒める気持ちから言っているのかな」


 青年がツッコミをいれた後、真莉が口を開く。


「他の人たちも呼んだほうがいい?」


「いや、こういう調査は目立たないように少人数でやったほうがいいんだ。プラス、僕たちは生命力の強い大地のペストだからね。なにかあってもそう簡単には死にやしないよ。もちろん、団長のあきらには逐一情報を伝えるけど」


 そう言ってアーベルは立ち上がった。

 ザ・ビッグ・アップルニューヨーク市は依然とビルの光できらきらと輝きながらも、深い底の見えない闇がその間に垣間見えていた。


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