2,時間

トントントントントントン。


兄の趣味は、DIY。

所謂いわゆる、日曜大工だった。


私と遊ぶとき以外、いつも家の庭で

何かしらモノを作り、

私や両親を驚かせていた。


今思えば、あのクルーボックスも、

兄の作品の一つだったのだろう。


『何作っているの?』


『タイムカプセル、

 この前やってみたいって言っていたろ?』


『うん』


空気の読めない幼少期の私は、

こうして兄の作業の邪魔をする

嫌な子だった。


『私、ケーキ屋さんになる!』


『どうした急に?』


注意をく事を私が言えば、

兄は、私にかまってくれる。

自分が頼んだ事なのに、

私は兄の作業を邪魔をする。


『お兄ちゃん、カッコいい大人は

 努力する人って言ったよね?』


『そうだね』


『努力には、“目標”が必要だね♪って、 

 ケーキ屋のおばあちゃんが言ってたの』


『成程ね、そう言う事か―――

 でも、何でケーキ屋さん?』


『それはね―――』


二〇一〇年十一月六日 午後十時九分

自宅 兄の部屋―――。


兄が失踪してから、私はこの部屋に

しばらく入りびたっていた。


だけど、時間が経過するに連れ、

定期的に掃除機をかける以外、

この部屋に入る事は、次第に減っていった。


では何故、私が兄の部屋にいるのか?

それは、 箱に入っていた一枚の紙の中身が、

以下の通りだからである。


~・~・~・~・~・~・~・~


よく、謎が解けたね、偉い!

あ、ヒントは、聞いたかな?


もし、聞いたとしても良いよ。

何故ならば、分からない事を

『分からない』と言える事も、

かっこいい大人への大一歩。


次の箱は、俺の部屋に

ある机の引き出しにある。

頑張って―――。


~・~・~・~・~・~・~・~


私は手紙の書いてある通りに、

兄の部屋にある机に向かった。

机には、3つの引き出しがあり、

一番上の部分に、鍵穴があった。


私は箱の中身に入っていた、

小さな鍵を右手に持ち、鍵穴に挿入する。


―――カチャ


鍵が開く音が聞こえ、引き出しを引っ張ると、

最初と同じ形状の箱が一つ。

だが、手に持った時点で、最初の箱とは

明らかに違うのが分かった。何故ならば―――。


「ひらがな?」


次の箱は、ルービックキューブのように、

一面が9つずつ分割されていた。

その一つ一つに、 ひらがなが

一文字ずつ50音順で刻まれている。


いや、正確に言えば、一面だけ、

4つ箇所がボタンになっていない。

つまり、ひらがな50文字と、

余りが4つ。54の枠で構成された箱だった。


そして、ボタンでない部分には、

「お名前は?」っと、 刻まれていた。


「クス、順番逆でしょ?」


明らかに、最初の箱の方が難しい。

でも、あれが解けたのは、

あの黒スーツの人のお陰―――。

いつかまた会った時、お礼を言わないと―――。


カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ

ポーン。


―――ガチャ


「開いた!」


私は、箱の中身を確認する為、

恐る恐る、箱を開ける。

恐る恐るの必要性?もしかしたら、

また鍵が入っていたら、落ちちゃう。


しかし、私の予想は、外れた。

中身は紙が一枚のみだった。


~・~・~・~・~・~・~・~


2つ目の箱を開けられたみたいだね。

凄いぞ!でも、今回は簡単過ぎたか?

でも、次はどうかな?


次の目的地は、二人が好きなあのお店。

店長さんに「例の箱」っと、

言えば出してくれるよ、頑張れ!


~・~・~・~・~・~・~・~


「二人が好きなあのお店?それって―――あれ?」


どの店かと悩むと同時に、

箱の中身の奥に、何か書いてある事に気付く私。


「G、O、D?」


二〇一〇年十一月七日 午前九時十六分

ケーキ屋「Dreamドリーム storyストーリー」―――。



私と兄の共通点。

それは、“甘いお菓子”に目がなかった。

特に、このお店は週末には必ず二人で、

通ったお店だった。


「あら、いらっしゃい」


お店に入店すると、店長のおばあちゃんが、

明るい笑顔で出迎えてくれた。


「いつものでいい?」


「はい。あ、あと―――」


「ん?」


「例の箱―――ありますか?」


そう伝えると、おばあちゃんは、

ホッとした表情を浮かべ、

「お待ち下さい」っと、 応対し、

店の奥に消えて行った。


暫く、待っていると、

いつものショートケーキ3つと、

“例の箱”を持ってきてくれた。


「よかったわ、この箱を渡せて」


「どうしてですか?」


「実はね―――」


~・~・~・~・~・~・~・~


「閉店―――か」


ケーキ屋の帰り道、私は寂しそうに呟いた。

店長のおばあちゃんは、御年80歳。

体がいう事をきかない事が多くなり、

今年一杯で、閉店する予定との事。


お店には未練はないが、

この箱を私に渡せていない事だけ

気になっていたらしく―――。


今日渡せて良かったと、

胸をなで下ろしていた。


「いつまでも、同じって訳にはいかないよね」


そんな事、分かっていた。

ただ、それでも悲しさや切なさが、

込み上げてきて、自然と目頭が熱くなってきた。


「いけない、いけない」


服で目を擦りながら、

気を紛らわせる為、3つ目の箱を確認する。


前回と基本的に同じく、

五十音が刻まれているのだが、

今回は“カタカナ”。

それと51番目に「―」が追加されていた。


そして、ボタンではない箇所には

「夢は?」っと、 刻まれていた。


「やめてよ、何でこのタイミング?」


カチ―――カチ―――カチ―――。

カチ―――カチ―――カチ―――。


ポーン。


―――ガチャ


箱は開いた。開いたのだが、

私は中身を見る気になれなかった。

何故ならば、私の両目には大粒の涙が、

こぼれ落ちていたからだ。


二〇一〇年十一月七日 午後九時十六分

自宅 私の2階の部屋―――。



泣き疲れて寝てしまった。

因みに、私の手元には既に4つ目の箱があった。

何故なら、次の場所は自宅の庭にあったのだが、

それよりも―――。


「トイレ」


寝ぼけ眼で、私はゆっくりと階段を下りていく。

トイレを済ませ、自室へ戻る道中、

両親の声が、リビングから自然と聞こえてきた。


「そろそろ、あの話。

 言ってもいいんじゃないか?」


「でも、あなた。あの子。

 受け入れる事が出来るのかしら?」


「それは―――信じてあげないと」


「けど―――」


何やら、深刻な内容のようだ。

取り合えず、聞かない振りをば―――。

私は、気付かれないように、

ゆっくりと横切ろうとすると―――。


のぞむがあの子の為に、亡くなった事を

 どう伝えれば―――」


「えっ?」

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