6Ⅰ9〜6つ目の箱~ep0
笹丸一騎
1,最後のプレゼント
私には、敬愛する兄が居た。
私と年が15も離れているのに、
時間が空いた時には、
いつも私と遊んでくれた兄。
『そうだ!諦めるな!』
自転車に乗る練習の時も、兄は一日中、
私の背中をずっと見続け、
私が1人で乗れるまで付き合ってくれた。
『嘘ですよね―――先生』
母がそう言ったのは、私が8歳の時だった。
いつものように、私は朝起きると、
頭痛と吐き気が、治まらなかった。
その後、学校には行かず母と病院に向かい、
精密検査を受ける事になる。
その結果―――。
『診断の結果、急性リンパ性白血病です』
医師の言葉に、母は泣いていた事を覚えている。
それからの私は、
ベットの上だけの生活が始まった。
好きな外にも行けず、寂しい日々が続く中、
兄が遊んでくれる時間だけが、私の救いだった。
『ねぇ、その白いジャケット。
私が大きくなったらちょうだい』
『これを?別にいいけど―――何で?』
『だって、お兄ちゃんのように、
かっこいい大人になれそうだから―――』
『ん―――大人ねぇ』
兄は優秀で、悩んでいるところを
見た事がない。
そんな兄が珍しく、考え込んでいる。
『いいかい、大人は年を取れば、
誰だってなれる。でも、かっこいい人は、
簡単にはなれない』
『じゃあ、どうすればいいの?』
『努力を
友達に思いやりを持って接する事が
出来れば、なれる!―――多分』
『多分?』
『俺もまだ、なれていない』
『お兄ちゃんは、かっこいい大人よ』
『はは、ありがとう』
そう言って、兄は私の頭を優しく撫でてくれた。
この幸せな日々が、永遠に続く。
そう幼い私は、思っていた。
――――――でも。
『兄さんが?』
私は、病状が悪化した為、入院する事となり、
1か月過ぎた頃、兄さんが失踪したと、
父から知らされた。
私は泣き崩れた日々が続く―――。
それから10年が経過した。
~・~・~・~・~・~・~・~
二〇一〇年十一月六日 午後一時九分
神奈川のとある大学―――。
「またそのルービックキューブ?」
「ルービックキューブじゃないって」
私は今、友人と大学の文化祭に
参加している。参加出来ているという事は、
白血病を克服する事が出来たという事になる。
私は運よくドナーが見つかり、
手術とリハビリを繰り返す長い闘病生活を経て、
今では完治と言ってもいい程、元気になった。
走れるし、自転車にも乗れる。
―――そう、普通の生活を送れている。
今の高校も休む事なく通え、
大学見学も兼ねて、今此処に居る。
カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、ブー。
この音は、時計の秒針が動いている音ではなく、
私の両手で持っている
四角い“箱”から鳴っている。
この箱には、六面体の一面だけに、
1から9までの数字のボタンが
付いており、一つボタンを
押すごとに『カチ』っと、音が鳴る。
そのボタンを6回押すと、
不正解を現しているのか『ブー』っと、鳴る。
―――謎の箱。
この箱は、兄から貰った“最後”のプレゼント。
私が、入院する当日。『私が淋しくないように』
っと、くれたモノだった。分からなくなったら、
次に会う時に、ヒントをくれると言ったが、
―――結局それは叶わなかった
なので、私は隙をみては、今でも箱を触っている。
そう、私は諦めが悪い―――。
文化祭の
私は必死に、ボタンを押し続ける。
ブー。
「またダメか」
「あれ?それって
“クルーボックス”じゃないか!」
「クルーボックス?」
思わず、聞き慣れない単語をオウム返しする私。
声の主に視線を移すと、そこには黒いスーツの
男性が、嬉しそうに私の箱を見ていた。
「あぁ、一言で言えば立体パズルゲーム。
論理思考に
だから、残念だけど、適当に押しても
永遠に解けないよ」
「な、成程」
「ぐぬぬぬ」っと、箱を睨みつける私に、
黒いスーツの男性は、「よかったら、解いても?」
っと、提案。私は、自然と箱を彼に渡す。
「ふ―――む」
彼は、箱の六面体を一つ一つ確認する。
一通り、確認を終えると、箱を見つめたまま、
右手をチョキの形にして―――。
「貴女に、2つの質問がある。
1つ目は、この箱の製作者と君の関係。
2つ目は、君の生年月日を―――。
ああ、もし嫌なら―――」
「それで、解けるのなら―――」っと、
私は、彼の質問に答えた。
1つ目は、“
2つ目は、1992年の1月5日と答えた。
すると、彼は「ありがとう」っと、返事すると、
ボタンを押し始めた。
カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、ポーン。
最後の音だけ、今までと違った音が鳴った。
―――カチャ。
箱が少し動いた。彼は、箱を開ける事なく、
私にそのまま箱を返してくれた。
箱の中には、1枚の紙と1つの鍵が入っていた。
「ど、どうして?」
「箱の1面に、“
「た、確かにそうですけど、だからって―――」
「君のお兄さんの心中を考えてみた時、
“自分ならどうするか?”っと、
トレースした時。君が絶対知っている。
且つ、数字で構成された番号を考えた」
「も、もし、生年月日に“0”があったら
どうしました?」
「それはないかな」
「何故?」
「何故ならば、それは―――、
“君の為だけ”に作ったモノだからね
それ以上、複雑にするとは思えない
少なくとも、自分ならそう思った」
「――――――」
私は、彼の自信に満ちた説明に、
言葉を失った。隣で終始聞いていた友人も
呆然としていた。
「コラ!和樹君!」
急に、女性の声が黒スーツの彼に呼びかけた。
彼女は、ショートヘアーでオレンジ色の髪
をしていた。特徴的なのは、サークル名なのか、
長々しい文字が書かれた旗を左に持っていた。
「ああ、美幸さん、すみま―――」
彼の言葉を終えるより先に、
彼のネクタイを彼女は右手で引っ張る。
「謝る暇があったら、早く来なさい!
先輩たちが待っているわよ!」
美幸と呼ばれている人は、そのまま、
彼を引きずって視界からすぐに、消えて行った。
唐突に現れ、唐突に消えた2人。
「オカルト研究第七支部?」
友人がポツリっと、呟いた。
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