第4話 もっと時間がゆっくりになればいいのに

 夜、みのりは自室でのベットで仰向けになって天井を見つめていた。

(せんせーがもし心の声が聞こえるなら……)

 ぼーっとしていると携帯から着信音が鳴る。

「もしもし?」

「みのり。明日放課後空けときなさい!」

 声の主は紗希だった。

 一瞬学校の日程を確認するが、特に何も浮かばず質問してしまう。

「何かあったけ?」

「何か無かったら誘っちゃいけない訳?」

「? どゆこと?」

 電話越しに伝わっていない事が分かった紗希は大きくため息を吐く。

「明日、私と一緒に出かけるって事」

「あ〜何だ、そういう事か!」

 手のひらにポンと手を置くみのり。

「それじゃあまた明日」

「うん! また明日ね〜」

 電話を切り、暗くなった画面を見つめる紗希。

 そして予定帳のアプリを開き、4月12日にハートマークをつける。

 しばらくその日を見つめ、顔を赤らめるみのり。

(よし、練習しとこ)


 翌日

「おはよ〜、紗希」

「……おはよ、みのり」

 外に出ると何やら少し眠たそうな顔をしている紗希。

(緊張して寝れなかった……)

「寝不足? お肌に悪いよ〜」

「……」

 いつもなら何かしらの反論が返ってくるが今日はそれがない。

 不思議に思いみのりは紗希に気がつき、顔をグッと寄せる。

 そしてお互いのおでこをくっつけ始めた。

「なっ!」

「ん〜、熱は無いみたいだけど。大丈夫?」

 ようやく正気に戻り、焦り出す紗希。

「だ、大丈夫よ! ほら行くわよ」

「は〜い」

(良かった。いつも通りの紗希だ)


 私立御影高校

「おはようございます」

 正門には複数の教師が生徒に対して挨拶を行なっていた。

 その中にはゆかりの姿も。

「あっ、おはようございます! せんせー」

「……おはよう、天野さん」

(せんせー今日も可愛い! あのクールな感じとか特に!)

 寒気が全身を襲う。

 だが、目線の先にいるみのりは普通の顔をしていた。

(やっぱりそうなのかな?)

 後ろを何度か振り返りながらゆかりをチェックするみのり。

 心の疑問が一歩ずつではあるが着実に確信へと変わる。

 そのまま何事もなく、みのりたちは下駄箱へと向かっていった。

 みのりたちの姿が見えなくなり、ゆかりは安堵の息をする。

(また昨日みたいな事にならなくて良かった。だけど……)

 そう警戒するゆかりだったが、その日は何事なく過ぎていきあっという間に一日が終了した。

「行くわよ、みのり」

「うん!」

 二人はゆかりに話しかける事なく、教室を後にし始める。

 不思議そうな顔をするゆかりを帰り際に見つめる紗希。

(そりゃ気にするわよね。次の日に何とも無いなら)

 下駄箱を抜け、二人は駅へと向かった。

「それでどこに行くの?」

「黙ってついて来なさい」

「え〜教えてくれてもいいじゃん」

「はあ。楽しみは取っておく。常識でしょ」

 切符を購入し、ホームで次の電車を待つ。

 その間に他愛も無い話で盛り上がり、周りから見れば二人は普通の女子高生だろう。

 長く感じる待ち時間も友達といれば一瞬で過ぎ去っていく。だからこそその時間は永遠ではない。

 それを噛み締めながら電車に揺られる二人。

「何だか久しぶりだね。こうやって二人で出かけるの」

「そうね」

「私たち、どんどん大人になっていくね」

「まだ高校生よ」

「そうだけどさ。なんていうかこの時間もいつかは思い出になるんだって思うと……」

 すると電車が大きく揺れ、紗希がみのりの方に重心を傾けてしまう。

 それを抱き抱えるみのり。

「大丈夫?」

「……え、ええ」

(私にとっては思い出でも、全部一生消えない思い出よ)

「もっと時間がゆっくりになればいいのに」

「ほんと、そうね」



ーーー

次回更新は4月21日予定です。

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先生!私のこえ聞こえてます? 穂志上ケイ @hoshigamikei

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