第3話 心の声が聞こえる?

 4月11日

 外で俯きながらみのりを待つ紗希。

「……」

(明日、もう一度せんせーに思いを伝えてみる)

(そう、好きにすれば……)

 昨日の事を思い出し、小さくため息を吐く。

 そしてみのりの家の玄関が開くのをソワソワと待っている。

 重い扉が開き、元気よく飛び出してきたみのり。

「おっはよ〜、紗希」

 いつものみのりだと少し安心した表情を出すが、すぐに切り替え表情を固くする。

「おはよ……」

「も〜どうしたの? 朝から元気ないじゃん」

「別に」

(誰の所為よ)

 そっぽを向く紗希。きっとこの心情はみのりには伝わらないのだろう。

「ほら、行くわよ」

「はーい」


 私立御影高校

 教卓にはゆかりの姿があり、今日の連絡事項を話している。

「早速ですけど今日から授業が始まります。高校生としての自覚を持って生活してください。以上」

 話が終わると「いきなり授業かよ」や「頑張るぞ」などといった言葉が教室中に飛び交う。

 気が抜けたのか、みのりは大きな欠伸をする。

 欠伸で出た涙を拭き、ある行動に移る。

(よし、せんせーに話かけるぞ)

 意気揚々とし、立ち上がるみのり。

 しかしゆかりは早々と教室を後にする。

 追いかけようとするが、別の教師が入ってきて道を塞がれてしまう。

「あ、あの。せんせー」

 だがその声が届くことはなく。

「授業を始めますよ」

 と入ってきたお爺ちゃん先生に止められてしまう。

 仕方なく、自分の席へ戻るみのり。

(……まだチャンスはある! 次こそは)

 昼休み

(そういえば今日、せんせーの授業ないじゃん……)

 机にぐったりと俯くみのり。そこからは負のオーラが飛び出しているように見える。

「ちょっと不幸オーラ出過ぎよ」

 上を向くと心配そうに紗希がこちらを見ている。

「何だ、紗希か」

 再度俯くみのり。

「何だって何よ! せっかく人が心配してきてあげたのに」

 そう言ってその場を立ち去ろうとする紗希。

 しかしみのりはある匂いに気がつき立ち上がる。

「この匂いは……メロンパン!」

 紗希がっ持っている紙袋を指差すみのり。

「これは私のお昼よ」

「一口ちょうだい!!」

「駄目よ。それにみのりは私をお呼びじゃないらしいし」

「そ、それは。……ごめん」

 しゅんとなり、下を向くみのり。

 その表情は少し泣きそうになっている。

「はあ〜。しょうがなー」

 しかし話を遮るように教室にゆかりが入ってくる。

「天野さん。ちょっといいかしら」

 突然の出来事に固まってしまうみのり。

「天野さん?」

「は、はい! 行きます」

 廊下へ向かう二人。

「せんせー、急にどうしたんですか?」

 恥ずかしそうにモジモジするみのり。

 それを見て少し呆れているゆかりだが、すぐに切り替え本題に入る。

「今日お二人の先生方から注意が来ています」

「注意、ですか?」

「開始早々の居眠りや、授業参加意欲の低さ。初日なのでお咎めなしですが、お昼の授業から気をつけてください」

 予想外の話に言葉を失うみのり。

 そして言葉を振り絞り消えるような声で「はい」と答えた。

 職員室へと戻ろうとするゆかり。だが。

「せんせー!」

「……何ですか?」

「せんせーは本当に彼氏いるんですか?」

「また、その話ですか?」

「私せんせーの事諦めてませんから。それでどうなんですか?」

「いますよ。ちゃんと」

「なら、写真を見せてください!」

「それは出来ません。私のプライバシーですよ」

「じゃあ他の先生に聞きます」

「尚更駄目です。他の先生方にご迷惑をかけてはいけません」

 何を言っても拒否され、少しのイラつきと焦りがみのりを蝕む。

(じゃあどうすれば……。私はせんせーの事が好きなだけなのに)

「もういいですか? 私も他の業務があるので」

(せんせーが私に教えてくれないのは、生徒だから? 教師と生徒の関係が邪魔してる。だったら私がこの学校を……)

「それは一番駄目です!!」

 思わず声を荒げるゆかり。

 しかしハッとして自分の口を塞ぐ。

「私、何も……」

 ゆかりはその場を急いで立ち去っていった。それは急に声を荒げ、恥ずかしくなったのか。それとも仕事の為戻ったのかは分からない。だがみのりの心にある仮説が出来上がる。

(心の声が聞こえる?)


ーーー

次回更新は4月20日予定です。早まる場合もございます。

更新をお楽しみに!

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