第2話 私を選びなさいよ
ぼーっとし、フラフラと玄関から出てくるみのり。
それを心配そうに、だけど目は少し呆れながらも紗希は付き添っていた。
「……いつまでいじけてるの」
「だって。だって〜」
(まさか、みのりがここまで落ち込むなんて)
我慢していた涙が溢れ出し、反動で紗希に抱きつく。
普段なら嫌がるが、いつもとは違うみのりの姿を見て半ば諦めているのか何も言わない。
すると校門前でみのりの母親が待っていた。
「遅かったわね、みのり。紗希ちゃんも」
「こんにちは」
「う〜、お母さん!!」
紗希から離れ、今度は母親に抱きつく。
その姿を見て、まだまだ子供なんだなと心底安心していた。きっとどれだけ年齢を重ねても子供は子供のままであると。
よしよしと頭を撫でる母。
「何があったか知らないけど、お昼食べに行きましょ。話はそれからよ」
「ぐすん。……うん」
「紗希ちゃんも。お母さんからよろしくって言われてるから」
「……ありがとうございます」
職員室にて。
入学式が終わり、次の準備などで忙しく駆け回る教師たち。そんな中自分の席で難しい顔をするゆかり。
「……せい。……せんせい。早瀬先生」
名前を呼ばれびくりとする。どうやら周りの声が聞こえないほどに何かあったのだろう。
「金剛先生」
「どうかしたんですか? 暗い顔をして」
慌てて鏡で自分の顔を確認する。しかし自分が思っているよりも普段と違いが分からず、金剛に尋ねる。
「そんなに酷い顔してました?」
「まあいつもよりは。明るく元気な早瀬先生が普段なので」
周囲にはそんなふうに自分が見えているのかと内心ほっとするゆかり。
だがそれ以上に先ほどの出来事を引きずっている自分にショックを受けていた。
「一年生の担任不安ですか?」
「いえ。初の一年生ですけど楽しみの方が勝ります。ただ……」
「ただ?」
数秒考え込むゆかり。しかしそれを口にすることはなくある決心をする。
「……自分の問題なので。私だけで解決します」
「そうですか。でも無理だけはしないでくださいね。みんな早瀬先生のことを心配すると思うので」
「はい、ありがとうございます」
金剛はある物を机に置き、自分の席へ戻って行った。
(コーヒー。まあずっと言ってたし。有り難く頂きます)
コーヒーに向かって拝むゆかり。それを自席から見てくすりと笑う金剛だった。
缶を開け、口に流し込む。
(それにしてもあの子、まるで昔の私にそっくり。でもこのままだと……。うんん、そうならない為にも私がしっかりしないと!)
心に強い決心を宿したゆかり。だが、この選択は後に自分自身を苦しめることになるとは知るよしもない。
みのり宅
紗希が目を覚ますとみのりのベットの上だった。隣にはすうすうと寝息を立てるみのりの姿が。
(確かお昼を一緒に食べて部屋で泣きまくるみのりを永遠と慰めてたら……)
納得する紗希。
ベットから立ち上がり、部屋を見渡す。
数十冊の恋愛漫画と可愛らしいぬいぐるみが主体の部屋になっている。
(あの頃と変わってない)
机の上にある写真立てを見る紗希。
そこには幼少期の二人の姿が。みのりは元気いっぱいにピースをしていて、その反対に紗希は目線を下にしてやや控えめのピースをしている。
写真を持ち上げそこに写る自分をそっと撫で、ポツリと呟く。
「変わってないのは私も一緒か……」
「ん……紗希?」
ベットの方でみのりがモゾモゾと動き出す。それに驚き、写真を急いで机の上に戻す。
「やっと起きた?」
「……」
だが返事はなく、しばらくぼーっと下を見ている。そして。
「私決めた!」
「何を?」
「先生の事絶対諦めない!」
「彼氏がいても?」
「うん。だってそんな理由で断られても納得出来ないし」
心底呆れる紗希。だがそんな心とは裏腹に。
「そう、頑張りなさい」
「うん!頑張る」
ベットから立ち上がり、気合を入れるみのり。
(そんな叶わない恋をするよりもっといい人がいるのに)
でもそんなことを言ってもきっとみのりの心は変わらない。
そう分かっていてもある思いが込み上げてくる。
(私を選びなさいよ……)と。
ーーー
次回更新は4月8日です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます