第39話 EP5 (8) クララの憂鬱 

 ウォード達はクレアの実家で、差し出された飲み物を飲んでくつろいでいた。やがてキッチンの方でクレアと母親のクララが何やら話をし始めた。


 時々クレアのやや感情的な声が聞こえるが、何を話しているかはわからない。あまり雰囲気は良くなさそうだ。妹のクロエは事情を知っているのか、おもむろに言った。


「さーてと、少し散歩に行かないとね。クラリス」

「あ、もしよろしければ、私もご一緒しますよ」

 ニーモがクロエに申し出た。

「ありがとう。行きましょう」


「俺は別室にいるかな、気分を変えて」

 ザックも言った。そしてウォードにウインクする。暗黙の了解で、この場はウォードにまかせるということだ。ウォードもすぐに察して頷いた。


 クロエがザックに言う。

「すみません。姉の部屋を使ってください。今は物置になっていますが」


「コロ、ウォード達のサポートたのむ」

 ザックがコロに耳打ちしてリビングを出た。

 

 クロエとニーモが家を出た。マメも付いて行く。

 リビングに一人残ったウォードは、恐る恐るキッチンの方へ行く。


「あの~、もし良ければこちらで話しませんか?」


 母親のクララは項垂れている。クレアは少し涙目になっていてウォードを睨んだ。ウォードは少し腰が引けたが、クレアの反応を待った。


「いいわ、行きましょう。お母さん」


 ふーっ。人の家族関係に踏み込むのは、精神科医でも少し気が引ける。


 三人でテーブルの周りに座るが、最初は沈黙である。少し離れたところにいるコロがウォードに進行を催促した。しびれを切らしてウォードが口火を切った。


「あの、何かお困りごとですか? よければ話を聞きますよ」

 クレアが一度深呼吸をしてから口を開いた。


「お母さんがね、ここ数年ずっと落ち込み気味なの。持病はあるけど入院するほどでは無いし、まだまだ若いんだからもっと元気出さなきゃダメでしょって言っていたの。孫ができたんだし、いつまでも暗くしてたらクロエにも影響しちゃうよって」


「……」

 クララはうつむいたままである。ウォードは自分の専門能力を発揮することにした。二人を良く観察して、まずクレアに言った。


「クレア、状況はわかった。ここは僕に任せてくれないか? お母さんと話をしてみるよ」

「ぜひ、お願いするわ。じゃあ私は別の部屋にいるからね」


 クレアはそう言ってリビングを出て行った。元の自分の部屋に行ったらザックが居たのでびっくりした。


「よう」

「何で、ザックがこの部屋に居るの?」

「邪魔しないようにな。妹にここがいいって言われたんだ」


「クロエとニーモは?」

「散歩に行ったよ。おまえ声が大きいんだよ。みんないたたまれなくなったんだよ」

「ちぇっ」

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