第33話 EP5 (2) 薬草採集

「あった。これが幻のモリッツデイジーだ」


 青く可愛い花はここモリッツ周辺にしか咲かない珍しい薬草なのである。ウォードは十株ほどあるモリッツデイジーの一株を土ごと採集してケースに入れた。彼の信条として、貴重な薬草は必要最小限しか採取しないことにしている。ウォードはそれが自然にあることが極めて貴重であることをきちんと理解しているのである。タートルに戻ってきたウォードにニーモが訊く。


「それって何に効くの?」


「ああ、ニーモ起きていたか。これはモリッツデイジーと言って貴重な精神安定剤に使えるんだ。クレアに教えてもらったんだ。これは生きたままアトランティスまで持って行って、分析もするが、栽培できるかトライする」


「枯れてしまうんじゃない?」

「この採集ケースに入れておけばしばらくは大丈夫なはずだ。少しかさばるけどな」


 既に同様の採集ケースは五個ほどある。使用前は折りたためるが、植物を入れるとそれなりにスペースを取ってしまう。ザックが冷めた目でウォードに言う。


「この調子じゃ、アトランティスに着く頃にはケースだらけになるな」

「増えてきたら途中で郵送するよ」

「どこに?」

「アトランティスに知り合いは結構いるさ。故郷だからな。でもきちんと管理してくれるか心配だからなるべく手元に置いておきたい」

「好きにするといいさ」


 そう言うとザックは再び眠り始めた。


 ◇ ◇ ◇


 一行は途中で休憩のため、簡易宿泊所で休むことにした。結構大きな建物で、ウォード達だけで休める部屋を借りることができた。薬草のケースが占めるスペースの件についてコロがニーモに思わぬ提言をした。


「ニーモ、何かスペース対策を考えてみたらどうだ? 要は枯れなければいいんだ」

「どうして私が薬草の事を考えなければいけないの?」

「ヒーラーだからだ」

「は?」

「お前たち人間は、植物を生命だと思ってないだろう。こうやってアホ学者に強制的に持っていかれる薬草の気持ちになったことはあるか?」


 ウォードが嘆く。

「アホ学者は無いだろう」


 ニーモが顎に手をやり少し考える。

「植物も生命……?」


「そうだ、俺はこいつらの気持ちを感じることができるんだ。こう言っているんだぞ」

「きゃあ、変なおじさんに私、掘り出されてしまったわ。貴重な私をどこに連れて行くの? ああ仲間達、これでお別れよ。私は薬にされて人間に食べられるの。いやああ」


「……コロ、お前演技上手だな」

 ウォードが妙に感心した。


「コホン、大したことは無い。とにかく! 植物の身になって考えてみろ」

 無茶ぶりとは思ったが、ニーモは考えてみることにした。


「うーん。小さくすればいいのね。でも自分以外にはやったことはないからなあ」

「やってみろ」


 すると、ウォードが慌てて注意した。

「ニーモ、やるのはいいけれど、失敗しないようにくれぐれも慎重にやってくれよ。何せ貴重な薬草ばかりなんだからな」


「えー、プレッシャーかけないで。やだなー、もう」

 ニーモはそう言いながらも、薬草に手をかざして意識を集中する。数秒後に薬草が少しずつ小さくなっている。


「おお……」

 ウォードが感心する。十秒程度かかってニーモが処置を終え一息つく。


「ふーっ」

 薬草は三分の一くらいの大きさに縮んだ。

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