エピソード5 過ぎゆく時よ

第32話 EP5 (1) ザックの相談、ウォードの薬草

 ―― エピソード5 過ぎゆく時よ ――



「なあ、コロ。例の話だけど、いい方法ないかな?」


 ザックが普段見たことがないような低姿勢でコロに聞いている。ウィズモアを出発して間もなく、ザックはコロにある相談をしていた。コロは背もたれのある椅子でくつろぎながら返す。


「そんなん、どうでもいいだろう。本人に努力させろよ」

「そう言うなよ。なにか知恵を貸してくれないか?」


「おまえがそういう事言うの、珍しいな。さては惚れたか?」

「そんなんじゃねーよ。頼む」


 ザックが懇願するとコロは折れた。


「仕方ねえな。そうだな、こういうのはやっぱりベテランのヒーラーに聞くのがいいんじゃないのか? メルに聞いてやるよ、ちょっと待ってな」

「ありがてえ。たのむぞコロ」


 コロはメルを呼び出し、事情を話した。メルは興味津々でコロから話を聞いて喜々とした。


「へえ、ザックがねえ。楽しそう。そう言うのはオーソドックスに対応するのが結局一番いいのよ。例えばね……」


 メルはコロに細かくアドバイスをした。


「なるほど、その後にニーモに処置をさせればいいわけだ」

「そ、簡単でしょ」


「簡単かどうかはわからんが、やり方はわかった。ありがとうよ、メル」

「どういたしまして、ウォードとニーモによろしく。じゃあまた」


 メルは未来に帰って行った。

 この人達はいったい何の話をしているんだろうか?



 ◇ ◇ ◇



 ウォード達は次の目的地へ向かって、バトイディア(飛行船)とタートル(低速自動車)と徒歩を組み合わせてノースランドへの移動中であった。タートルにウォードとザックとニーモが乗っている。小人のコロと子犬のマメもいる。今回はクレアも一緒だがこの日は寝坊のため後で合流する予定。


 ノースランドはエリモアから見て北西方向に遠く離れたところにある広大な山岳エリアだ。ヨーロッパアルプス山脈を想像して欲しい。そこと同じように自然あふれる風光明媚な場所である。このエリアには大都市こそ無いが、小中規模の街が点在している。タートルはノースランドエリアの入口にあるモリッツという街へと進んでいた。


 遠くにそびえる山々、道の周辺は緑と花に囲まれ石造りの塀や質素な家が点在している。標高がやや高いためか、涼しくて爽やかである。地上から浮いて進む自動運転のタートルは揺れがほとんどなく、心地よい微風がニーモ達を眠りにつかせている。グレーズドケースはニーモを包み、彼女に安らぎを与えている。一人ウォードだけが周りを真剣に眺めている。


 やがて、ウォードが突然タートルのシステムに告げた。


「停めてくれ」


 タートルがゆっくり停止する。ザックが目を覚ます。ウォードは携帯用の採集ケースを持ってタートルを降りた。


「ちょっと薬草を採集して来る」


 ウォードはそう言うと、斜面の方へ歩いて行った。マメが尻尾を振って後を付いて行く。ニーモも目を覚ました。


「ウォードはどこに行くの?」

「また、いつもの雑草取りさ」

「ふーん」


 ザックはバカにしたように言っているが、実際にはウォードはその土地でしか取れないような貴重な薬草を都度採集している。彼は精神科医として先端的な治療に取り組んでいる他に、新しい自然薬剤の開発をするために薬草を収集しており、その熱意はマニアと言えるほどなのである。わざわざノースランドを経由している大きな理由の一つがこの薬草収集なのである。



 (続く)

 -------------------------------

 いつもお読みいただきありがとうございます。

 ストックが想定より早くできましたので、投稿を再開いたします。

 当面、週に3,4回の更新となると思います。

 次回以降は朝の更新を予定しております。  /三杉 令

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る